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Episode1

 6時39分30秒、私は30秒後に行う習慣を実行すべく妹の部屋の前に立っている。


「愛子、無事かな」


 6時40分00秒。左腕に巻かれているアナログ時計に表記された。

 私は右手をグーにしてドアを3回ノックした。


「……」


 無反応……。


(やばい、なにかあったのかな……心配すぎる)


 心臓がどくんどくんと大きく音を立てている、体も熱くなってきた。お願いなので治ってほしい。


 「あれ、お姉ちゃんどうしたのー?」


 右から声がした為振り向くと、目と鼻の先に丸っこくて可愛らしい天使みたいな愛子の顔があった。


「ひゃああ!? 愛子いたのか」

「お姉ちゃん驚き過ぎでしょー!」


 愛子は笑みを浮かべ、『じゃあ私今日リモート授業だから!』といい部屋に戻って行った。


 愛子が元気そうでよかったな。にしてもリモート授業か……愛子を一人にしておくのは心配過ぎるな。

 腕時計をみると、6時43分00秒になっていた。本当なら6時42分00秒には家を出ている予定だったのに、1分もオーバーしてしまった。


「早く行かないと」


 急足で玄関に行き、右足から靴を履いて玄関の鍵を閉め、ドアノブを3回引いて施錠確認をした後、深呼吸を3回してから、歩き出す。

 上を見ると、1つも雲が無かった。今日は晴天だな。

 家を出発してから約6分、最初の信号が見えてきた。あそこの信号が赤ならおそらく50秒のロスになる。今日はストップウォッチを持ってきたので赤の場合しっかり測らせて貰おう。

 私はいつ赤になってもいい用に予めストップウォッチを右手に構える。


「ピヨピヨ、ピヨピヨ」


 ピ、という音が聞こえた瞬間にストップウォッチを押した。

 このストップウォッチは正確に測るため、電気屋さんに直接行き1番高い1500円の物を買った。100円のやつだと壊れが早そうだし正確に測っているのか不安だったので辞めておいた。


「ピッ」


 青信号に変わったタイミングで停止ボタンを押す。


「50秒ぴったり……」


 あの時50秒という時間があったら、妹をきっと守れただろう。

 思い返しても仕方ないのはわかっているけど、あの日の光景が頭の中にずっと残っている。

 あの経験で私は、時間の大切さを強く知った。


  ――あの日も、今日の様な晴天の日だった。


  中学2年生の時、妹と散歩中のこと。

 その週のニュース番組でも度々報道されていたのだが、中学生の女子を狙った誘拐事件が起こっているらしいので、外出する際は一人で歩かない様にと警告が出ていた。なので愛子が外に行く時は必ず一緒について行っていた。

 自宅から10分程度歩いたところで私のスマホの通知が鳴った。スマホをズボンのポッケから取り出してロックを解除する為に指紋認証を試みた、が、なかなか上手く行かずに苦戦していた時、背後から走ってこちらに向かってくる足音が聞こえた。


「きゃっ!? やめて!」


 左側に歩いていた愛子が悲鳴を上げた。視線を愛子に送ると、全身黒服のがたいのいい男性が愛子をお姫様抱っこをしている姿があった。顔は黒色のマスクとサングラスを掛けていて見えなかった。


「愛子に何してるの?!」


 私が質問を投げかけると、ガタイのいい男性が私の方を向いて口を開いた。

「みればわかるだろ、お姫様抱っこだ、じゃあな!」

 やばい、もしかしてこれニュースでやってた誘拐犯!? まさか私達のところに来るなんて……不運過ぎる。

 ガタイのいい男性は愛子をお姫様抱っこにしたまま素早く走って行った。


「お姉ちゃん! 助けてー!」


 震えた声で私に助けを求めてくる愛子、無力な私は只々その姿を見送る事しか出来なかった。


 あの時、スマホを見ずに周りを注力していれば事前に逃れたかもしれない。あの時指紋認証に苦戦していなければ犯人が愛子をお姫様抱っこする前に愛子を守れたかもしれない。あの時の時間は何秒だったかな?

 ……お姫様抱っこっていう表現きもいな、違う言葉にしょ。

 お姫様抱っこという言葉を思い浮かべるだけで気分が悪くなるわ……。


 そんなことを考えながら信号を渡っていると「うお――――――!」という声がどんどんと近づいてくるのがわかった。

 朝でもこんなに元気な人がいるんだな。


「危ない!」

 「へっ?」


 後ろを振り向くと、自転車に乗っていた一人の男子生徒が勢いよく近づいてくるのがわかった。 男子生徒はブレーキを強く踏んではいるが自転車は言うことを聴かない。

 推定だが、時速は20〜25キロメートル程度だろう。今の私との距離は約5メートル程。

 避けれはする……。

 この自転車に衝突すれば怪我をする確率が高いし、何より時間を大幅ロスしてしまう。よし、真っ直ぐ進むのではなく、左に2ステップくらい避けよう、真っ直ぐ進んだら万が一変な挙動をして来た時に対処が出来なそうだ。

