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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
②南都攻防戦 編

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風雲急を告げる

 南都の王城は広い。


 今しがた旧ナカノ国王の処断を終えた俺たちインチキ王国一行は、お待たせしている他国の重鎮たちを探して、王城内をウロウロしている。


 各国の重鎮たちはお茶会をしながら、インチキ王国の国内問題が片付くのを待っていると言ってくれたのだ。

 だが、どの部屋でお茶会が開かれているのかサッパリわからない。


 実は索敵スキルを使えば皆の居場所など簡単にわかるのだが、ミミーが張り切って探しているので、ここは愛を込めてミミーに任せることにしたのだ。

 守備兵やメイドたちは皆逃げてしまったようで、まるで巨大な迷路の中を歩いているような気分になる。


「ムムっ? なんかアッチの方から、人の声が聞こえるゾ」

 流石は聴覚の優れた獣人族であるミミー。

 どうやら重鎮たちの居場所を感知したようだ。


 ミミーを先頭に声がする方角に進んで行く。

 俺たちが到着したのは——


 巨大な厨房だった。


「この世界では、お茶会って厨房でするものなのか?」

 なんとなく、俺は疑問の言葉を口にした。


「チョット! 日本の寿司屋とか居酒屋のカウンター席じゃないんだから、調理したものを目の前で食べるなんて、アタシたちの世界じゃありえないことヨ!」


「おいホニー。俺にはお前の説明がとてもよくわかったが、それだけだと俺以外の人が聞いてもよくわからないだろ?」


 この世界の人々に対して、寿司屋ならなんとなく説明できそうだが、居酒屋を説明するのは相当骨が折れそうだ。

 なんせ、出される飲み物や食べ物が多岐に渡っているからな。


 まあ、居酒屋なんてもうお目にかかることはないんだから、どうでもいいことだな、と思いながら厨房の扉を開けると、室内から大声で楽しそうに話をしている男女の声が俺の耳に飛び込んできた。


 なんだか無礼講っぽい雰囲気になっているみたいだ。

 これ、絶対アルコール類も振る舞われてるだろ?


「なによコレ? なんだか日本で言うところの無礼講みたいネ!」

 流石はホニー、よく日本のことがわかっている。


 でもホニーよ、飲みの席で会社のエラい人から、『今日は無礼講だから』って言われても、絶対にに受けちゃダメだからな? 後日、たぶんエラい目に合うぞ?


 それにしても、まったくもって驚きだ。

 俺たちが胃が痛くなりそうな問題に直面していた時間、コイツらはどんちゃん騒ぎしてたのかよ。


 何がお茶会だ。こんなのただの宴会じゃないか。


 大声で喋っている人々の中でも、とりわけ参ノ国のレネーゼ、ナレード姉妹の大声が耳につく。

 よくよく室内を見回すと、はしゃいでいるのはこの姉妹の周囲にいるヤツらだということがわかった。

 コイツら絶対、参ノ国のバカ家臣たちだ。


 まったく、参ノ国のお気楽ぶりには驚かされてばかりだよ。


 でも、驚かされているのを気取られるのも癪なので、俺は平然とした態度を装うことにした。


 でもそれは無理だと、すぐに悟った。

 それは、ナレードの側に掲げられているのぼりを見たからだ。


 そこには、平仮名でこう書かれている。

『いざかや はじめますた』


 居酒屋なんてもうお目にかかることはないと思ってたのに、10秒も経たないうちにお目にかかっちゃった俺は、いったいどうすればいいんだろう?


 日本文化マスターを自称するホニーでさえ、平仮名を書くのは相当困難なはずなのに、ナレードはもう書き言葉までマスターしたのか?

 ご丁寧に毛筆っぽい字体を使用して、居酒屋テイストな演出までされてるし。


 なにより、『はじめますた』って何だよ!?

 狙ってるのか? それとも天然だけあって、単に間違えただけなのか?


