第21話【ガールインライブハウス】
土曜日は、いつもの公園で練習。
日曜日は、駅付近で路上ライブ。
月曜日、火曜日、そして水曜日と、時間は過ぎていった。
そして、木曜日。
「皆様またライブハウスで!お待ちしておりますわ!」
「うん!花葉さんまた!」
「日花、乙女も!行きますわよ!時間がありませんわ!」
「え、ええ……」
乙女は金糸雀に連れられ、教室を後にした。
◇◇◇
家に帰った乙女は階段をのぼり自分の部屋へ行くと、スクールバッグを雑に放り投げて、代わりにES-335を手に取った。
「よろしく」
相棒に挨拶もし、ケースに入れ、担ぐ。
今日が、ギタリスト暁乃乙女のデビュー戦だ。
◇◇◇
「来ましたわね乙女!いざ、リハーサルですわ!」
「え、ええ」
目的地のビル前に到着すると、そこにはもう金糸雀たち3人が待ち構えていた。
ライブハウス『八王子リフレイン』は、東京都八王子市にあるライブハウスだ。
普通ライブハウスは地下にあるイメージだが、リフレインはビルの5階と6階を使っているなかなか珍しいタイプのライブハウス。
乙女は金糸雀たちの後を追うように階段を上り、5階へ。
「……!」
白い照明が照り付ける、明るいフロアは乙女が思っていた以上に広く見えた。
店長やスタッフに挨拶を済ませたら、乙女たちは即リハーサル。
リハ順は逆リハ。DAYBREAKは最後のリハーサルであり、最初のアクト。
一度6階の楽屋へ行き荷物を整理。共演バンドに挨拶。若い男性グループだったので乙女はあまり近寄らないでおいた。しかし時間もないのであまり話さず、DAYBREAKの4人は使用機材を持ってさっさと5階のステージへ。
「わたくしがセンター。その左……上手に乙女、下手に寄辺先輩」
「ええ」
乙女はES-335を一度スタンドに置き、エフェクターボード……といってもBOSSのオーバードライブとディストーションがひとつづつだけしかないが、それを足元に置く。
マイクスタンドのブームの角度調整を軽く済ませ、ピックホルダーを取り付ける。
コード類を繋ぎ、準備を済ませる。
「ドラムさんキックから」
「はい」
音響スタッフの指示通り、DAYBREAKメンバーは音を出して音量を調整していく。
乙女は音響のうるささに眉をひそめたが、SKYSHIPSのライブを思い出し、これがライブハウスだったと納得する。
「1曲お願いします」
「ではDawnを」
金糸雀は日花に視線を送る。
スティック4カウント、そして演奏へ。
金糸雀の強い歌声と乙女のアルペジオが放たれ、そして更なる爆音を放ってイントロへ。
掻き鳴らすパワーコードスライドと、シンバル多めの迫力あるドラムのビートに、ヴァイオリンが奏でる優雅なメロディ。
やっていることはいつも通りなのだが、乙女には全く違う曲に聴こえていた。
自分が弾くES-335が本当にこんな衝撃波のような音を出しているのかと思うとなぜだか壊れるんじゃないかと心配になってくる。
なんとかイントロを乗り切ってリズムを刻みにいくが、乙女の背はすでに冷たい汗でびしょびしょになっていた。
静かなはずのAメロでさえうるさくて、普段とのギャップで酔いそうになる。
なんとなく、弾き進めるにつれて自分のギターの音がメンバーの音と合わなくなっている気がする。
普段から聴いていた電子ドラムではない実物のドラムセットは胸の奥がびりびりと痺れる程の爆音で、自分が日花に敵視されているせいでとんでもなく強くたたかれているのではないかとさえ思う。
ベースとドラムのリズムは重なっているが、自分がそこに合わせられずにいる。
ヴァイオリンの音もいつもにまして大きく、メロディは変わらないはずなのにもかかわらず乙女にはそれが華やかさからはかけ離れた絶望的な音に聞こえていた。
急かされているようで怖い。
視界がぼやけ始めていた。
いつも通り。いままでやってきたことを発揮するだけだと思っていた。
それが、ここに来て、自分が、今の自分の状況に、ついていけなくなっていた。
……To be continued




