148 ロストグリモワールの使い方
結局メイリアが話そうとしたことは聞けなかった。
まぁ、急ぎの用事でもないのだろう。
メイリアはリリスを引っ張って、自分の部屋に連れて行ってしまったしな。
服のことで騒いでいたが、リリスはそんなに興味ないように見えた。
蒼いワンピースか・・・。
「あ、おにい」
「美憂?」
前から歩いてきた美憂に声を掛けられる。
なぜか、アドラメクと一緒にいた。
アドラメクは太陽のような赤い髪を持つ、貪欲の魔神だ。
背は高く、顔立ちの整った人間に近い容姿をしている。
「なんか意外な組み合わせだな。つか、アドラメク、戻ってきていたのか。魔界を散歩してたんじゃないのか? どうせ、また、女遊びでも・・・」
『俺、美憂ちゃんのこと気に入っちゃってさ。こんな可愛い子見たことないって』
「は!? 美憂・・・ちゃん・・・?」
腹の底から声が出た。
『もちろん容姿だけじゃない。綺麗な魂だ。穢れやすい人間の魂なのに、一切の曇りがない。彼女こそ絶世の美少女だよ。初めて見るなぁ、こんな美しい魂は・・・』
「いやいや、そんなわけないし・・・私だって腹黒いこと考えたりするもん。さっきからほ、褒めすぎで、えっと、おにい、そんなんじゃないから」
美憂が顔を赤らめて首を振っていた。
「アドラメク」
反射的に美憂とアドラメクの間に入る。
『いいじゃん。厳しいなぁ』
「美憂に手を出したら殺すぞ」
「ちがっ・・・そうじゃないって」
『それは美憂ちゃんの気持ち次第じゃん』
「美憂はまだ中学生だ! 未成年だからな!」
『未成年? あぁ、人間はそうゆう決まりがあるんだよね。でも、俺は魔神だし恋愛に年齢は関係ないよね? 美憂ちゃん』
「あ!」
『魔神は嫌いかい?』
アドラメクが俺を避けて美憂の顎に手をあてる。
「・・えっと・・・あの・・・・」
「美憂、こっちへ来い」
しどろもどろする美憂を強引に引っ張った。
― デドラギルド ―
ゴオォ
「おぉっと」
「ひゃっ」
人差し指から、黒い閃光を走らせる。
ひらりと避けたアドラメクのマントの裾から煙が出ている。
『げ、サマエル・・・裁きの閃光じゃん。その魔法、人間の姿でも使えるの?』
アドラメクが擦り切れたマントを見て、顔色を変えた。
「まぁな。お前みたいな遊び人、美憂に近づかせるかよ」
『そんなことないって。マジで惚れたんだよ。美憂ちゃんの兄なら、美憂ちゃんの魅力がわかるだろ?』
「だから言ってるんだ。美憂は純粋で信じやすいんだよ。絶対、認めないからな」
アドラメクを睨みつける。
「おにいっ・・・・」
「・・・・・・」
美憂を無視する。
『マジか・・・サマエルは手ごわいね。でも、遊びじゃないよ。この愛は本物だからね。いつか証明してみせる』
「へぇ・・・よく言うよ」
『美憂ちゃん、今度はサマエルのいないところで会おうね。呼ばれたらいつでも美憂ちゃんのそばに行くから、心配しないでね』
「え・・・・・」
アドラメクが美憂に投げキッスをして飛んでいった。
まさか、本当の敵がこんなところにいたとは。
あいつだけ魔界へぶち込む方法もないわけではないが・・・。
「ねぇ、おにいってば」
「美憂」
「本当にそんなんじゃないのに。アドラメクは夕食の仕込みを手伝ってくれたんだよ?」
美憂が顔を赤らめながら両手を振っていた。
「ちょっと距離は近いけど、悪い人じゃないよ・・・たぶん、あ、魔神か・・・」
視線を逸らして、髪で頬を隠す。
「本当にそれだけで・・・」
・・・厄介な奴に好かれたな。
でも、ここで無理やり引き剥がしたら、兄としての威厳も保てなくなる。
呼吸を整えてから口を開く。
「美憂、あまり強引に来る男を信用する・・・・・」
キャー!!!!!!!!!!!
