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戦国異聞  作者: 椎根津彦
飛翔の章
32/116

父と子

「また寄せて来おったわ。今川も飽きずにようやるのう」

乾作兵衛と服部小平太は扇川の中洲、中島砦にいる。

ここ最近、小競り合い程度ではあるが、今川勢が連日のように攻めてくるのだ。

中島砦に限って言えば、地の利は絶対的に織田方にある。

中島砦単体では、今川勢が扇川を北上、迂回して後方を遮断しないかぎり、包囲される事はない。また、迂回して包囲しようとしても、鳴海城があるため、鳴海城の手勢を無力化しない限り包囲は成功しない。


また大高道自体を中島砦で塞いでいるため、今川勢としては中洲に向かって強引に渡河せねばならず、川に入れば当然進撃速度は落ち、渡河中に撃ちすくめられて砦に取り付く事が出来ない。上流から筏を大量に流して扇川を覆いつくして接敵経路を拡げるか、犠牲を無視して攻めないかぎり、小競り合い程度では中島砦は落ちないのである。


「兵を練るのに丁度良い塩梅じゃ。こんな楽な戦は無いのう」

服部小平太は笑う。

小平太の言うとおり、兵の実地訓練に丁度いい。

取り付いた敵がいても少数であるため、すかさず小平太が手勢を引き連れ撃退し、殆どと言っていいほど損害をださずに済んでいる。

こうして少しずつではあったが寄せ集めであった鳴海勢は、中島砦を巡る小戦を重ねるうちに集団として成長していた。




 「一旗揚げたい奴はおらぬかあ。鳴海村に来れば出世も功名も思いのままぞ。百姓も店子も何でもござれ」

俺は那古野の市で声を張り上げる。鳴海の城主自ら求人募集だ。

戦力が足りない。戦力、要するに頭数が足りないということだ。が、雇うのには金がかかる。金を集めるには年貢で納められたお米を換金するか、自ら貿易を営むか、しか手が無い。

大金を手にするには沢山の年貢が必要で、沢山の年貢を手にするには税率を上げるか、土地の収穫量を上げるか、だ。税率を上げるのが論外ならば、開墾するしかない。公称五千貫文、表高一万石だが、実高をあげればいい。要するに農家の成り手を捜さなければいけないのだ。

 

 「お侍さま。わしゃ三河から逃げてきたんじゃが、元々百姓でのう。鳴海村でも米作って暮らしていければええと思うんじゃが。ええじゃろうか」

俺の言葉を聴いていた一人の男が、俺に声をかけてくる。

「おう、いいとも。どんどん来い。悪いようにはせぬ。他にもおったらどんどん世話役に声かけての」

武士になりたい者ばかりではない。百姓なら、百姓として納めるもの納めたら、あとは楽にすごしたい、と思う人間のほうが多いだろう。

それをきっかけに、俺の話を聞いていた者たちがどんどん声を掛けてくる。

鳴海を富まさねばならない。大忙しだ。








 ここは志賀城。久々に親父に呼ばれた。内輪ではなく、那古野のオトナとしての話かも知れぬ。であれば赤母衣筆頭のワシは行かねばならない。

…多分そうではないだろうが。


 「息災か」

親父は懐かしい過去をみているような顔をして言う。

「ハハ、いつも那古野で会うているではありませぬか」

「まあ、そうじゃがの。…せきのことは済まなんだ。この通り、謝る」

…驚いた。今までせきの事を認めることなど決してなかった親父が…。

「いえ、もう気にかけては居りませぬ。あれも鳴海に嫁ぎましたゆえ。左兵衛はあれを那古野に置いておりまするが。…もう終わったことでござる」

「左兵衛のもとに往ったか。それは重畳。家のためにも佳い事よ」

「…それは何ゆえにござるか」

多分ワシの思うて居る通りの答えが返ってこよう。が聞かずには居れない。


「左兵衛はもともとそなたの家臣、若の直臣並になったとは云え、我が家の与力同然じゃ。そこにそなたの妹が嫁ぐ。結びは深まり、よもや今川に寝返ることもあるまい」

「親父どの。ワシはせきをそのようなつもりで左兵衛のもとに嫁かせたのではない。勘違いなされては困る」

「判っておる。…癖じゃ。許せ」

おかしい。このような父ではなかった。どうしたのか。


 「父上。で今日の用向きは」

「おう、そうじゃった。ワシは隠居する」

なんと。

「…なんと申されました、父上」

「何度も云わせるな。聞こえておったであろうが」

「…聞こえておりました。が、何ゆえにござる」

「疲れたのよ」

「ハハ、何を申されると思うたら…。大殿に言うて、しばらく休まれるがよいではありませぬか」

「若はもう一人前じゃ。ワシはもう必要ない。今日より、そなたが平手の当主ぞ」

「当主になれ、と云われるなら、なりまする。が今父上が隠居なされたら、弾正忠家はどうなりまする」







 「義銀どの。迷惑かけたの」

「いえ、かけてよい迷惑にござりまする。が坂井大膳が五月蝿うござった」

「ハハハ、あれは目暗の犬よ、あっちに噛み付き、こっちに噛み付き」

斯波義統は笑う。

「那古野は、どうでござった」

「いや、侍も、商人も、地下人も。皆キビキビしておった。市も活気に溢れておる」

「清洲とはえらい違うようにござりますな。それがしも往ってみましょうかの」

「おお、それがよい。義銀どのの大好きな茶数奇の道具も、ちらほら出回っておったわ」

「それはそれは。が、これからは一人では動かぬほうが宜しいようで」

義統の背筋がピン、と伸びる。

 「何ゆえにござろうかの」

「昨日、大和守に言われました。『一人で那古野への遠乗りは危うござる』と」

「もう、ばれておったのか。ハハ」

「那古野行きもさることながら、大和守は、父上が一人になることの方を怖れておったようで。大膳めの抑えが効かぬのでしょう」

「まこと、噛み付くしか能の無い目暗じゃて。大和守も大変よのう」









 「今父上が隠居なされたら、弾正忠家はどうなりまする」

「荒れるであろうの」

「でありましょう。何ゆえ今なのでござりまするか」

「…膿をの、出し切るためじゃ。わしが退けば、勘十郎信行さまが大事な連中は、一斉に動くであろう。この那古野でもそうじゃ」

「で、ありましょう」

俺は頷くことしかできなかった。

間違えて、いらない文章が残ったままになっていました。訂正しました。

申し訳ありません。

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