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明治時代に転生したら秘密結社だらけだった件 〜ブラック企業出身の俺、10歳にして暗殺組織の幹部(笑)に担ぎ上げられる〜  作者: 斉宮 柴野


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第五話 凄い秘密結社なんですっ!

今回は、朗人が時守という組織の正体に少しだけ触れるお話です。

秘密結社らしいようで、やっぱりどこかおかしい監視任務をお楽しみください。

俺、拝原朗人と、我が担当連絡員であるつらね絡子らくこ(通称:連子)は、教室の窓の僅かな隙間から、校庭の様子を血走った目で監視し続けている。


視線の先には、相変わらず麦わら帽子を被った用務員、佐藤さんDの姿がある。

彼は昼休みからずっと、猛烈な勢いで校庭を掃き掃除している。


「サッサッ」という音が「ザッ! ザッ!」という高速の摩擦音に変わっており、竹箒が摩擦熱で発火するんじゃないかというほどの異常なペースだ。


あれが秘密結社『72時間働けますか』の構成員の、異常なまでの労働意欲か。

見ているだけで、前世のサビ残トラウマが呼び覚まされ、俺の情緒が不安定になりつつある。


「なあなあ、連子ちゃん」


俺は、隣で欠伸を噛み殺している連子に、ずっと心の底で燻っていた疑問をぶつけてみることにした。


「ずっと気になってたんだが、そもそもだ。『時守』ってどういう秘密結社なんだ?」


「外務省爆破を防ごうとしたり、かと思えばこんな過労死結社を監視したり……。やってることに一貫性がねえ気がするんだけど。ウチの組織の企業理念ってなんなの? ビジョンとミッションは?」


前世のサラリーマンなら、会社の理念くらいは暗記させられているものだ。

しかし、俺はこの組織に入れられてから、何一つまともな説明を受けていない。


「え? 知らないで所属してたんですか!?」


連子は、まるで「1+1の答えを知らないの?」と言わんばかりの、本気で驚いた表情を見せた。


「仕方ねえだろう! 気がついたら先代の四番が死んだとかで、いきなり地下室で勝手に任命されたんだぞ!! まともな新人研修すら受けてないわ!」


入社式もない、オリエンテーションもない、ただ「お前は今日から四番だ」の一言で命懸けの現場に放り込まれたのだ。

これで会社の理念を理解しろというのは、あまりにも理不尽だ。


「なんと……」


「選ばれし者しか入れない、誉れ高き名誉なことなのに……。組織の理念も知らずに番人を名乗っていたなんて」


この連子、真面目に不思議そうな顔で見てきやがる


俺が悪いのか? 入社式もオリエンテーションもないブラック組織で、何も知らない俺が変なのか!?

どう考えても、説明責任を果たしていない組織側(というか人事と連絡員)の怠慢だろ!


「ふふん、仕方ありませんね〜」


連子は、どこから取り出したのか、扇子をパチンと開いて口元を隠し、ニヤリと笑った。


「何も知らない哀れな四番に、この優秀な連絡員である私が、特別に教えてあげましょう」


「おお、やっとか。頼むぞ」


「我らが秘密結社『時守』とは!!」


夕日の逆光を浴びて、無駄に神々しいシルエットになっている。

そして、満面の、これ以上ないほどのドヤ顔をキメて、高らかに宣言した。


「……凄い秘密結社なんですっ!」


「…………」


あまりのアホらしさに、思考が数秒間フリーズする。


「うんうん」


「連子ちゃんが自分の組織を『すごい』と思っていることだけは、その腹立つ顔からよくわかったわ」


「わかりましたか??」


連子は、目を輝かせて俺に詰め寄ってくる。


「わからねーよ!! どこがどうすごいんだよ!! 語彙力が明治初期か!!」


「凄い秘密結社」ってなんだ。小学生の作文か。

前世でそんな自己PRを履歴書に書いたら、書類選考の段階でシュレッダー直行だぞ。


「それは……秘密です! だって秘密結社ですから!」


連子は、さも名案を思いついたような顔で、誇らしげに言い放つ。


何をやっているのかの説明が1ミリもね〜! 秘密主義を履違えてる!


身内に対しても秘密にしてどうするんだ!

情報共有が全くできていない組織は、確実に崩壊するぞ!