「!!」
はっと後ろを振り返る。
ルナリアーナの悲鳴だった。
「おにい、今!!」
「あぁ、こっちのほうからだな」
すぐにルナリアーナの声が聞こえたほうへ走っていく。
「ルナリアーナ!!」
「あ・・・・・」
部屋のドアの前に立つと、思わず袖で鼻を覆った。
じめじめとした息苦しい魔力。
「カイト・・・様・・・」
真っ黒の人型の者たちがドロドロとした闇の中から出てきていた。
ゆらゆら揺れながら赤い目を光らせる。
"成れ果て"の魔女、ヴァーシル家の女たちだ。
「急に、どうしたの? ママ」
『XXXXXXXXX XXXXXXXXX XXXXXXXXXXX』
「ママ、わからないよ。カイト様、私、召喚していないのに勝手に出てきちゃって。落ち着いて・・・みんな、どうしたの・・・・?」
ルナリアーナが必死になだめようとしている。
『XXXXX XXXXXXXXXXXXX XXXXXXX』
ルナリアーナの腕を掴んで、何かを訴えているようだ。
赤い目がぎろりとこちらを向く。
「おにい、どうすれば・・・?」
「美憂はリリスとメイリアに今の状況を伝えてくれ。すぐに・・・わかるはずだ。あと、増援は不要だと言っておいて」
「え? う・・・・うん。おにい、大丈夫なの?」
「問題ない」
美憂に伝えると、頷いて部屋のドアを閉めた。
「来栖まりなはどうした?」
「・・・・私ならここよ」
来栖まりなが、半分体が闇に染まりかけていた。
額に汗を浮かべて、自虐的に笑う。
「全く、魔法少女でもないのに、取り込まれそうになるとは・・・ルナリアーナは無事なのにね」
「ごめんね! すぐ、鎮められなくてごめん! でもどうしたらいいかわからないの!!」
ルナリアーナが半泣きになりながら声を震わせていた。
「黒い心だけが浮き上がってくる。どうして、ルナリアーナだけってね」
「まりな!!」
「私だってヴァーシル家の者なのに、魔法少女にもなれず、闇落ちするしかないなんて。ホント、サイアク。ルナリアーナだけ、どうしてルナリアーナだけ・・・・」
恨みの言葉を吐く。
まりなの目は赤くなりかけていた。
ロストグリモワールを開いて、ルナリアーナに近づいていく。
襲い掛かってこようとする魔女を睨みつけると、固まっていた。
「魔法少女戦争の最終決戦が近づくにつれて、"成れ果て"の魔女たちはうずくんだよ」
「カイト様、それってどうゆう意味・・・?」
「ロンギヌスの槍が主を決めた、ってところだろう」
指で文字に触れる。
ロストグリモワールの文字が光りだして、文章が入れ替わっていく。
何かに導かれているようだった。
ロストグリモワールは禁忌魔法の魔術書や、魔法少女戦争のための本ではない。
失われた神々の名が、ロストグリモワールの本来の使い方を・・・。
― XXXXXXX XXXXXX XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
XXXXXXXXXXXXXX XXXXXXXXX XXXXXXXXXXXXXX ―
書いてある字を読み上げる。
しゅううぅぅぅぅぅぅぅうううう
月の女神セレーヌのための祈りの言葉だった。
「え・・・ま・・ママ?」
『ルナリアーナ』
「ま・・・ママ、苦しくないの?」
ルナリアーナが目を潤ませて顔を覆っていた。
闇が溶けて、ルナリアーナと顔立ちの似た女が現れる。
体はところどころ崩れた人形のように欠けていて、消えていきそうになっていた。
『まりな』
「お母さん・・・?」
来栖まりながその場に崩れそうになりながら、声をかけた女のほうへ近づく。
闇は消えて、瞳も元に戻っていた。
「元の姿に戻れたの? どうして? ママ、何か言って・・・」
『・・・・・・』
ヴァーシル家の者たちが10人程度、元の姿に戻っていた。
彼女らの体は、電子世界に漂う魂で再現されているだけだ。
すぐに消える運命にある。
サアァ
夜風にカーテンが揺れて月明かりが差し込む。
月の女神セレーヌが、ぽつんと立っていた。
白く輝き、穏やかにほほ笑んでいた。
「セレーヌ」
『サマエル、ありがとう』
セレーヌがふわっと浮かんで、ヴァーシル家の者たちの前に降りる。
ルナリアーナの表情が曇っていった。




