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結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら  作者: 大橋 仰
第4章 盟主推戴  ①ミナミノ国の賢王 編

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ヒビキの決断④

 突然の女神テラ様の登場により、王宮内には緊張が…… 走らなかった。


「何をしているかと言われましても、皆さんとお茶を飲みながら、楽しくお喋りしているだけですが?」

 平然とした表情で、ハイブリッド種族の男がつぶやく。


「う…… と、とぼけても無駄ですからね! あなたたちの悪事は、すべてお見通しなのです!」

 ちょっと気まずそうな様子のテラ様だったが、ここは勢いで押し切るようだ。


「悪事とは何のことでしょう? 確かに私は人間族ではありませんが、別に他種族の者が人間族領で人間族の方々とお話ししてはいけないという決まりはないと思いますが?」


 テラ様の表情が、一瞬『どうしよう……』と言いたげになったことは、見なかったことにして差し上げよう。

「そ、そうだ! あなたは悪魔教徒の首領ではありませんか!」

 女神様が会心の一撃を繰り出した!


「証拠はあるのですか?」

 余裕の表情でハイブリッド種族の男が言葉を返す。


「フッフッフ、証拠ならあなたが身につけている黒いフードがなによりの…… って、あれ? どうしてフードを被っていないのですか?」

 黒いフードは、さっきコイツが自分で引きちぎっちゃったんですよ……

 テラ様ってば、ポカーンとした顔してるし。


「仕方ありません…… どうやら私は歓迎されていないようですので、これで失礼させていただきましょう」

 そう言うと、ハイブリッド族の男がテラ様に背を向けたではないか。


 マズイ。

 このままではコイツを取り逃してしまう。

 羽伊勢はいったい、何やってんのさ。


 別モニターに映るダレモオラン草原の様子を見ると——

 羽伊勢も結構な人数を引き連れ、こちらに向かっているようだ。


 よし、ここは羽伊勢たちが到着するまで時間を稼ごう。

 テラ様は、なんかアワアワしてるだけだし。


『あー、テステス、聞こえますか?』

 ウチはテーブルの上にある、変なマイクに向かって話始める。


 宮廷内に集う面々が、一斉に天井を見上げた。

 よし、ちゃんと聞こえているようだ。


 ここはコイツらを刺激せず、冷静に時間を稼いだ方がいいな。


『最近めっきり暑くなってまいりましたが、皆さん体調を崩されたりしてませんか?』

 よし、最高の時候の挨拶が出来たんじゃないかしら。

 次はご家族の最近のご様子でもうかがおうかと思っていたら——


「ちょっと、ヒビキさん! なにをフザケているのですか!?」

 ……テラ様ったら、速攻でウチの正体バラしてるし。


「なに! ヒビキだと!?」

 ほら、ハイブリッド族の男が食い付いてきたじゃないの……


『アー、ワタシ、コノセカイに来たバカリなのデ、ナンノことやらサッパリで……』


「ふざけるな!」

「ふざけないで下さい!」

 そんな二人して、息ピッタリでツッコまなくてもいいじゃない……


「その声を忘れたりするものか! キサマ、ナントー様の元使徒ヒビキだな!」

 天井に向かって、ハイブリッド族の男が大声で叫ぶ。


『……もう、しょうがないな。バレたんなら仕方ない。久し振りだね、『コズールイ』。元気にしてた?』

 ほう、羽伊勢が作った自動翻訳機能を通して喋ると、コイツの名前はコズールイって翻訳されるのか。

 まあ、コイツは本当に小ズルいヤツだったから、ピッタリなネーミングだね。


 よし、この調子で昔話でもして、時間を稼ぐことにするか。

 フッ、ウチはなんて冷静沈着な女なのだろう。


『コズールイと話すのは、いつ以来だろうね。そう言えば、昔アンタは——』


「黙れ、この裏切り者!!!」


『……………………は? ナニ言ってんだ、オマエ?』

 ちょっとだけ、イラッとした……


「何をトボけている! キサマは女神マエノーとなってから、人間族ばかりに肩入れしていたではないか!』


 コヅールイの言葉を聞いたコウケーツ兄弟が、ハッとした表情になった。

 そして、慌てた様子で片膝を地につけ、両手を胸の前で組む。

 ハァ…… ウチが元女神だってことがバレちゃったよ。

 でも、相変わらずロリコン国王だけは、ボーっとした顔して突っ立ってるけど。



『…………ウチは元々、人間族と獣人族を守護するナントー様の使徒だったんだ。先ずは勝手知ったる人間族領の改革から手をつけるのは当然じゃネエか』


「何が改革だ! キサマがやっていたのは、ただ単に、自分の私利私欲を満たすことばかりではないか、この金の亡者め!」


『ウッセエんだよ、このクソボケ!!! 地上の改革を進めるためには、金が必要だったんだよ! 必要な金を集めるために、信者たちから献金を募って何がいけネエってんだ!』

