プロローグ3 異世界へ
――それで、死んじゃった俺はどうなるんだ?
「君には、前世に未練がありますねー?」
――ん? あぁ、確かにあるが……それがどうした?
「ここにはですねー、前世に強い未練を残した者だけが行き着くんですよー。私は、神ですが、その担当は、転生か転移。同じ時代、同じ国、同じ世界にお送りすることはできませんが、新しい世界へと新たに生をもたらすことが許されているんですよっ! かわいそうな迷える子羊ちゃんの願いを叶えてあげる。直接的にではありませんが、間接的に叶えてあげるっ! 素晴らしいでしょうっ?」
神は、素晴らしい、素晴らしいと何度も言いながら、狂喜めいた声で説明する。
「新しい世界で、残した未練を叶えたくありませんか?」
急に真剣な声になった人に近い見た目をした神は、曜に問いかけてくる。
――ああ、俺は『プルルルルルッ』
「あっ! ちょっと待ってくださいねっ! あー、はいはい。神ですよーっ? えっ? そう? ほうほう。ふむふむ。なるほどなるほど。わっかりましたー! 了解でーすっ! あ、あとあの件よろしくね! ……おっほん。どうぞっ?」
――あ、あぁ。俺は新しい世界で『プルルルルルルッ』
「はーい、神ですよ――」
――聞けよッ⁉ さっきからなんなんだ! 俺がカッコよく決めようとしている時にプルプル、プルプル! こんな時ぐらいマナーモードにしておけっ!
「――はーい、それじゃ、そういうことでよろしくねー。いやー、すいませんっ。あなたの今後の手続きをしていたんですよー。それが今終わったみたいですっ!」
神はそう告げると右手を不意に横に振った。
そうすると、
「お、おうっ⁉ なんだこれはっ⁉」
目の前に曜の生前の肉体が構成され、その肉体に吸い込まれるように曜の意識が入っていった。
「あ、できましたねー。今回は転移という判定が出まして、あなたの生前の姿のまま新たな世界へと送り出すことになりましたよっ。あなたの無意識の中の情報を読み取った結果からそう判断されたんですねっ、はいっ。大体の人は新しい肉体を望むんですけどね~。あなたは稀ですね。相当自分の姿のままがよかったんでしょうね。なぜでしょうねっ?」
神は物珍しそうに曜を眺めそう言った。
「まあ、確かに新しい姿よりかは自分の身体の方が馴染んでるしな。たぶんそう言った理由じゃないか。いや、そんなことより。俺はどういった世界へ送られるんだ?」
曜は自分の身体の感触を確かめながら神に問うた。
「あなたの望む世界へ――と言いたいところなんですがね。あなたの来た世界に比較的近い、価値観、言語、肉体構成に合致した世界でないといけないのですね。だから、実はもう決まっちゃってますねー。その世界とは――」
神の言葉にゴクリと唾を飲み込み、ためを作った神の次の言葉を待つ。
「――ズバリ――っと言いたいところですが、そこは着いてからのお楽しみということでっ!」
タッタッタ。昭和の芸人よろしく、リズミカルにこけそうになった曜。
「はぁ、お前は家族でピクニックに行くお父さんかよ。まあ、いいや。どうせ、どこに行こうと俺の目標は変わらないからな。そこに人がいて、性別さえあればそれでいい。それじゃ、さっそく送ってくれんのか?」
「ええ、ええ。今すぐにっ――と言いたいところなんですが……おめでとうございます! 今回は付録付きですよ~。おまけ付けちゃいますよー。あなたの行く世界できっと役に立つに違いありませんっ! 以下の内容になってますのでいずれかを選んでくださいねっ!」
急にハイテンションになった神が、そのように告げた瞬間――いつのまにか曜の目の前の空中にディスプレイらしきものが浮かんでいた。また、画面には日本語で書かれた文字が浮かんでいる。
そこに書かれていた内容は――
『育毛スキル』
『蘇生スキル』
どちらかをお選びください。
「………………」
「どうですっ? どうですっ? どちらになさいますかっ!」
「ちなみに育毛スキルって?」
曜は無表情かつ抑揚のない声でたずねる。
「はいはい、それはですねっ! 髪切りすぎちゃったな~、この髪型嫌だな~とか、眉毛そり過ぎちゃったーっ! どうしよう、こんなの薄すぎるよーっ! てな際にご活躍間違いなしの優秀なスキルですねっ! はいっ!」
どうですか? どうですか? 凄いスキルでしょうっ? 欲しくなっちゃいましたよねっ? と神が視線で訴えてくるが、
「……蘇生スキルは?」
華麗に無視して、もう一つのスキルについて尋ねる。
「ああ、これはただ人を生き返らせるだけの何の役にも立たないスキルですね」
ペッと唾を吐きながら言い捨てる。こんなの欲しいんですか? と人を疑うような視線を向けてくる。
が。
「お前の価値観おかしいだろっ⁉ 蘇生スキルの方が圧倒的に優秀じゃねえかっ⁉」
「そりゃ~、私神ですからっ‼」
神の価値観を考えたこと自体が過ちだったようだ。曜は諦めたようにプルプルさせていた肩を平常に戻し、次の言葉を発した。
「それじゃ、蘇生スキルで頼むわ」
と、言った瞬間《蘇生スキルを取得しました》と言葉が頭の中に浮かんだ。おそらく蘇生スキルを手に入れたということだろう。
別にモテるために蘇生スキルなど使うことはないとは思うが、育毛スキルよりは使えるだろう、という判断の元の選択だ。
神は曜の答えに対し、唇を尖らし、不満そうな顔で――
「えー、絶対育毛スキルの方がいいのにー」
などとのたまう。が、もう神の言うことなどいちいち真に受けていたらきりがないと見切りをつけていた曜は、
「もうそろそろ、送ってもらっていいか?」
だんだんとこの神に疲れてきたいたので、再度送ってくれと神に催促する。
もー、絶対育毛スキルの方がいいのにー、などと文句をぶー垂れながらも、
「それではっ! 田中曜君っ! 新しい世界で、君の夢を叶えたまえっ! 私も影ながら応援しているよっ! よき人生をッ‼ あ、あとさらにおまけ付けとくね~」
最後だけはまともなことを言いながら、幸あれと願ってくれる神が笑みを浮かべた瞬間――曜の意識はプツリと途絶えたのだった。
お読みくださりありがとうございます。
次の更新は明日です。




