#7
「ええ、これは増幅ではなく魔力捕獲の収束具なんですよ」
「魔力捕獲……?初めて聞く収束具ですが……」
まぁ、それもそうだろう。
ダンジョンで発見されるアイテムのうち、有益と見なされないものはこれまでダンジョン内に放棄されていた。
これまで市場に出回っていたのは増幅や蓄積の機能を持つ指輪や護符であり、それ以外のものはゴミ判定され打ち捨てられるのが普通だった。
だがオレがなんでも買い取る方針を示したことで、この魔力捕獲がオレの商会へ持ち込まれた訳だが……。
むろん素人であるオレは魔導具の特徴なんて上辺のことしか判っていないが、シェラザードから聞かされた魔力捕獲の効果をサブルに説明することにした。
あいつはこの収束具を飛来する敵の魔法を防ぐための試作品、それも失敗作だと分析していたが、その点も合わせてサブルには伝えておく。
「……なるほど、時と共に移動、拡散する魔力を一定の領域に留める収束具、ですか。威力が増すわけでも、持続時間が延びるわけでもありませんし、防御装備としてみても不十分極まりありません。普通に考えれば使い道のないものに思えます」
「ええ、ですからオレはこの収束具を金貨1枚で買いとりました」
「なるほど、良心的な買い取り価格だと思います。それで……これをどうせよとおっしゃるのでしょうか?」
「なに、簡単な事ですよ。先ほどの『魔力の矢を生み出す魔力回路』とこの収束具を組み合わせて、魔力の矢を収束具の先端、ようするに手元に留めておける魔導具にまとめてもらいたいんです」
「魔力の矢を……その場に、留める?」
オレの言葉にサブルは端正な眉をひそめてしばらく考え込んでいたが、はたと手を打って言った。
「なるほど、魔力の矢を指定した領域に捕捉し滞留させることで、刃のごとき近接武器にする、ということですね?」
「ええ、その通りです」
「なるほど、それは非常に面白い発想だ。魔導師であれば矢の威力を高め、消費する魔力を減らすことを第一に考えますし、彼らは近接武器を振り回すことが不得手だ。そして戦士は一部の例外を除いて魔力を持ちませんから、こんな武器を想像すらしない。さすが賢き金貸しのお方だ」
変人と呼ばれるだけあって、サブルはオレの意図を理解したようだ。
もっともこれはオレの発案という訳ではない。
なにせオレが知っているSFでは、なんとかという力場にプラズマ化した重金属粒子を捕捉し、それを刃として振るうロボットが登場していた。
そう。ビームサーベルなんて名前が付けられていたあの武器を、魔力で再現するというアイデアは元はと言えばどこかの脚本家が考えたものだ。
問題はこいつがそんな武器を作ることを了承するかどうか、だが……。
「ええ、構いませんよ。むしろ喜んでお引き受けいたします」
「オレとしては助かりますが、いいんですか?その、信条に反するなんてことは……」
「大量生産の魔法武器を作れという依頼であればお断りしますが、こういう面白いものなら私も是非作ってみたい。そういう理由でお受けするのです。それに賢き金貸しのお方には魔導具を買い上げて頂いておりますから」
「なるほど。なら、よろしくお願いします。材料はこちらで提供させて頂きますが、何セット分ほど用意すれば?」
「そうですね、試作用に1セット。完成品用にもう1セットで結構です」
サブルが言うには魔導具開発ではアイデアを機能に落とし込む過程に試行錯誤が多いらしく、材料調達のために大量の資金が必要になるそうだ。
だが今回はアイデアと機能を実装した部品が既に用意されていることもあり、明日には試作品が完成するという。
随分と手の早いことだと思いながら、オレはサブルに事後を任せて工房を後にする。
そして翌日完成した試作品を元に、さらなる改良を加えたものがルゥの新たな得物となった訳だ――
「じゃ、行くよ!……光よ!」
