147 魔法少女配信の日常
談話室のソファーで横になりながら本を読んでいた。
フィオーレとアクアたちが配信している。
「今日は僕、アクアと」
「フィオーレでお送りしました。あ、リルムもいるよ。映って映って!」
「えーっ今度にして。お風呂上がりだもん」
リルムが髪をタオルで乾かしながら談話室に入ってきた。
「お風呂上りじゃ仕方ないね。リルム推しの人たちは、ごめんね。今日はありがとう! 今度はリルムも配信するね」
フィオーレがモニターに向かって手を振りながら、接続を切る。
「ふぅ・・・・」
アクアとフィオーレが同時に力を抜いた。
「お疲れ。配信も随分慣れてきたな」
「そう、同接3万が当たり前になってきた」
「は!? 3万!?」
思わず、本を落としそうになる。
「魔法少女の母数が劇的に減ったこともあるの。他の魔法少女の配信に行ってた人たちが入ってきてる。配信しなくなった魔法少女は、きっと魔法少女戦争で負けた子たちだと思う」
「僕らの配信でも○○ちゃんどこ? とか、聞かれるもんね。全部わからないって流してるけど」
アクアがハーブティーを飲みながら言う。
「なるほどな」
「アンチも多いのよね。特にいなくなっちゃった魔法少女のファンだった人とか」
「僕らに八つ当たりしても仕方ないのに」
「みんな、あたしたちをゲームの登場人物としてしか見てくれない。ひどい言葉ばかり言うんだよ。顔が見えないからって」
リルムが髪をとかしながら、頬を膨らませた。
「でも、僕らの魔力は上がってるんだよね」
アクアが指でシャボン玉のような気泡を浮かべた。
「これは回復魔法の一つなんだけど、傷を癒すだけじゃなく回復もできるようになった。ずっと挑戦してたんだけど、うまくできなくて」
「アンチもいるから魔力も半減するかな? って思ったんだけど、私も火力が上がってた」
フィオーレがクッキーを口に放り込む。
配信を重ねるごとに、魔法少女たちの魔力は向上していた。
推し=信仰か・・・。
「最近、魔法少女が全然現れないのよね」
ティナがラフなジャージを着て、リルムの横に座った。
「ティナ!!!!!」
「く・・・苦しい・・・」
フィオーレが抱きつく。
「大丈夫なの? 眩暈は?」
「もう大丈夫。まだ、魔法を使うのはメイリアに止められてるけどね」
フィオーレがほっとしたような表情をした。
「まぁ、この分だと3日後には魔法も使えそうだな」
「・・・・うん。しばらく魔法使ってないから心配だけど」
「使い方なら僕が教えてあげるー」
アクアが前のめりになって主張していた。
ティナの顔色はよく、まとっていた穢れは不思議と一切なくなっていた。
誰かが、清めたような感覚だ。
「ファナもノアも行方がわからなくなって・・・ティナもどこかにいなくなっちゃったらどうしようかと思った」
リルムが潤んだ目を擦っていた。
「魔法少女も減ったけど、僕たちの仲間も減ったもんね」
アクアが周囲を見渡した。
「・・・そうね・・・あの子たちの分も頑張らなきゃ」
ティナが両手を握り締める。
時空間に閉じ込めたファナは、まだ"成れ果て"にはなっていない。
でも、ティナ以外には、ファナの行方を伝えていなかった。
変に不安を煽りたくなかった。
モニターを出してスクロールする。
2週間程、行方不明になっていた花音は、普通に配信していた。
ナナキが三賢の呪いを気にして連れて行ったのか、わからない。
こちらからの通信は遮断されていた。
でも、画面越しの花音は、紛れもなくいつもの花音で安堵していた。
少し、引っかかることは、あるけどな・・・。
「花音の配信、大人気だよね」
エメが眼鏡のレンズを拭きながら言う。
「この薬草の知識、エメが教えたのか?」
「うん。でも、花音が配信している中庭? ここは初めて見る場所だね」
「あぁ・・・・」
花音は花壇から摘んだ薬草の調合を紹介していた。
同接は最大4万近くあるらしい。
アンチもいるが、うまく受け流しているようだった。
「花音が居なきゃ、なんだか寂しいな」