 燦然さんぜんと幟を掲げているナレードを更によく見てみると、割烹着に似た白い何かを着ている。

 ナレードを取り巻く参ノ国の家臣だと思われる面々は、ナレードとは異なり黒い何かを羽織っている。


 ああ、あの人たちは居酒屋の店員に扮して、料理を作っているんだ。

 それで、作った料理を周囲の人に振舞っているんだ。

 でも、なんでその集団の中に、現在ニシノ国でアイシューの補佐をしている日本からの転生者委員長がいるんだ?


 委員長の肩から下げられているタスキには、『本日の店長!』って書いてあるし。


 この店の店長は日替わりなのか? ということは置いといて。


 ああそうか、委員長、お前——


 参ノ国の連中に、悪い影響を受けたんだな。


 なんだか、とっても楽しそうじゃないか……

 いや、別にダメな訳じゃないんだけど……


「カイセイさま! 話し合いはもう終わったのですか?」

 俺の姿を認めた天然姉妹の妹、ナレードが声を上げた。


「終わったけど…… お前ら、いったい何やってんだ?」


「男を落とすには、まず胃袋をつかめという、日本の故事に従ったのです」


「いや、それ故事でもなんでもないから……」


「要するにこういうことだ——」

 調理には参加せず、ただ食べているだけの人であると思われる、天然姉妹の姉、レネーゼが会話に入ってきた。

「——お疲れであろうマイダーリンに故郷の味を食してもらい元気になってもらおうという、新妻からのイキな心配りなのだ。まあ、これは新妻の務めとも言えるのだがな」


「お前、まったく料理を作ってる素振りがないじゃないか…… だいたい、俺の奥さんになる人は、居酒屋を経営しないといけない決まりがこの世界にはあるのか?」


 なにがダーリンのためだよ。

 ここにいる連中、すでに相当飲み食いしてるじゃないか。

 それに、ここで振る舞われてる食事や酒は、王城の食糧庫にあったものなんだろ?

 他国の資産を勝手に食い潰してんじゃねえよ。


「ねえ、クローニン宰相。王城の備蓄は大丈夫なんですかね?」

「まあ…… 皆様楽しそうですので、今日のところは構わないということに致しましょう」

 ちょっと苦笑い気味の宰相であった。



 俺たちインチキ王国のメンバーは、厨房の外側から室内をのぞいているだけなので、俺たちの存在に気付いているのは入り口付近に陣取っている参ノ国の一団だけのようだ。


 厨房の奥の方のスペースにいる面々は、まだ俺たちの到着に気付いていない。

 宰相の言葉通り、各国の要人たちは思い思いにここでのひとときを楽しんでいるようだ。



 キタノ国のシーナは、参ノ国の急造居酒屋店から振る舞われた料理を食べながら、せっせとメモをとっている。

「早急に、キタノ国にも『いざかや研究所』を作りましょう! こうなったら、カイセイさんの胃袋争奪戦よ!」

と、隣にいる弟のシオスに語りかけているのだが……


 別に研究対象は、居酒屋限定にしなくてもいいと思うぞ?


 隣のシオスは、なぜか考え込んでいるように見える。

 いや、そこはいつものように、『何バカなこと言ってるんですか、姉上』でいいんじゃないか?


 シーナの声を聞いたのであろう、二人の背後に控えるキタノ国の騎士団団長ブブさんが吠えた。

「いいっすね、それ! 我が国の国家プロジェクトにしましょうや!」

 ブブさん、あなたはもう酔ってますね?



