見えない目
読みにくいとは思いますが、児童向けにあまり漢字は使わず、漢字全てにルビが振ってあります。ご了承下さい。
「はぁー、ちっとも眠れないや。」
ここは、ある館の子ども部屋。そのベッドの上で、もうすぐ十歳になるホトリが、ため息をつく。
ただ今の時刻は、真夜中の〇時五分前。
たいていの十歳の子どもならば、この時間は夢の中。しかし、ホトリは昼間も寝ているため、まったく眠くならない。それというのも、ホトリは目が見えないので、昼間でも真っ暗闇。眠たいときに寝ているといったふう。昼か夜かは、音やにおいで判断していた。
この広い館に、ホトリは母親と二人だけで住んでいる。ホトリにとって母親だけがたよりだった。
大広間にある柱時計が〇時をつげる。
その音に重なって、部屋の戸が開く音が聞こえた。
「母さん?」
「ホトリ、起きてる?」
「うん。どうかしたの?」
「お誕生日おめでとう、ホトリ。十歳になったのね。」
「うん。」
「はい。母さんからのプレゼントよ。」
「ありがとう。」
手渡されたのは、ただの小さな木箱だった。
「開けてみて。」
ホトリは、母親に言われたとおりにフタを開けた。しかし、中には何も入っていなかった。
「母さん、何も入っていないよ?」
「いいえ。その中には、魔法が入っていたのよ。さぁ、目を開けてごらんなさい。」
「ムリだよ。何も見えないのにどうやって目を開けるの?」
「まぶたを上げてごらんなさい。今まで見えなかった世界が見えるでしょう?」
「むずかしいよ。目を開けたことなんてないもの。」
「こわがらないで。世界は美しいものでいっぱいよ。さぁ、ゆっくりと目を開けて。」
今まで一度も開いたことのなかった、ホトリの目が自然に開かれていった。
「母さん。見えるよ。ぼく、目が見えるよ。」
ホトリの目から、大つぶの涙があふれ出てきた。
「あれ、せっかく見えたのに、ぼやけてうまく見えないよ。……母さん?」
突然、母親はホトリを抱きしめた。ホトリはおどろいて涙が止まった。
「母さん、泣いているの?」
母親の涙が水晶のつぶになって、床へとおち、ちらばった。
「ホトリ。母さん、もう行かないといけないの。」
「どうして? どこに行くの? ぼくはいっしょに行けないの?」
「ごめんなさい。」
「いやだよ。」
「ホトリ、強く生きなさい。どこにいても見守っているから。」
そのことばと水晶のつぶとなった涙をのこして、母親は消えた。
ホトリは、泣かなかった。かなしさよりも、なぜ母親が消えてしまったのかという、疑問のほうが大きかったからだ。ホトリは目を見開いて、母親がくれた木箱をじっと見ていた。そうしながら、むかし、母親が言っていたことを思い出した。
『ホトリ。母さんね、あなたが生まれたとき、魔法使いに会ったのよ。その魔法使いがふしぎな箱をくれたの。いつかその箱を見せてあげるわね。』
その話を聞いたとき、ホトリは箱よりも魔法使いに興味をもち、その魔法使いに会ってみたいと思った。そのときの箱が今、目の前にある。ホトリは、その魔法使いに会えば、母親が消えてしまった理由が分かるかもしれないと思った。
さっそく、ホトリは水晶のつぶをひろい集めて木箱にしまい、旅の支度をはじめた。
*
支度が終わったホトリは、魔法使いをさがすたった一つの手がかりである木箱を、大事そうに抱えて立ち上がった。
「さぁ、出発するか。」
窓からうす日がさしてきた。
「もう朝か。」
するとそのとき、急にホトリの目の前が真っ暗になった。ホトリの目は、また見えなくなってしまったのだ。
「どうして?」
ホトリは、泣きたいのを必死にこらえた。頭の中はグチャグチャで、「真夜中にあったことは、すべて夢だったのではないだろうか?」と、そう思いながら夢の中へとおちていったのだった。
*
ホトリが目をさますと、部屋は暗くなっていた。
「もう夜か。」
ホトリは大きく伸びをして、あたりを見まわした。すると窓からキラキラとかがやく星空が見えた。
「あれ? 目が見える!? 夢じゃなかったんだ……。」
まだ十歳のホトリは、必死に強がっていた。けれど、ひとりぼっちのさびしさに、とうとうたえきれなくなってしまった。声が出なくなり、涙が止まらない。
ホトリが泣いていると、目の前にふしぎな光景が広がった。涙が銀色にかがやき空中に広がった。まるで星のようにキラキラと光っている。気がつくと涙が止まっていた。
「泣き止んだようね。」
突然、ホトリの前に一人の少女があらわれた。
「あら、おどろいた顔をしてどうしたの? わたしに会いたかったのでしょう? もっとうれしそうな顔をしたらどう?」
ホトリは口を大きく開けたまま、声を出せないでいた。
「声が出せないみたいね。それ。これで声が出せるようになったでしょう?」
少女は、小枝で魔法をかけた。
「あなたは、もしかして魔法使い?」
「ええ、そうよ。目の調子はどう?」
「それよりも母さんは? 母さんにはもう会えないの?」
「あなたのお母さんは、あなたの涙みたいにお空でかがやいて、ずっとあなたを見守っているわ。」
二人は窓の外に広がる星空に目を向けた。
「ごめんなさい。わたしの魔法が未熟だったから、あなたの目が昼は見えなくなってしまったの。そのかわりに夜になれば、ほかの人には見えない心の中まで見えるはずよ。」
「そんなのいらないよ! お願い、母さんを返して!」
「それはできないわ。あなたのお母さんは、あなたを生んだときにはもう力つきていたのよ。それをまだ魔法使いの見習いだったわたしがたまたま見つけて、あなたのお母さんの希望をできるかぎりかなえてあげたの。あなたの目とひきかえに十年分の命をあげるという約束でね。十年たったら目はそっくりそのまま返すはずだったけど……。ほんとうにごめんなさい。」
「そんな……。」
「落ちこんじゃダメよ。お母さんのことばを忘れたの? あなたにはたくさんの可能性がひめられているのよ。それを忘れないで。もうすぐ朝が来るわ。わたしは帰るけど、あなたはひとりじゃないからね。その目で世界を見てごらんなさい。きっとすばらしい世界が広がっているから……。それじゃあ、バイバイ。」
窓からうす日がさしこんできた。
ホトリの目は、また見えなくなった。
疲れきっていたホトリは、手さぐりでベッドへ行き、木箱を抱えて横になった。そして、小鳥のさえずりを子守り歌にして、小さな希望を胸に夢の世界へと旅立っていった。
お読みくださり、ありがとうございます。
十年以上前に書いた作品です。
児童に分かりやすい表現を考えるのは、思った以上に難しかったです。未熟な証拠ですね。
この作品は、続きが思いつかず強引に終わらせてしまったので、リサイクルに出そうか悩んでいます。
リサイクルにご興味のある方は、↓までどうぞ。
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