「話し相手がいないか?」
「そ、そうじゃないよ・・・花音ってほら、太陽みたいでしょ? だから一緒にいて居心地がいいんだよね」
「確かにな・・・」
エメが手を後ろについていて、足首を動かす。
「あははは、いい質問だね。ん? 血の味? そうだなぁ、フルーティーな感じかな?」
ラインハルトが足を組んで、一人で配信していた。
「つか、なんでラインハルトまで配信してるんだよ」
「私たちの配信に一瞬だけ映ったことがあって、女子人気がすごいの」
フィオーレが小声で耳打ちしてくる。
「ほら、見て」
リルムがモニターでラインハルトの配信を映す。
同接1万・・・。
「・・・・・イケメン吸血鬼ラインハルト様・・・・」
思わずコメント欄を読み上げてしまった。
「ラインハルトは普通に話してるんだけど、なんかミステリアスに映るみたいで」
「ラインハルトに関しては二次創作漫画まであるんだよ。BLだけど、検索する?」
「いや、辞めておく・・・」
美憂には毒でしかないな。
絶対に見せないようにしなければ・・・。
「ねぇ、カイト、ちょっと話があるの。いい?」
「おーけー」
メイリアが話しかけてくる。
モニターを消して、本に栞を挟んでソファーに置いた。
「あ、カイト!」
立ち上がって、アクアの声に振り返る。
「フィオーレ、アクア、夜食はほどほどにしろよ」
「!!」
配信が終わって、お菓子を食べる手が止まらなかった。
フィオーレが口いっぱいにクッキーを含んでこちらを見上げる。
「そ、そ、その分動いてるもん! ねぇ、アクア」
「そうそう。今日もたくさん模擬戦闘したんだよ! カイトが見てなかっただけだから!」
「じゃあ、いいけどな」
ひらひら手を振って、談話室を出ていく。
メイリアが後ろから速足でついてきた。
「・・・へぇ、こんなところあるんだ」
「ただの倉庫だよ。古い本とか置いてるから、俺は結構好きでね。廊下だと落ち着かないだろ」
倉庫の明かりをつける。
埃被った本の中には、一生丸ごと欠けているものもあった。
軽く埃を払って本棚に寄りかかる。
「で? 話ってなんだ?」
「カイト・・・ロスト・・・・」
キィッ・・・・・
ドアが開く。
「何話してるの?」
黒いローブを着たリリスがドアの前に立っていた。
メイリアが口をつぐむ。
「リリス」
「どこ行ってたんだよ。探したんだぞ。連絡もつかないし」
「あはは、ごめんごめん。新しい魔法覚えるのに練習してたら、集中して、時間の感覚が麻痺しちゃって」
「ったく・・・・・・」
リリスが頭を掻いて、舌を出した。
腕を組んで息をつく。
「今更、リリスが知らない魔法なんかあるのか?」
「魔法はどんどん生み出されるんだよ。知らない魔法なんかいっぱいあるんだから。特に、私は回復系が苦手だからね」
リリスが部屋の中に入ってきて、すぐ横の本棚を眺めていた。
「あ、ごめん。カイトとメイリア、話し途中だったよね? 私がいると話しにくいかな?」
「ううん。そんなことないよ。むしろいてくれたほうが心強いな」
メイリアがリリスのほうを見て笑いかけた。
「・・・・・」
「ん? どうしたの? カイト」
「・・・・いや、何でもないよ」
本棚の本を一冊手に取る。
「そうだ! 蒼いワンピースのリリス可愛かったよね。やっぱりリリスは蒼が似合うと思ってたの」
「へ?」
「ピンクと蒼で本当に迷ったんだ・・・美憂はピンクって言ってたけど、私はリリスには絶対、蒼って思ったの! 動画撮っておけばよかったなぁ」
「そ、そうかな・・・?」
「そうだよ! リリスが魔力の関係上、黒いローブを着るのもわかるけど、たまには華やかな服を着るのもあり。だって、魔法少女なんだから!」
「え・・・・・」
「リリスは自分が思っている以上に可愛いんだよ! 可愛い服だって似合うの!」
メイリアが急にリリスの手を握って話し始める。
長くなりそうだ。
ページをめくって、目次を読んでいく。
困惑するリリスに、メイリアがリリスの可愛さについて力説していた。




