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#12

 次にオレが向かうのは冒険者ギルドだ。

 馴染みの受付嬢にギルドの責任者と面談を求めると、意外にもすんなりとオフィスへ案内された。

 昨日、ダンジョンアタックの依頼を精算した際にアポを入れておいた甲斐があったと言うものだ。


 初めて顔を合わせる冒険者ギルドの長……受付嬢が言うところのギルマスは、オレが知る暴力団の武闘派幹部と似た印象をもつ強面の壮年男性だった。

 なんでも荒くれ者も多い冒険者を束ねる冒険者ギルドの幹部は元冒険者でないとまともに務まらないらしく、そのあたりは確かに暴力団の構成と似たものを感じる。


 この連中は口入れ屋や手配師のような人材斡旋業である以上、雰囲気がどこか人材派遣を生業とするご同業(ヤクザ)に似ているのは、ある意味当然なのだろうが。


「それで、ビジネスの提案だと?ギルド内での装備やアイテムの販売なら所定の手数料を……」

「いえ、そう言うお話とは少し違いましてね。これまでに無い、冒険者の方々にとって有利なお話ですよ」

「冒険者に有利……?」


 ギルマスの視線が険しくなる。

 この男も壮年になるまで冒険者として生き延びてきたのなら、自分達が搾取構造にがっつりと組みこまれていることは肌感覚で理解しているのだろう。


 そしてオレは今回、「冒険者であるヤクザ」としてではなく「グレイディア商会の会頭」としてこの場にいる。

 冒険者の代表としては警戒を強めるのは当然というものだ。


 だがこの男に身内である冒険者を守る意思があるのなら、むしろオレにとって好都合でもある。

 なにせ、俺が提案する事業は「表向き」は冒険者にとって極めて有益で、奴らの生存率を高めることに繋がる提案だからだ。


「……話はわかった。だが、そんな事をしてそちらとマードックにどんな利益がある?ヘタをすると損をする話に思えるが」

「ええ、確かに何も考えずに全員をこの事業の対象にするとそうなるでしょうね。だからこそ、オレは今回そちらさん(ギルド)の協力を求めているんですよ。先ほどお話した与信の仕組みの中で――」


 オレが再度与信の仕組みと、信頼性(Character)の評価項目について放すとギルマスは渋い顔をした。


「確かにあんたが言うように、依頼主からの評価を使えばその冒険者が信用に足るかどうか見極めることはできるだろう。だが、この情報はギルド外に開示することはできん」

「ええ、もちろんです。ですからこの与信に必要な処理はオレの商会で行うのではなく、冒険者ギルドに窓口業務を代行していただきたいんですよ。もちろん、手数料はお支払いしますよ」

「ふむ……。それなら、問題は無いが……」


 オレは冒険者達の信用情報、つまり個々の依頼達成情報が欲しいのではなく、その冒険者にどの程度与信枠を設定すをか判断する基準となりうる「信用スコア」が得られればそれでいい。


 さらに言えば与信に用いる信用スコアを算出する基準を厳密に定め、冒険者ギルドの側に個々人の信用スコアを算出させることができればオレ――というよりもコーディリア――の負担も少なくなるし、属人的な運用を避けることも出来る。


 ギルマスはマードック商会のように諸手を上げて賛成という訳ではなさそうだったが、とりあえずは冒険者ギルドからの協力も取り付けることが出来た。



 結局2箇所でプレゼンを行うだけで一日が終わってしまったが、あとは実務的なやり取りや与信査定のルールを組み立てればビジネスを始動させることができる。


 面倒な手続き部分はコーディリアの手を借りれば一両日中に終わるだろうと考えながら、陽が落ちた街を歩いていたオレは、裏路地に位置するグレイディア商会(根城)の近くを彷徨く不審な人影に気が付いた。


 フードを目深に被り、何やら大きな荷物を背負った背の高い人影。

 見るからに怪しげで、有り体に言うとどこからどうみても不審者、犯罪者の類いにしか見えない。


 一瞬、事務所を襲撃しに来た対抗組織(よその組)の鉄砲玉かと思ったが、よく考えればオレはまだこのマーネイという国で表立って敵対している相手に心当たりはない。

 ……まあ完全に打ちのめし、街から追放したウスラーはオレに恨みを持っているかもしれんが、奴の行動は契約魔法でがんじがらめに縛ってある。


 それに裏路地を彷徨いている人影は、人目を避けて事務所の様子をうかがっているというよりも、まるで何かを探しているのかのように周囲を見回している。


 ……道に迷って裏通りへ迷い込んだお上りさんだろうか。

 それならオレには関係なさそうだと思い、視線を合わさずに傍らを通り過ぎようとした時だ。


「あの、すみません。少しよろしいですか?」


 声を掛けられた。

 少し甲高い高いが、それは男の声だった。

 面倒な事になったと思いながら、視線を向けずに立ち止まる。


「……なにか?」

「少しお尋ねしたいのですが、このあたりにウスラー商会という店があると聞いたのですが……」


 どうやらオレと全くの無関係という訳でもなさそうだ。

 ウスラーの知り合いか、仲間か?


 いや、それなら看板を掛け替えたとは言え、奴の商会があった場所が判らないというのは不自然だ。

 なら、こいつは一体……?

 内心で男に対する警戒心を高めながらも、オレは平静を装って応じる。


「ウスラー商会なら少し前に潰れましたよ」

「ええ!?本当ですか!?困ったな……もう、ここぐらいしか資金を貸してくれるアテが無いのに……」

「カネを借りに……?」

「ええ。私サブル・カムルという者なのですが――」


 何やら自己紹介を始めた男に視線を向け、サングラス(魔導具)を使って鑑定を試みる。


『レベル6:魔導技師』


 レベルの数字は余程才能があるものでも5だとマードック商会の番頭が言っていたが、このサブル・カムルと言う男は並の人間のレベルを超えているということか。

 それに魔導技師……名前からすれば、魔導具に関わる職業だろうか?


「――と言うわけでして。ですが肝心の商会が潰れているのであれば仕方ありません」


 オレがサブルを値踏みしている間に奴の話は終わっていた。回りくどい話だったので詳細は半ば聞きながしていたが、要するに研究資金を借りたいという話のようだ。

 なら、オレがカネを貸して、こいつの力を何かに利用させて貰うのは悪くない。


 そう思ったのだが……。


 目をやると、グレイディア商会の入口には「CLOSE(営業終了)」の札が掛かっている。


 言うまでもなく、コーディリアの仕業だ。

 契約にうるさいあいつのことだから、営業時間外に客を連れ込んでも対応しようとしないに違いない。


「サブルさん、でしたか。ウスラー商会は潰れましたが、事業はグレイディア商会が引き継ぎましてね。融資の相談でしたら、そちらで……」

「おお、そうでしたか!では早速……あれ?」

「本日は既に営業終了のようですがね」

「なんと……ではまた、日を改めて伺うことにしましょう。ありがとう、見知らぬ親切な方」


 そう言うとサブル・カムルは大仰な身振りで一礼した。

 その拍子にフードがずれ、長い金髪と長い耳が露わになる。


 ……こいつエルフだったのか。

 どうりで人間よりもレベルが高いわけだ。


 足取り軽く路地裏から去るサブル・カムルを見送りながら、オレはその後ろ姿にカネの匂いを感じずにはいられなかった。


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