 嘘はついていない。

 ウチだって、最初は崇高な理想を掲げていたのだ。

 だから嘘をついているとは決して言えないのだ。

 反論は認めないからね。


「何が改革だ! 信者たちから集めた金で、キサマは私腹を肥やして——」


『黙れって言ってんだよ!!!』


 ——ドゴーーーン!!!


 怒りに任せてウチは天界からコズールイのすぐ近くに、特大のカミナリを落とした。

 ……いや、落としてしまった。


 まったく誰だよ、ウチが冷静沈着な女だなんて言ったヤツは。

 …………誰もツッコんでくれる人がいないのは、ちょっと寂しいな。



 でもまあスッとしたから、これはこれで良しとするか、と思ったんんだけど……

 うわっ、テラ様がスッごく怖い顔して、穴の空いた天井を見つめてるじゃない。


 どうしよう。自分の職務を忘れて、怒りに身を任せちゃった。

 これは…… とてもマズいことになったんじゃないか?

 このままでは、減給どころか左遷されてしまう恐れが……


 そうだ!

 名案が閃いた。


 ウチはちょっと弱めのカミナリを数発、宮殿に向け打ち下ろした。そして——


『フッフッフ、お前たちの悪事はすべてお見通しなのさ。コズールイが用意した怪しい魔道具は、すべて破壊したからな!』


「キ、キサマ! なんてことを!」


『いいか? 元々、ウチは天界からカミナリを落として、お前の魔道具を壊す予定だったのさ。たまたま…… そう! 本当に、た・ま・た・ま、一発目は手元が狂っただけで、ウチは予定通り、正義のいかづちを予定通りお前の魔道具に落としてやったのさ!』

 そういうことですからね、テラ様?

 ウチは怒り狂ってコズールイの近くにカミナリを落としたんじゃないですからね?


「……ふぅ、そうだったな。思い出したよ。キサマは本当に昔のままだ」

 どうしたんだ?

 なぜだかコズールイが感慨深げな様子で、ウンウンとうなずいている。


『なんだよコズールイ。ウチがとても理性的に計画を遂行する女だってことを、今更思い出しても遅い——』


「キサマは昔から、本当に芝居が壊滅的にヘタクソだったな……」


『しみじみと、人の悪口語ってんじゃネエよ!!!』



「そうですね。ヒビキさんは昔から、違う意味でウソがつけない人でしたね」


「ちょ、ちょっと! 女神様まで余計なこと言ってんじゃネエ…… いえ、おおせになってんじゃネエですよ!」


「……ヒビキさんは、本当に言葉の使い方がなっていませんね」


 マズイ…… テラ様のお怒り具合が、更に増している。

 テラ様は本当に、お言葉遣いに対する、おこだわりが、おありになり過ぎるのが、お困りもので…… って、ああもう、メンドクセー!


 でも、どうしよう。

 このままではウチの進退が、ますます危うい状況になってきた……


 と、思ったその時!


 王宮の南の空に、キラリと光る一軍の姿が見えた。


 羽伊勢たちが、ついに南都に到着したようだ。

 もう、後のことは羽伊勢や岸さんたちに任せよう。

 これ以上、勤務評価を下げられてなるものか!


『どうやらワタクシの出番は、ここまでのようでゴザイマス。ここからは、他の使徒サマがご登場にあいなりたまい、悪人の皆様方のお相手をおなさりそうろうにて…… ああ、もうメンドクセー!!! 敬語なんて、ウチにはよくわかんねえんだよ!』

 自分の限界を感じたウチは、すぐさまマイクのスイッチをオフにしたのであった。


 ふぅ…… さて、ハローワークにでも行って、求人票でもあさろうかな……

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