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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
第4章 盟主推戴  ①ミナミノ国の賢王 編

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ヒビキの決断③

 ロリコン国王のイカれた話を聞いて、全身の毛穴という毛穴が『ロリコン滅ぶべし!』と叫ぶかのように怒りの涙を噴出させている。

 要するに、イラつきすぎて全身汗まみれなのだ。


 いや、そんなことより、コウケーツ卿たちの会話に出てくる『民の命を犠牲にする』って、いったいどういうことなんだろう?



「兄上! どうして黙っているのですか!?」

 再び痺れを切らしたように、弟であるコウケーツ卿が兄に問いかける。


「弟よ、少し黙ってくれ。そこなる御仁よ、もう少し詳しく話を聞かせてくれないか。ただし言っておくが、貴殿の話に少しでも嘘偽りがあれば、その時点でこの交渉は終わりだ」


「いいでしょう。全てお話いたしましょう。少し長くなると思いますが、その点はご容赦下さい」

 そう言うと、不気味な笑い声を含ませながら、黒いフードを被った男が説明を始めた。


「今から200年前の話です。人間族は有史以来の契約、すなわち魔王と勇者の一騎打ちで種族の優劣を決するという契約を一方的に破りました。皆様ご存じ通り、人間族は勇者と共に多くの軍隊を魔人族領に送り込んだのです。魔人族としては、まさに不意打ちを仕掛けられた訳ですね。そのため、多くの魔人族の命が失われました」



 この話、ウチが女神ナントー様の使徒だった頃、確かに聞いたことがある。


 当時、北部の魔人族領と西部の森林族領を治めていたのはホクセー様。

 一方、東部の人間族領と南部の獣人族領を統治していたのがナントー様。


 ウチが女神の使徒になるずっと前、ホクセー様に対抗意識を燃やしていたナントー様は、己の領民である人間族を焚き付けて魔人族領に大勢の兵士を攻め込ませたそうだ。


 そう言えば、先輩使徒がウチに対して自慢げに話してたっけ。

『流石は、知略に優れたナントー様よね!』とか何とか言って。


 内心、『何でそんな腹黒いこと自慢してんだ』と思いつつも、当時新米使徒だったウチは、『そんなすごいことをされたんですね! 流石は我らのナントー様です!』とか言って、愛想笑いを浮かべてたっけ……

 …………なんだかちょっと自己嫌悪。



 黒いフードを被った男は、更に話を進める。

「100年かけて、魔人族の住民から少しずつマナを集め、魔王の依代よりしろである神木にマナを注ぎ続ける。このようにして、100年に一度魔王は復活していたのです。しかし、人間族からの不意打ちで魔人族は人口を減らしてしまったため、100年後に魔王が復活することはなかったのです」


 その通りだ。元女神の使徒であり、元女神でもあるウチが証言してもいい。

 その話に嘘偽りはないと。


「今から100年前に魔王が復活しなかったことは、皆様もよくご存じでしょう。それから更に100年が経とうとしています。このままでは、今回も魔王の復活は望めません」


 うーん…… 別に今となっては、魔王が復活してもしなくても、どっちでもいいと思うんだけど。

 だいたい、魔王対勇者の一騎打ちなんてことを考えたのは、ナントー様やホクセー様より以前におられた旧世代の女神様たちだったんだし。


「そこで不足しているマナを他の種族から集めるのです。マナを吸収し魔王の依代に与え、魔王を復活させるのです」

 フードの男の言葉を聞き、ウチは理解した。

 だからコイツは、南都の人々の命を奪えと言っているんだな。



「そんなことをして、我々に何の利があるのか」

 フードを被った男の話に、兄のコウケーツ侯爵が疑問の言葉を挟む。


「魔人族とナカノ国で同盟を結びましょう。ナカノ国は魔王の復活に貢献するのですから、当然魔人族の人々もあなた方に感謝をするでしょう。同盟締結は容易です。更には森林族とも同盟を結ぶのです。3種族で盟約を結び、人間族領は全てナカノ国王のものと致しましょう」


「そのような絵空事を…… 私には両種族がそのような同盟ついて安易に同意するとは思えない。第一、魔人族や森林族とどうやって交渉するというのだ」

 ケッパーク侯の疑問は当然のものだと思う。


 しかし、そんな疑いなどまったく気にしない様子で、フードの男が口を開いた。

「交渉は可能です。なぜなら——」


 そう言いながら、フードの男は自分が被っていた黒いフードを引きちぎり、己の顔をあらわにした。


「——私が魔人族と森林族のハイブリッド種族だからです。私は魔人族領では『魔人族四天王』の一人であると共に、森林族領では『種族長会議』のメンバーをしています。両種族とも、私の発言を無視することは出来ないのです」


 え? ハイブリッド種族だって?

 そう言った男の顔をよく見てみると——


 あああっっっ!!!

 コイツは!!!