ルゥの呼びかけに応え、金属製のグリップに偽装されていた「答えし者」が、長さ1m程もある光の刃を生み出した。
サブルは「魔力の杖」を解体する過程で元々の仕様である純魔力の矢を生成するのではなく、使用者の流した魔力の属性に応じた刃を形成する仕様へと修正を行っていた。
その結果、サブルが実験した際にはヤツの得意とする水の刃が、シェラザードに試させた時には雷の刃が生成された。
オレがこっそり一人で試した時には、ポケットナイフサイズの火が出たことは、他の連中には秘密にしている。
……そして、本来の使用者である勇者、ルゥが使用した場合は、こいつの属性である光の刃が生成される訳だ。
ルゥにこの剣を渡す際、銘を聞かれたオレは大いに悩むことになった。
オレ的には銘なんて何でも良かったんだが、ルゥが納得する格好良いものを、とコーディリアが言いだしたからだ。
結局どこかで聞きかじった、神話に出てくる剣の名前である「答えし者」と付けることにした。
なにせ声で発動する魔導具だからな。
「ルゥ、アンサラーの仕様は覚えてるな?」
「もちろん!斬ったり、受けたりしたら刃が折れるんだよね!」
「雑な理解だが、まぁ基本はそうだ。刃の再生は10秒ごとだ。一撃で決められなければ、最大10秒は無防備になるぞ」
面倒な仕様ではあるが、常時魔力を流し込むとシェラザードが言っていたように魔力消費が大きくなりすぎる。
そのため、アンサラーは「魔力の杖」本来の機能で生成された矢が効果を保持出来る10秒間だけ刃を維持し、10秒ごとに魔力を消費して新たな刃を再生成するという形で継続的な刃を生み出している。
そして魔力の矢は敵に命中することで魔力を解放、ダメージを与えるものであるため、アンサラーの刃も何かに命中すれば保持された魔力を解放し、刃が一度失われることになる。
つまり斬りつけても、防がれても、空振りして床や壁を殴りつけることになっても刃は消滅し、刃が再生成されるまでルゥは無防備になる。
そのタイムラグを少しでも減らすために組み込んだ機能によってアンサラーは面白い能力も持ち合わせているが、それでも基本的には扱いづらい厄介な武器だと言えるだろう。
それ故に普段は刃の発振部にアイアンウッドの丸棒をねじ込み、金属製のグリップを備えた木剣という不可解な武器としてルゥは携行している訳だ。
しかしそんなピーキーな得物であったとしても、勇者として覚醒したルゥであれば――
「やっ!」
軽い気合いと共に素早く踏み込んだルゥが光の刃を一閃させる。
先ほどは木剣を素通りさせていたゴーストの霊体が、光の刃によってまるで煙を払うかのように切り裂かれ、そして……曖昧な輪郭をもつゴーストの中央部にまで刃が届いた時点で、収束具によって封じられていた魔力が一気に解放された。
まるでそこだけ昼間になったのかと思える程の光量が夜の闇を一瞬照らし、光が収まった後には……そこにゴーストが存在していたという痕跡は、何も残されていなかった。
「アニキ、どうよ!」
「ああ、なかなかの出来映えだな」
「出来映えってアンサラーのこと?そうじゃなくてボクの腕前!」
「あの程度の雑魚相手に一々勝ち誇るレベルじゃないだろ、お前は」
「えっと、それって褒めてくれてる?」
「ああ。良くやったな、ルゥ」
「やったー!アニキに褒められた!」
間の抜けたことに戦闘終了後しばらくしてから再生成された光の刃を手に、刃が生み出す光よりも明るい笑顔を浮かべるルゥをみながらオレは思う。
こいつはあくまでもオレが新しいビジネスを行う際に重要な鍵となる「商材」の1つでしかない。
アンサラーにしても、コイツの能力を引き出すための小道具、先行投資の類いだ。
だからオレはルゥに、それ以上の情を抱くべきではないし、抱いているつもりもない。
だが、それでも。
光の聖剣の名を冠したこの「答えし者」が、ルゥの願いに答え、行く手を阻む敵を打ち倒す力を持つことを、オレは願った――