 私は自転車の行動を見計らいながら、左に2ステップして、安全を確保した。

 自転車は通り過ぎて行き、信号を渡りきった。

 私も少しでも時間ロスを無くすために走って最後まで渡りきった。

 信号は丁度赤に変わった。


「ごめん! 大丈夫?」


 自転車の男子生徒は両手に手を当てて謝罪してきた、喋るのも時間のロスになるので首を縦に振る対応をした。

 ……走ればロスを取り戻せそうだな。ロスタイムは1分5秒弱、この時間も測っておいて次に活かすか。

  私はストップウォッチを押した瞬間前進した。背後から男子生徒が呆然と私を見ている気配を感知したけど、まあ挨拶はしたし大丈夫だろう。無視はしてないんだ。


 校門の前に着いた、現在時刻は7時15分00秒、何とかロスタイムを潰せた……。

 背負っていたリュックを地面に置き、ルーティンノートを取り出して再確認をする。


 「うん、頭にしっかり入っている、問題なさそうだな」


 ルーティンノートをリュックにしまい、リュックから暗記カードを取り出す。

 こういうのは心の中だけじゃなくて声をしっかり出して覚える方が効率的だ。あとあまり長時間やるとやった単語が後から吹き飛ぶのであまり長い間淡々と行うのはよくない。4から~5分程度を何十分か置きに行うのがベストだ。


 「マンダドリー、意味は強制的な……あ、嫌でも思い出す単語だわ……。」


 でもちょっと意味が違うみたいね、参加必須? 義務つけられた? 強制的な? なるほど、これはもう覚えたわ、次!


 「ピピピピピ」と4分前に押したタイマーが鳴り響く、7時20分00秒になった、暗記終了。


 深呼吸をする。4秒吸って、4秒止めて、8秒吐く。これは自律神経を優位にし、高いリラックス効果、血圧低下、睡眠の質向上をもたらす、心身を整える効果的なセルフケア法らしい。

 これを2分間続ける。


 「ピピピピピ」7時22分00秒。そろそろ用務員さんが来る頃だな。30分になったら学校の門を開けてくれる人だ。来たら挨拶して雑談に持っていくか。

 7時25分、用務員さんらしき服装の人がこちらに近づいて来た。


 「用務員さん、おはようございます」

 「あら、おはよう朝早く来て偉いわねー」


 40代後半くらいの年齢の女性だ、40代とは思えないくらい美人な人だな。これは10代の時相当綺麗だったに違いない。


 「ありがとうございます、30分までよかったら話しませんか? 暇なので」


 暇と言うのは嘘でルーティンノートに用務員さんと開門まで話すと書いたからだ。

 「雑談? そうね……特に私もすることがないし話したいわ、あんまり若い子と話さないものだからおもしろくないかもしれないけどそれでもいいかしらね?」

 「全然大丈夫ですよ、用務員さんの事なんて呼べばいいですか?」


 用務員さんは少し考えてから口を開く。


 「山宮でいいわよ」

 「わかりました、今度から山宮さんと呼びます」


 山宮っていう苗字なんだな、この人。


 「因みに今日はなんでこんなに早く学校に来たの? いつもいないでしょ?」

 「そうですね、今日から毎日この時間に来ようかなと思いまして、早起きは三本の得っていいますし!」


 私は出来るだけニコニコしながら答える。

 いや今日碌な目に合ってないような……。三本の徳って一体。


 「へー、早起きを心がけるのはいいことよ、続けられるといいわね」

 「はい、山宮さんは普段何時に起きてるんですか?」

 「私? 2時よ」


 2時?! 年配の人は寝るのも早くて起きるのも早いって聞いたことあるけど、ここまで早いとは思ってなかったな。8時間寝るとしたら、18時には寝ないといけないってことか。子どもには無理だな。


 「す、凄いですね……」

 「そんな大したことじゃないわよ、私が好きでやってることだから」

 「そうですか……」


 そんな時間に起きてこの人は一体なにをやっているんだろうか、まあ私には関係ないことだけど。


 「あら? 見慣れない子ね」

 「え?」


 後ろを振り向くと、先程の自転車に乗っている男子生徒が近づいてきていた。

 男子生徒の乗っている自転車が私の横に止まった。急いできたのだろうか、息がとても荒い。


 「おはようございます……!」

 「おはようね、そんなに急いでどうしたの?」


 男子生徒は私の顔を振り向いて言った。


 「あの! 連絡先教えてくれませんか!?」


 ……は? キモ。

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― 新着の感想 ―
愛子ちゃんが可愛い反応してて面白かったです笑
この作品を読んで強く印象に残ったのは、主人公が「時間」に異常なほどこだわる理由が、妹の誘拐未遂という深いトラウマに結びついている点である。冒頭から秒単位で行動を記録する描写は、単なる几帳面さではなく、…
秒単位の行動がとても細かくて引き込まれそうでした。とても面白かったです!
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