みんなとの時間
本番、ステージ袖
暗転した客席の向こうから、ざわめきが波のように届いてくる
スポットライトの熱が、まだ当たっていないのに肌に触れる気がした
深呼吸
指先が、少しだけ冷たい
怖くないわけじゃない
でも、逃げたいとは不思議と思わなかった
「行こう」
ステージ袖の階段を上りかけて、しおり先輩が優しく言う
ステージにあがり、構える
次の瞬間、イントロが鳴り響いた
光が弾ける
歓声が、胸を震わせる
身体が、勝手に前へ出た
ステップ、ターン
何度も繰り返したはずの動きなのに、今日は景色が違う
眩しかった
そして、熱かった
サビ前、少し難しい移動
ほんの一瞬だけ、足元が不安になる
―間に合う?
その思考がよぎった、次の瞬間
自然と、視線が横に流れた
そこに、しおり先輩がいた
まっすぐ前を向いて、笑っている
反対側にはエルナ先輩と、るな先輩
楽しそうに、心から歌っている
誰も、焦っていない
誰も、置いていかれていない
その光景が、胸の奥を強く打った
考えたわけじゃない
かといって、思い出したわけでもない
ただ、そこには確かに...
一緒に居てくれる、仲間がいた
音が跳ねる
身体が、軽い
怖さが消えたわけじゃない
でも
それごと前に出られる
私は、大きく一歩踏み出した
声を、解き放つ
客席のペンライトが揺れる
歓声が、さらに大きくなる
胸の奥に引っかかっていたものが、音と一緒にほどけていく
このステージが、この時間が、好きだ
そして―
支えてくれる仲間がちゃんと隣にいる
その事実が、こんなにも強い
最後のポーズ
息が上がる
ライトが降り注ぐ
視界の端に、仲間の姿
みんな、笑っている
私も、笑った
胸の奥から、自然と言葉が浮かぶ
私はもうひとりじゃない
その確信とともに、私は観客へ向かって大きく手を振った
拍手が、波のように押し寄せる
それは怖さを打ち消す音ではなく、背中を押してくれる音だった
ステージの真ん中で、私はみんなと立っている
もうひとりじゃない
悲しむ必要も、一人で抱え込む必要もない
だって、この景色が、この時間が好きだから
スポットライトの中、私はまっすぐ前を向いた