「なあ連子ちゃん!」


「俺、一応『時の番人』ってエリート特務部隊にいるんだから、組織の中では幹部クラスなんだよね? 幹部特権で、組織の全容に関する情報開示を要求する。コンプライアンス的に問題があるなら、誓約書でもなんでも書くから」


俺が理詰めで迫ると、連子は少し考えるような素振りを見せた後、あっさりと頷いた。


「はい。時の番人は実働の特務部隊なので、組織における最高戦力であり、幹部と言えますね。偉いですよ、朗人さん」


連子はそう言うと、俺の頭を「ヨシヨシ」と撫でようと手を伸ばしてきた。


「子供扱いすんな!」


その手をバシッと払い除ける。

中身は三十路のオッサンだぞ。十歳の外見に騙されるな。


「で、俺は組織のこと何も知らないんだけど……。そもそも、時の番人って全部で何人いるんだよ? 俺が四番で、この前会ったあの怪力巨乳のアネキが五番だよな?」


特務部隊の規模と構成員を知ることは、自分の立ち位置を把握する上で最低限必要な情報だ。


「えっと……」


連子は、なぜか自分の指を折りながら、ぶつぶつと何かを数え始めた。

「いーち、にーい、さーん……」


「結構います!!」


数秒後、連子は数えるのを諦め、元気よく答えた。


「知らねえのかよ!!」


自分の担当している特務部隊の人数も把握していないのか!

どんだけいい加減な連絡員なんだ!


「な、なに怒ってるんですか!」


「朗人さんが知らないことを、一介の連絡員である私が知ってるわけないじゃないですかー!」


「なんで逆ギレしてんだよ! お前が俺と組織を繋ぐ連絡員なんだろ!? 情報を教えろよ! 俺は何も知らねえんだよ!! 孤独だよ!!」


上司からの指示は絶対で、逆らえば命はない。しかし、組織の全貌は全く見えず、味方が何人いるのかすらわからない。

こんな孤独で不安な労働環境が、他にあるだろうか。


「なんと……」


わざとらしく首を振り、哀れむような目で俺を見た。


「自分の足で情報を集めようとしないなんて……アナタ………【怠惰】デスね!!」


連子は、首を異常な角度で傾け、両手をクネクネと動かしながら、奇妙なポーズを取って叫んだ。


「なんかいけないパロディネタぶっ込んできやがった!!」


そのセリフ、そのポーズ、完全にあの有名な異世界アニメの狂人キャラじゃないか!


