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Final.

間もなくお嬢様は、少女の左手を握り締めたまま愛らしい寝息を立てて眠ってしまった。

セラがお嬢様にタオルケットを掛けて上げている。

セラもかなり眠そうだが、壁際の椅子に腰掛けて欠伸をかみ殺しながら耐えている。

「セラ、キミはもう休め。朝が辛いぞ」

俺の言葉にセラは頭を振る。

「お嬢様がベッドに入ってお眠りにならない限り、私がベッドに入るわけには行きません。

 それより、ベアこそ大丈夫なのですか?昨晩、雑魚とはいえあれほどの人数を

 叩きのめしているのですから運動量は結構有ったのでは無いですか?」

「…まあ、俺はこういう状況(コト)には慣れているからな」

セラがマジマジと俺の顔を見ている。

「…ベア、もし宜しければ貴方の今までのお仕事や人生について

 少しでもお話して下さいませんか?貴方は、ただのボディガードとは

 一線を画していると思えるのです」

俺はセラの目をじっと見詰めた。

そこには興味本位と言うよりも、お嬢様の身を護る人間として

同僚の正体を知って置きたい、という気持ちが読み取れた。


「…少しだけならな。俺は実は日本人だ」

「えっ!」

いきなりセラが驚いている。

「ご、ごめんなさい。続けて」

「その前に、俺が日本人じゃおかしいか?」

「…日本人からは、貴方の様な匂い…そうね、言うなれば火薬の匂い、

 とでも言う危険な匂いは一度も感じた事が無いから…」

遠慮がちに言うセラ。

「なるほど。まあ大多数の日本人はそんな感じだな。

 だけど俺はそれが退屈だった、命を掛けて、世界中を廻ってみようと思った。

 その為には何が必要か。どんな危険な国や地域に行っても

 生き残れるだけのスキルが必要だ。

 そのスキルとは、戦闘能力、生還能力、技術力に大別される。

 そしてそのどれが欠けても生き残る事は難しくなる。

 だから、それを鍛える為に就職先に軍隊を選んだのさ」

「それで、その匂いが染みたって訳ね」

セラが感心する。

「ああ。だがな、軍隊で身に着けた能力は強靭だが、生き残った人間は

 退役してからもその能力を発揮できる職を探しちまう。

 そして色んな仕事をして給料(サラリー)を貰う様になったのさ。

 で、行き着いたのがこの仕事って訳だ」

「なるほど、ね。でもこのお屋敷に勤めた切っ掛けは何?」

俺はふっと笑い、「それはな…」とセラに説明を始めようとした時のことだ。


「う…ん…」

黒髪の少女が呻きながら目を開けた。

「痛っ!」

声を上げて苦しそうに目を瞬き、焦点を合わせている。

俺とセラが黙り、様子を見ていると自分の左手を握り締めたまま

眠っているお嬢様に気が付いた様だ。

頭を必死で動かしてお嬢様を見て、驚きの色を浮べている。

「ここ、天国、かな?」

俺とセラは噴き出しそうになったが、黙って我慢した。

その時、お嬢様もふっと目を覚ました。

「気が付いたのね…大丈夫?」

お嬢様が少女の手を握り締めながら問い掛ける。

「…ここは、どこ?あんたは、誰なの?」

少女はかなり戸惑っている。

「ここは私のお家。私は、アイシャ。貴女とお友達になりたくて、

 私の友達に貴女を助け出してくれる様にお願いしたの」

俺はその言葉に、胸が熱くなるのを感じた。

「…え?どういう事?」

少女は更に戸惑ってしまった様だ。

アイシャ様がこんこんと説明を始めた。

説明を聞いている内に、少女の顔が険しくなってくる。

やはり、少女は傷付いてしまった様だな。

さて、どうなるか。


「つまり、あんたは私を憐れに思って助けてくれたってワケね」

黒い瞳に燃える様な色を見せながら少女が声を絞り出す。

「違うわ、そんな積りじゃないわ」

「助けてくれた事には感謝してる。ありがとう…

 だけど、憐れみなんか欲しくなかった!あんたは恵まれたお嬢様。

 あたしは、あんたにとって野良猫みたいなモノなのよね!

