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#17

「では、もし仮にその冒険者が立派な人物であるという事を保証できればどうでしょう。全ての冒険者に救いを与えていただくことは出来なくとも、一部の……そう、信用に足る者だけなら?」

「おっしゃりたい事は理解出来ますぞ。ですがその者が良き者であると、どのように証明されるのですかな?悲しいことですが、人の口は嘘をつくことが出来ます。得てして不信心な者ほど、自分は信心深いと言うものです」


 高司祭が言っていることは事実だろう。

 本当に信用のおける人間は自分から自分の信用をひけらかしたりはしない。そして自薦は当然として、他薦であっても信用の評価は難しいとでも言いたいのだろう。


「そうですね。ところで先ほど、オレが商会を立ち上げたとお話ししたと思うのですが……その商会は冒険者の手助けをするものでしてね」

「ほう、それはご立派なことですな。亡くなられたご友人も喜ばれていることでしょう」

「ええ。ただオレの商会もやはり人を見て支援を行うことにしているんですよ。そこで使っているのが、最近冒険者ギルドが提示するようになった信用スコアというものでして」


 ここでもオレは少しの嘘を混ぜた。 

 確かに信用スコアは最近冒険者ギルドが示すようになった指標ではあるが、そのスコアを考案したのはオレだ。

 だが高司祭に「オレが発案した評価基準」だと思わせると恣意的な他薦だと思われかねない。


「ほう……。それはどのようなものなのですかな?」

「冒険者がこれまでに受けた依頼の達成率と、依頼者からの評価を元に算出される数字ですよ。この数字が100である者は、『誠実』に依頼に取り組んでいる人物だと言える」

「確かに、困った人々の願いに確実に応える者であれば素晴らしい人物であるように思えますが……」

「これはギルドが集計した依頼達成率や依頼報告書から求められた数字でしてね。必要であれば元々の情報を確認することもできる、客観的なものなんですよ。だからオレは信用スコアの高い冒険者のことは信用に足ると判断しています。そのための信用スコアであると」

「なるほど……。その者が良き冒険者であることに対して数字の裏付けがある訳ですか。ふむ……」


 高司祭はオレの言葉に考え込んでいるようだ。

 だが、今オレが行った説明には大きな欺瞞が含まれている。

 信用スコアは確かに冒険者が依頼に対してどれだけ誠実であるかを示す数字であることは事実だ。


 だが、その依頼そのものが「善」である保証はどこにもない。


 例えばウスラーのような金貸しが借金の取り立て依頼を連発していたとしたら?

 そして、冒険者が毎回確実に債務者から、暴力的にでも回収を完遂していたとしたら?


 その冒険者の信用スコアは100になる。


 確かにその冒険者は依頼の達成という点においては誠実で勤勉だが、それは「悪」に対する誠実さであり、高司祭が求めるような善人の証たり得ない。


「司祭様、先ほど人は嘘をつくとおっしゃいましたが、数字は嘘をつきません。つまり、信用スコアの高い冒険者は、依頼主……つまり人々にとって役立つ者であるとご理解いただけるのではないかと思いますが」

「それは確かに、ヤクザ殿のおっしゃる通りですな」


 数字は嘘をつかないというのは真理だ。

 だが嘘つきほど数字を使うというのも、また真理だ。


 そう、まさにオレ自身が今、そうしているように。


「とは言え単に信用できる冒険者にのみ癒やしを与えていただくとなると不公平だと感じる者も出てくるかもしれません」

「それは確かにそうですな。癒やしの奇跡は本来民に平等に与えられるべきものですから」

「例えば傷ついた冒険者がこの神殿を訪れた際に、お前の信用スコアは低いから治療はできないと追い返してしまえば、神殿の評判を傷付けかねない」

「我々の評判よりも、傷ついた者を追い返さざるを得なかった神官の心痛も見過ごせませんな」

「ええ。ですから……選ばれた冒険者に対する癒やしの場は、冒険の途中であるべきだとオレは考えています」

「それは、どういうことですかな?」


 高司祭が怪訝そうな顔でそう問うた。

 さて、ここからがクライマックスだ。


「こちらの神殿では神学生の方が修行を兼ねて人々に治療を施しておられるそうですね?」

「ええ、人々への奉仕と、治癒魔術の鍛錬を兼ねてそうしておりますが……」

「例えば、ですが。その鍛錬を神殿で行うのではなく、信用に足る冒険者パーティに同行する形で行っていただく……というのは難しい事でしょうか?」

「なんと?門徒を冒険者にせよとおっしゃるのか?」

「いえ、そうではありません。神殿のお眼鏡にかなう冒険者に帯同し、彼等が傷ついた時に癒やしを与えていただくだけです。もちろん、冒険者には神学生の方に戦闘へ参加することを求めないよう、地母神マファーメラ様の教義に反するようなことを求めないよう誓約を取り付けます」


 高司祭は眉をひそめ、オレの言葉を疑うような表情で……だが、それでも頭ごなしに拒絶はせずに、話を聞いている。


「もちろん信用スコアだけで大切な神学生を託していただくのは難しいでしょう。ですから神殿で冒険者を面談していただき、さらには試用期間を設けて見極めも行っていただくべきだとオレは考えています。そして……もし冒険者達が途中で道を外れたと感じられるようになれば、いつでも離脱できるような仕組みを設けます」

「ふむ……」

「冒険者達がダンジョンへ赴けばそこで魔導具を見出すこともあるでしょう。彼等はそれをパーティ全員で等分配する習わしになっています。つまり、同行している神学生の方にも冒険の成果は還元されます。オレがこんな事を言うのは烏滸がましいですが……それは冒険者達が功徳を積む機会にもなるんじゃないかと思いますがね」


 オレが言いたいのは学生をヒーラーとして冒険者パーティに同行させればカネになるという事だが、宗教家相手にストレートな物言いをするのは禁物だ。

 回りくどいことだが、宗教にまつわるカネは寄付、功徳であって対価ではない……そう装う必要があることを、オレは知っている。


「冒険者の方が功徳を積まれることは確かに我々も望むところではあります。そう、冒険者から神に認められた『勇者』が生まれるようなことがあれば――」

「勇者、ですか?確かに身近に神職の方がおられるなら、冒険者の中から地母神に帰依する者が出てくるかもしれませんね」


 勇者、か。

 高司祭の言葉に同意しながらも、信仰心が勇者を生むなんて綺麗事をオレは頭から否定していた。


 なにせ、人間鑑定の魔導具によれはオレはヤクザであると同時に勇者でもあるらしいが、実際に神の奇跡が存在するこの世界にいてなお、オレは神の存在すら信じていない。

 そんなオレが勇者であるなら、信仰と勇者の称号には何の関係も無いと考えるのが妥当だろう。


「高司祭様、今日は無理なお願いを聞いていただきありがとうございました。もちろん、今すぐにお返事をいただく必要はありませんが、一度ご検討いただければ」

「え、ええ。そうですな。慎重に検討させていただきます」


 ともあれ、これ以上押すと逆効果になりそうだと考えたオレは、一旦退くことにした。


 既に神殿が好みそうな餌と、連中が教義を破らずに済むロジックは提示した。

 あとは飲ませた「毒」が、神殿の内部で効果を発揮することを待てば良い。


 高司祭の前から辞去したオレは、去り際に神殿の入口に立つ像に再び目をやった。


 地母神の神官らしき女と、剣を持った男。

 もしかするとこれは、ただの冒険者ではなく「勇者」なのかもしれないと思いながら。

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