「お前、絶対前世持ち(転生者)だろ!? どこの〇〇〇ギウスだよ!! 明治時代にそのネタはオーパーツすぎるだろ!!」


俺の必死のツッコミに対し、連子は「ペテル……? 何のことですか?」と、本気で不思議そうな顔をしている。

無自覚か。偶然の一致にしてはクオリティが高すぎるぞ。







◇◇









「コホン。冗談はさておき、真面目に説明しますと」


連子が、咳払いをして仕切り直す。

暗闇の中でも、彼女の死んだ魚の目はうっすらと光を反射しているようで不気味だ。


「私たちは『歴史を守るため』に戦うんですよ。歴史の逸脱を修正するんです。どうです、凄いじゃないですか」


連子が、ようやく「時守」の根本的な存在理由らしきものを口にした。


歴史を守る。

なるほど、名前の由来はそこから来ているのか。


「歴史を守る? じゃあ、その『正しい歴史』ってのは、誰が決めるんだ?」


歴史というのは、勝者が作るものだ。何が「正しい」歴史かなんて、後世の人間が結果論で語るしかない。


ましてや、現在進行形で歴史が作られているこの時代に、何が「正しいルート」なのかを判断するのは不可能に近い。


「お前らの中に、先の歴史を知ってる未来人でもいるのか?(俺みたいにな)」


暗に自分の正体(転生者)を仄めかしながら、カマをかけてみる。

もし組織の上層部に未来人がいるなら、すべてが繋がる。


「え? やっだ〜」


「朗人さんったら、今流行りのジュール・ヴェルヌのSF小説かなんかの影響ですかー? 未来なんてわかるわけないじゃないですか。想像力豊かですねぇ」


連子の反応は、全くの予想外だった。

未来人なんて信じていない、という至極真っ当な反応だ。

しかし、だとしたら。


「…………なら、どうやって『正しい歴史』を決めるんだよ」


「もちろん、『私たち(時守)』に決まってるじゃないですか」


「は?」


「私たちの上層部が『これが正しい歴史だ』と決めた通りに動かないものが悪です。異論は認めません」


「…………」


歴史を守るのではなく、自分たちの都合のいいように歴史を『作って』いるだけじゃないか。


「完全に歴史を私物化してる!! やっぱり秘密結社だ!!!」


「これ正義の味方じゃなくて、完全に悪よりの秘密結社だこれ!!!!」


自分たちの思い通りにならない歴史を「逸脱」と呼び、武力で修正する。

それはもう、歴史の守護者ではなく、歴史の独裁者だ。


俺は、とんでもない悪の組織に加担してしまっているのではないか。


「?? 何を言ってるんですか。最初から秘密結社『時守』と言っているのに……。朗人さん、耳鼻科に行きます?」


こいつ………多分、こいつ自身も自分の組織が何やってるか、根幹の部分はよくわかってないな。


連子の無知と盲目的な忠誠心に、深い恐怖を覚えた。

彼女は、上から与えられた「正義」を何の疑いもなく信じ込み、ただ言われたことをやっているだけの歯車だ。


組織の理念も、目的も、その矛盾も、何も考えていない。

こんな連中に、日本の歴史、いや、俺の命が握られているのか。







◇◇







本来なら、夜の学校というのは静かで、少し不気味で、誰もいないはずの場所だ。

しかし、俺たちの監視対象であるあの用務員(佐藤さんD)は、そんな常識をあっさりと覆してくれた。


彼は、夕方に校庭の掃き掃除を終えたかと思うと、一息つく間もなく校舎の窓拭きを開始した。


雑巾を持つ手が信じられない速度で動き、キュッキュッという摩擦音が途切れることなく響き続ける。


その後は、なんと屋根の上に登り、剥がれかけた瓦の修理まで始めている。

その動きはもはや人間技ではなく、俺の目には残像が見えるほどの猛スピードだった。

シュババババ! と、まるで忍者か何かの特殊部隊が任務を遂行しているかのような機敏さだ。


そして、驚くべきことに、その異常な労働は深夜になっても、さらに翌朝になっても止まることはなかった。


「で、俺は『72時間働けますか』のおっさんを監視してるんだが………マジか!!」


「マジでこのおっさん、72時間ぶっ通しで働いてやがる! しかも三時間家に帰っただけで、また普通に出勤して戻って来てるぞ!! 睡眠時間どうなってんだ! 脳の機能が停止しないのか!?」


俺の驚愕をよそに、ターゲットは爽やかな笑顔で花壇に水をやり、生徒たちに明るく挨拶をしている。

そして、その異常な働きぶりは、周囲の教員たちにも影響を与え始めているらしい。


「周りの教員たちに『鉄人』とか言われ始めてやがる……。あの人を見習え、みたいな空気になってきてるぞ」


………そうか、この時代は狂ったように働けば「勤勉だ」と無条件に尊敬されるんだな……。


現代(前世)なら、確実に「ブラック企業」「過労死ライン突破」として問題になるレベルの労働時間だ。


しかし、労働基準法も過労死という概念も存在しないこの時代では、自己犠牲を伴う過酷な労働は、むしろ美徳として賞賛されてしまうのだ。


ある意味で現代以上のディストピアだろこれ。


誰も自分の命を削っていることに気づかず、笑顔で死地へと向かっていく。

こんな恐ろしい洗脳が、この平和な学校で着々と進行しているのだ。


「で、連子ちゃん。監視してるけど、これからどうすればいいんだ? いつ踏み込む? さっさとこの過労死製造機をぶっ飛ばそうぜ」


これ以上、この男の異常な労働意欲を野放しにしておくわけにはいかない。

早く物理的に労働をストップさせなければ、日本の未来が危ない。


「とりあえず、監視を続けてください」


「は?」


「と言うか、上から『監視しろ』としか聞いていないので、私にもこの後の展開はわかりません!」


「相変わらず適当だな!!」


「だからなんで連絡員が何も知らないんだよ! 『監視しろ』って言われて、その先のアクションプランが何もないってどういうことだ! それで幹部(俺)がやる仕事か!? 暇すぎるんだよ!」