 ウチはコイツのことをよく知っている。

 間違いなく、コイツは魔人族と森林族のハイブリッド種族だ。


 この世界全てを欲していた当時のナントー様は、密かにこのハイブリッド種族を自分の配下にした。

 ナントー様の使徒だった頃、ウチは人界に出向きコイツと会ったことがあるのだ。



 でも、この男は両女神様がこの世界から離れた後、結構苦境に立たされたんだけど……


 コイツは自分の領地を魔人族に差し出す代わりに、魔人族側への帰順を申し出た。

『俺も今日から魔人族のために頑張るからヨロシクね』、みたいな感じだったな。

 いやまあ、実際はそんなに軽い感じではなかったけど。


 それからコイツは、魔人族領の治水工事やら干拓事業やらにあざといほど貢献してたんだけど……

 どうやらその後、魔人族四天王の一人と呼ばれるようにまで成り上がったみたいね。


 それと同時に、コイツは森林族にもびを入れて、同族であると認めてもらってたな。

 基本的に森林族は争いを好まないおおらかな種族だから、こっちの方はすんなりと許してもらえたみたいだけど。


 でも、それ以降のことはよくわからないのよね。


 なんせ女神になったウチが人間族ばっかり贔屓していると言われて、人間族以外の種族からは崇拝されなくなっちゃったから。

 信者のいない地域は天界から覗き見ることが出来ないから、その後の様子なんてわかる訳ないよね。

 …………ホント、すみませんでした。



「貴殿の話は理解した」

 コウケーツ侯爵が重々しく口を開いた。


「兄上! このような者の話を信じては——」

「お前は黙っていろと言ったはずだ! 私はこの者の提案に同意した訳ではない。ただ話を聞いているだけだ」

 弟の忠告を一蹴するコウケーツ侯爵。


「そこなる御仁よ。貴殿の言いたいことはよくわかった。しかし今現在、今代の女神テラ様は天界におられるのだぞ。今、この瞬間も天界から貴殿の話を聞いておられるのではないのか? テラ様が貴殿の野望を容認されるとは思えないが?」


「フフフ、あの偽女神なら今頃はダレモオラン草原で、まだバカな会話を楽しんでいますよ。本当にあの天然偽女神には困ったものです。女神の巫女に扮したつもりで下界の活動に干渉するなど、まったくあきれて言葉もありません。よほど人材不足なのでしょう。まあ、あの偽女神を信仰するものなど亡きに等しいのですから、仕方ありませんね」


 は? ナニ言ってんだ、コイツは?

 天界には羽伊勢という女神の使徒がいるってんだよ。

 すべてを知っていると思いこんで、調子に乗るんじゃないっての。


「ああ、それから。たった一人しかいない女神の使徒も、同じくダレモオラン草原でくだらないやり取りを続けています——」

 ……なんと、羽伊勢のこともご存じだったんですね。


「——つまり、今、天界には誰もいないのです」

 いや、天界にはウチがいるんですけど……


「なぜ、そのようなことがわかるのだ?」

 コウケーツ侯爵の疑問は、最もだと思う。

 どうしてコイツが天界のことを、アレコレ知っているんだろう?


「私は悪魔教徒たちを使い、常に人間族領の動向を探っていました。もちろん、私自身も天界の者どもの行動を観察していましたけどね」

 そう言えば、確かテラ様も一度コイツを取り逃したって言ってたよね。


「今、私の配下の者たちがダレモオラン草原で、の者どもを釘付けにしています。チャンスは今しかありませんよ?」


 なんだと?

 ということは、羽伊勢のヤツはこの男の手のひらの上で踊らされていたってこと?


 いや、そんなことはないわね。

 なにせ羽伊勢のヤツは、ちゃっかりウチをこの世界に呼び戻してるんだから。


 黒いフードを被った男改め、ハイブリッド種族の言葉を聞いたコウケーツ侯爵は再び沈黙した。


 これって…… 侯爵はこの男の提案を受け入れるかどうか、考え始めたってことよね。


 どうしよう。

 ここはウチが、『お前らの悪事はすべてお見通しなんだよ!』とかカッコいいことを言って、天界からカミナリを落とした方がいいのか?

 ちょっとカッコいい台詞だし、言ってみたいという衝動に駆られているのは事実だ。


 でも待て。

 森林族は自分の身を隠すことに長けた種族だ。

 実際、一度テラ様もコイツを取り逃してしまっているし。


 ここはやっぱり、羽伊勢たちがやってくるのを待つべきだ。

 べ、別に減給が怖いからヒヨってる訳じゃないんだからね!


 よし、じゃあもしナカノ国の連中がコイツの提案を受け入れて、南都の人たちの命を奪おうとた場合、まずはコイツが持ってきたと思われる怪しげな魔道具を破壊することにしよう。

 『マナを吸収する』とか言ってたから、きっと見た目が掃除機のマンマなこの魔道具を使うんだと思うんだよね。

 基本的に、天界の関係者は人界の者に危害を加えてはいけないルールになってるけど、魔道具を壊すぐらいならきっとセーフだと思う。

べ、別にヒヨってる訳じゃ…… あ、これさっき言ったから、もういいや。


 でもまあ、こんなバカな話をコウケーツ侯爵が受け入れるとは思えないんだけど——


 ——パリン!


 うわっ、ビックリした!

 なんか突然、王宮の窓ガラスが割れたんですけど?

 ウチ、無意識のうちにカミナリなんて落としてないよね?


 ウチは小型モニターを注視する。

 壊れた窓から侵入し、颯爽と王宮に入って来たのは——


「あなたたち、そこで何をしているのですか!!!」


 そう、地上に住む多くの人々が、たぶん崇拝している存在であり、なおかつ我が上司でもあるテラ様その人であった。


 ウチってば、南都ウオッチに夢中になりすぎて、ダレモオラン草原の様子を全然みてなかったんだけど……


 テラ様、もう来ちゃったんですね。

 しかも、一人で来ちゃったみたいだし。

 また逃げられたら、どうするんですか……

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