1話:白い彼女
彼女と出会ったのは、親の仕事の都合でこの街に引っ越して来た時の事。
かなりの人見知りであった俺を、引越しの挨拶か何かで会ったのを皮切りに、あちこち連れ回すようになったのだ。
性格のこともあり、転校した学校に馴染めないでいた俺を、近所の公園やら愉快なおじちゃんが店主を務めるお惣菜屋さんなど、彼女曰く、”街の名所”を案内してくれたりした。
それからというもの、偶然な事に転入した小学校、続いて中学高校と同じ学校になり、流石に大学からは別々になってしまったものの、家が隣同士ということもあり頻繁に顔を合わしていた。
つい先日も、仕事がない日を見計らいカフェで世間話をしたりしたものだ。
けど_____
「………」
あの日を境に、彼女とは言葉を交わすことも、共に街を歩くことも出来なくなってしまった。
なぜなら、彼女が、長方形の木箱に横たわるもの言わぬ”物”と、なってしまったから。
「どうして…君が…」
呟く僕の前で横たわるその姿は、鮮やかな花に囲まれ、まるで童話に出てくる眠り姫のようでもあった。
「………」
長い、長い経が終わり、やがて、式も終わりを迎える。
その途中、ふと隣に目線を動かしてみた。
こういう、何かしらの集まりがある時。彼女は必ず僕の隣に座っていた。まるで、私が居なくちゃダメなんだから…と、子どもときのままの柔らかい笑顔とともに。
「……」
しかし、その姿はもう無い。
代わりに、ぼやけた視界の先___満面の笑みを写した1枚の写真だけがぽつんと飾られている。
…もう二度と見ることの出来ない、笑顔である。
「……」
蠢き出す周りの人々の中、1人席に座ったままの僕。
学生時代の友人に声をかけられたが、僕はどうしても彼らと戯れる気にならなかった。
式場の隅では、彼女の両親と僕の両親が言葉を交わす姿も見られたが、その輪に入りたいとも、僕は思わなかった。
「………」
1人の人間の死。
この広い世界にとってみれば、そんなことは小さな事かも知れない。けれど、僕にとってそれは心を抉るような、半身を失ったような喪失感だった。
「………」
何も考えられない。考えていないはずなのに、涙が止まらない。
滲んだ視界の先、笑顔の彼女の写真と、黒い服を着た来場者がぼやけて写る。
「………」
そして、僕の視界に異変が起こったのは、その時だった。
「えっ……?」
確かに居る喪服の人間たちの合間に、白い人影が歩いて行く。
「………」
涙を袖で拭き取り、もう一度、目を凝らす。すると____
「な……」
それは、いや……それらは、人間だった。
紛れもなく、人の形をしていた。
「………」
歩いている。歩いている。前を通り過ぎ、影からふと現れ、その辺の床に座ってもいる。
「……」
やはり、見間違いなんかじゃない。これは___
「幽……霊……?」
そう呟いた僕は、ふと、彼女の眠る箱へと目を向ける。
「……!」
そこには、棺に腰かけ脚をぷらぷらと揺する人影。
「……な…お…? …奈央なのか…?」
そんな僕の言葉が届いたのか、遥か遠くを眺めるように上を向いていた彼女は、ゆっくりと視線を僕へ向ける。そして_____
「……ッ!」
彼女の目と、僕の目とが、互いを写し合う。
途端、凍りついたように静止する僕に、彼女は届くはずのない声で___聞こえてはならないはずの声で、確かにこう言った。
『…私が視えるの? 礼?』
「____っ!」
その唇が確かに動いたのを、僕は、見逃さなかった。
coming soon…
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