ただ双眼鏡で相手の仕事ぶりを見つめるだけの業務。

前世で言えば、エクセルのセルの色が変わるのを一日中眺めているような、虚無すぎる時間だ。


その時だった。


パチン。


連子が懐から取り出した、無駄に装飾の施された銀色の懐中時計を閉じる音が、静かな教室に響いた。


「あ、私は八時間労働なので帰ります」


「時守の通常職員は、八時間しか働けない決まりなので、もう帰らないといけないんですよ」


「あ??」


「残業は美学に反しますから。じゃあ、お疲れ様です!!」


連子はそう言うと、持ってきた茶器や謎の書類をそそくさと風呂敷にまとめ、完全に帰り支度を整え始めた。


「待てやこらあ!!」


「十歳の子供(四番)に24時間の徹夜監視労働を強いておいて、自分は定時退社とか許されるのかよ!! 幹部を舐めんな!!」


部下(俺は一応幹部だから上司だが)にサービス残業を押し付けて、自分だけさっさと帰る。


前世で俺が一番憎んでいた、あのクソ上司と全く同じムーブじゃないか!

絶対に許さない。お前も道連れにしてやる。


「え~と、たしかイギリスの工場法では『九歳未満の労働は禁止』みたいですけど、朗人さんは十歳だからギリギリ合法です!! セーフ!」


「どこの国の法律引っ張り出してきてんだ!! 日本はまだそんな法律ねえよ!! ならお前も残れや!! 暇すぎるから話し相手になれ!!」


暗くて何かが起きそうな夜の学校で、一人でオッサンの掃除風景を眺め続けるなんて、精神的拷問でしかない。


「え~!! 超過勤務ですよ……。だいたい、こんな夜中に……はっ!!」


連子が急に何かを思いついたように息を呑み、俺からパッと距離を取った。

そして、自分の胸元を両手でギュッと隠し、壁際まで後ずさる。


「業務外で……2人きりで夜の密室に残れだなんて……ってことは、朗人さんは私を手込めにするつもりで!?」


「はあ!?」


「この野獣!!」


連子は、顔を真っ赤にして(暗くてよく見えないが、おそらく)、叫び声を上げた。


「そんな気は毛頭ねえよ!!」


「十歳の子供に向かってなんてこと言いやがる!! てめえ、自意識過剰も甚だしいぞ!! いったいいくつだよ!!」


「女の子に年齢を聞くのはマナー違反です!!! セクハラです!!」


「やかましい!! 一人で監視なんて寂しすぎるだろ!! 残れ!!」


「嫌です!! 野獣!!」


「残れって言ってんだろ!!」


ギャーギャー、ワーワー。

俺と連子の、小学生レベルの不毛な言い争いが、静まり返った夜の校舎に容赦なく響き渡る。


隠密行動なんてあったものではない。

完全に近所迷惑な騒音である。





◇◇





そんな二人が大騒ぎしている二階の空き教室の窓を、校庭から見上げている人物がいた。

我らがターゲット、異常な労働意欲を持つ用務員、佐藤さんDである。


彼は手におなじみの竹箒を持ち、額には深夜の労働による爽やかな汗をかいている。


「ふぅ、今日もいい汗かいたな。……おや?」


佐藤さんDは、二階の窓から漏れ聞こえる騒ぎ声に気づき、手を止めて目を細めた。


『残れ!』


『嫌です野獣!』


窓からは、そんな物騒かつ誤解を招きかねない叫び声が、はっきりと聞こえてくる。

普通なら「不審者がいる!」と警戒して様子を見に行くか、警備を呼ぶべき事態だ。

しかし、佐藤さんDは違った。


「あの二人は、今日もあの部屋で仲良く乳繰り合っているな」


彼は、竹箒に顎を乗せ、まるで孫の成長を見守るお爺ちゃんのような、慈愛に満ちた優しい目で二階の窓を見上げる。


「夜の学校で逢引とは、青春だねぇ……。若いって素晴らしい」


佐藤さんDは、大きく一つ頷くと、再び「サッサッ」とリズミカルに落ち葉を掃き始めた。

その顔には、一点の曇りもない爽やかな笑みが浮かんでいる。


そう、彼は完全に勘違いしていた。

俺たちの監視行動を、逢引、つまりデートだと解釈していたのだ。


監視されているテロリスト(過労死予備軍)は、微塵も疑うことなく、むしろ俺たちの「青春」を微笑ましく見守ってくれている。


監視は完全にバレているようで、致命的な勘違いにより全くバレていないのであった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

時守の理念と、連子との監視任務回でした。

佐藤さんDや連子との掛け合いについて、感想をいただけると嬉しいです。

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