 あたしはあんたなんか想像も付かない様な生き方をしてきたわ。

 処女(ヴァージン) を失くしたのは九歳の時。

 あんた、セックスって知ってる?

 あんたみたいなお嬢様はまだ言葉も知らないんじゃないの!?

 あたしのクソみたいな人生なんて想像つかないでしょ!」

汚い言葉で罵詈雑言を尽くす少女。

アイシャ様は悲しそうな顔をして黙っている。

俺もセラも口を出したいのは山々だが、お嬢様が黙っている限り

俺もセラも口を出すわけには行かない。

少女はしばらく怒鳴り散らし、苦しくなったのか肩で息をしながら黙った。

その時、突然アイシャ様の右手が一閃した。

少女の頬がパン!と音を立てる。

俺もセラも、そして少女も余りの事に言葉を失い固まった。

あのアイシャ様が、少女を引っ叩くとは…!


「ダメでしょ。助けてもらったときにはGrazie(ありがとう)って言わなきゃ」


アイシャ様はそう言うと、少女をぎゅっと抱き締めた。

「貴女は本当は優しくてか弱い娘。私には解るの・・・」

ルビーの様な深紅の瞳から、ダイアの様な涙を零しながら少女をを抱き締めるアイシャ様。

少女の漆黒の瞳からも涙が零れだす。


「えっ…ふえっ…!うあーーーーーん!!」


少女がまるで子供の様に声を上げて泣き出した。

アイシャ様は更にぎゅうっと力を込めて少女を抱き締める。

そして、俺とセラも瞳から涙をポロポロと零してしまっていた。

「ベア、貴方はやっぱり優しい熊さんなのね」

セラが俺を見ながらからかう様に言う。

「…ほっとけ」

俺は一言だけ言い返す。

それ以上言葉を出すと、涙声になってしまいそうだったからだ。


その後、マキと名乗ったその少女は屋敷に引き取られ、

アイシャ様付きのナチュラルメイドになる事を決意してセラの指導の下で基本的な勉強を始めた。

俺とモンキーも護身術や一般常識などの教師として駆り出されてしまったのは計算外だったが…

元々頭は良かったのと、アイシャ様への崇拝に近い感情を持って必死で頑張り

マキは半年程でかなりの能力を身に付け、ご主人(マスター)の叔父上が学長をしている

日本の女子学園に特別生徒として入学する事になった。


まあ、マキを取り返しに来た不良仲間(チンピラ)を一掃したり、

その上のチンケなギャングと一悶着起きて結局俺とモンキーで壊滅させたりと

少々騒がしい事態も起こったが、それはまあ大した事じゃない。


そしてマキを日本へ送り出した後、セラと二人でパブでささやかな祝杯を挙げた。

モンキーはマキとマキの付き添いのメイドをを日本へ送り届ける為に付いて行った。

乾杯の後、「ねえ、あの時の質問の答え、まだ聞いてなかったんだけど?」

とセラに言われた俺は、「ああ、なぜ今の屋敷に勤めたかって事か?」と聞き返す。

ワインを飲みながらこくん、と頷いたセラに俺は答えた。

「俺がこの屋敷の前を通り掛ったとき、窓からアイシャ様が覗いててな、

 俺にウインクをしてくれたんだ。それで、一目惚れしちまってな」

呆れた様に肩を竦めるセラ。

本当の理由は、その内話せるだろうさ。


さあ、明日からまた、アイシャ様の為にガッチリ仕事するか!

「乾杯!」「かんぱーい!」

俺とセラは、俺達の女神(アイシャ)の為にもう一度乾杯をした。



フェルダムト!〜EP.00 ガーディアン・オブ・ミューズ 1〜


            〜完〜


Ending Image Song : Honesty

Artist : Billy Joel


Special Thanks to J.J


Presented by Shogo Hazawa



ご愛読ありがとうございました。

フェルダムト!シリーズはまだまだ多くのエピソードが有りますので、随時執筆予定です。

ご期待下さい!


また、ノクターンノベルズにて連載中の、本作と関連が深い拙作「真夏の夜の夢」も合わせてお読み頂ければ幸いです。

但し、「真夏の夜の夢」は18歳未満の方はお読みになるのをご遠慮下さいませ。


それでは、またお会いしましょう。


作者より、全ての読者へ感謝を込めて…




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