 キタノ国一団から少し離れた場所で何やら話し込んでいるのは、ホニーの重臣セバスーさんとホノーノさんだ。

「これ、酸っぱいけど、なんかうめえな! ひょっとしてこれが、ホニー様の言われていた日本料理、『すあげ』ってヤツなのか?」

 申し訳ない。ホノーノさん、ちょっと違います。


「この男はなにを言い出すのかと思えば…… 素揚げというのは、こっちにある揚げ物の一種ですよ」

 そう言って、揚げ物を口にするセバスーさん。


「ほう。これはけものの肉を衣で包んで揚げた料理のようです」


「獣の肉を包んで揚げるって…… おい、それホニー様が言われていた、『カツアゲ』ってヤツじゃないのか!?」


「なんと! 日本ではコレを食べると、窃盗罪になるのですか?」

 申し訳ない、セバスーさん。

 トンカツとカツアゲは、まったくの別物です。

 今度ホニーに、ちゃんと説明しておきます。


「驚いたぜ。参ノ国の連中、責めた料理を作ってきやがるな!」

 本当に申し訳ない、ホノーノさん。

 もうなに言ってるのか、サッパリわかりません。


 さて、今度はもう少し奥の方に目を移すと、そこにはミナミノ国のカーセロ王と、ニシノ国の変態元教皇が、なんと談笑しているではないか。


 ここからでは話の内容が聞こえないが、なんだかとても和やかな雰囲気だ。


 変態元教皇も、マトモなことをちゃんと喋れるんだな。

 実は俺、この人がマトモなことを喋ってるところ、見たことないんだよね。


 あれ?


 あの二人、ちゃんとマトモなこと喋ってるんだよな?

 まさか、二人でSMの話で盛り上がってたりして……


 いや、ある訳ないよな、そんなこと。



「チョット、カイセイ! いつまでそこに突っ立ってるのヨ!」

「そうね、早く中に入りましょうよ」

「オレっち、お腹ペコペコペコだゾ!」


「ペコが1回多いけどまあいいや。じゃあ、俺たちも御相伴にあずかるとするか」

 ホニー、アイシュー、ミミーの3人に急かされ、厨房内に入ろうとしたところ——


『緊急事態発生だ!!!』

 突然、頭上からヒビキの声が聞こえた。


『魔人族がキタノ国との国境に現れた! それから、獣人族軍もミナミノ国との国境目指して、進軍中だ!』


 厨房内の空気が凍りついた。


「おい、ヒビキ! それはどういうことだ!?」

 俺は大声で王城の天井に向け叫ぶ。


『詳細は不明だ。ただ、キタノ国の国境付近で魔人族の姿が見えたのは事実だ。テラが、いや、女神テラ様が、もう現地に向かわれてしまったんだよ! まったく、いっつも短気でそそっかしいんだから…… って、ことはどうでもいい。とにかく、ウチが風魔法で送るから、急いで岸さんは国境に向かって欲しい』


「それはわかったけど、パイセンはこのことを知ってるのか!?」


『羽伊勢はコズールイの追跡中で、今は連絡が取れない状態なんだ』


 そうか…… ここはパイセンの意見を聞きたいところだが仕方ない。



「お待ち下さい! どうか…… どうか我々もお連れ下さい!!!」

 そう叫んだのは、キタノ国の皇太弟シオスであった。


『了解だ。キタノ国軍も岸さんと一緒に送ってあげるわ』


 魔人族国境を接するのは、唯一キタノ国だけである。

 キタノにとって、これは国家の存亡をかけた一大事なのだ。



「我々も、急ぎ国元へ戻るとしよう」

 ミナミノ国のカーセロ王はそう言ったのだが、


『待って』

と、ヒビキは制止した。

 ヒビキには他の策があるようだ。


『岸さんたちを北へ送ったら、次にミナミノ国軍を南方に送るから。ここからミナミノ国の最南端へ行くのなら、ここで少し待ってでも風魔法で移動した方が圧倒的に早いと思うんだよね』


「お心遣い、衷心より感謝申し上げます」

 そう言って、カーセロ王は膝をついた。



 前回のターンでは、魔人族が襲って来たのは俺がこの世界に来てから4年目のことだった。

 さっきコズールイが言っていたように、今回のターンでは俺が目立ち過ぎたせいで魔人族にも危機感を与えてしまい、その結果ヤツらの来襲を早めてしまったのだろうか?


 そう言えば、コズールイはこうも言っていた。

『人間族は滅亡の道を歩む』と。


 コズールイが裏で手を回し、魔人族と獣人族を焚き付けたのか?


 今は考えても仕方ない。

 急いで女神様と合流しよう。


 戦いを避けたいと願う女神様が、無茶なことをするとは思えないんだけど……



 日本料理を食べるのは、しばらくお預けだな。



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 ※ しばらく、投稿を休止させていただきます。

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