拳聖は如何にして世界を護るのか
「アーリアちゃん、凱旋!! 第二弾!!」
アーリアを無視して、元々、魔王城があった場所に戻ると、その有様は一変していた。
居住区、どころか、立派な城門まである街が姿を現した。
『お、おう!? 魔王様が帰って来たぞ!? 皆、魔王様が帰っていらっしゃったぞ!!』
『なんだって? 実に五年ぶりに姿を現したが、流石にこれだけ街が発展していたら驚くんじゃないか?』
『精霊界と人間界では時間感覚が違うらしいからな、魔王様、きっと驚いている筈だぜ?』
『だが、最近は地震も多くて、いよいよ北部諸国も終わりかと思って居たが、流石は魔王様だぜ!』
様々に声を上げる魔王幹部、幹部どころか「あ、俺達結婚しまた。実は子供もいるんです」的な奴までいる。
そしてありがとう、俺が聞きたい事を全部話してくれて。
「リミリー、思わぬ展開にはなったが、こいつらが自力で復興を遂げてくれて何よりだな」
「そうですね、クレイン様。我とクレイン様の愛の巣が出来ているのは素晴らしいことニャ」
まあね、精霊界で男女が一ヶ月も一緒にいれば、愛を深めるのも、手懐けるのも、わけないんですよ、俺、剣聖ですし?
というか大精霊がひたすら働いているの結構面白いな。もしかしてウンディーネ、未だに水やりしかしてないのかあいつ?
「さーて、そしたらちゃっちゃと精霊樹の苗木を植えに行くとするかー」
◇
『あー、これはもう手遅れじゃな。万事休す、グッバイ人間界じゃな』
「えー? アルケイディアそれマジ? これから始まるリミリーと俺の愛の逃避行はどうなるわけよ?」
『どうにもならん、大地から力が殆ど抜けきっておる。今こうして耐えられているのが奇跡のような状態じゃよ。苗木を植えたとして、そこに未だ神霊が宿っておれば復活する可能性もあったのじゃが……どこぞの馬鹿女が儂の忠告も聞かずに神霊をぶん殴ったせいじゃがな』
「結局、アーリアお前のせいじゃねえか……まあ、しゃあねえ。そしたらやるしかねえだろ。流石に剣聖としてこれは見過ごせねえわ」
『……良いのか? まだ、お前には人として生きる時間は十分に残されておるのだぞ?』
「と言ってもよ、北部諸国が滅ぶのをただ見ているってのも寝覚めが悪い。それにこれは、俺にしか出来ねえ事だろ? 一応剣聖なんて言われちまってるからには、やる事はやらねえとな」
『じゃが、それは数千年の時が必要な作業じゃ……とても正気でいられるものではないぞ?』
「その時はその時さ……まあ、死んだら精霊となるのは決まっていたんだ。遅いか早いかだけだろう?」
「クレイン、あなたまさか……」
アルマーレが、これから何を俺がするのか察したように俺に問いかける。
そんな寂しそうな表情を見せるなよ。これも剣聖の役割の一つなんだよ。
『クレインはこの精霊樹の苗木と同化し、剣聖として神霊をその身に宿し、前生命力と魔力、そして精霊との繋がりを引き換えに苗木が大地に根差すまでの時間を稼ぐつもりじゃ。精霊界から直接クレインへと魔力を供給し続ける事で、それが可能となる……。剣聖クレイン・クロイツェル、そなたは死後は精霊として再び生を迎える事となろう。暫しの別れの後、その時が来れば儂等と共に悠久の時を過ごそうぞ』
アルマーレは絶句した様子を見せ、その瞳に涙を浮かべていた。
「ク、クレイン様……リミリーを残して往かれてしますのですかニャ? まだ、出会って少ししか経っていないのニャ……」
「すまないな、リミリー。俺の最愛の人。側にいれなくてすまない」
リミリーは首を振って、俺の胸に飛び込んできた。
「いいのにゃ、分かっているのにゃ、この僅かな間でも、クレインが言う事を聞かない人だって言う事は良くわかっているのニャ……、でも、でも……寂しすぎるよお……」
リミリーは、俺の頬を愛おしそうにその柔らかな肉球で包み込み、その目に大粒の涙を浮かべながら微笑んだ。
リミリー、俺の最愛の人よ。俺の命を礎にお前の世界が続くのならば俺は喜んでその犠牲になろう。
「リミリー、俺がいなく……「ちょっと待った―――――!!!! ふふ、アーリアちゃん、一回これやってみたかったんですよねえー!!!」
台無し、完全に台無しなんだよ。俺がいいセリフを最後に残そうとしてた矢先にこれだよ。
流石に空気読めよ、読めないの知っているけどね!?
「チッ、何だよ。俺はこれからリミリーを筆頭にお前達に一言ずつ残して人柱になるって流れなんだよ。流れぶった切って馬鹿みたいな事言ったら苗木の下にお前埋めてやるからな」
あ、それはそれで、こいつと一緒にいる事になるから嫌かも。
「ふっふーん。さんざん私の事をクレインさんは馬鹿にしていましたが、これを聞いて馬鹿発言を撤回してください! よく考えてみてください。ここに神霊を降ろす事が出来る聖女が一人いて、神をも超える拳を持つ拳聖が一人いるんですよ? その力を以てすれば、別にクレインさんじゃなくても人柱になるのは大丈夫じゃないでしょうか?」
アーリア、お前……
「……苗木が育つには約二千年の時が必要となる。その間、中にいる者は死ぬ事も出来ずに、精霊界から供給される無尽蔵の魔力ただひたすら耐え抜くしかない。苗木が育った後は、大樹に取り込まれ死する以外道は無い。俺は死んでも精霊として生まれ変われるが、お前はただの人間だろう。ここで命を張る理由が無い」
「……アーリアは生まれてこの方、疎まれ続けて参りました。褒められたのは戦地に赴き、敵を倒した時だけ……。それ以外に人から褒められた事は一度もありません。私は空気も読めないし、常識もない、恐らく馬鹿なのでしょう……でも、大事な時に、この命の使い方を間違えたくありません。私にやらせてください。たぶん、この時の為にアーリア・ドライツェンは生まれてきたのだと思います」
アーリアは乙女が花を咲かすかのような笑顔で微笑んだ。
ったく……この馬鹿は……
「初めて思ったよ」
「何をですか?」
「お前のこと、カッコいいってな」
「これはアーリアちゃん嬉しいですねえ! 初めてクレインさんに褒められてしまいました!」
「行ってこい、馬鹿女」
「馬鹿は余計です! 空気が読めなくて、常識が無いだけです!」
「それはそれで駄目なんだが……、まあいいさ、なら証明して来いよ、馬鹿じゃ無いってな」
「はい!!」
「アルマーレ、アルケイディア、後は頼む」
アルマーレは頬に涙を流しながら、アーリアへ向けて放つ、最後の魔法を唱え始めた。
『我が名の元に神霊の加護を授け給え“トランセンデンタルリミテイション”』
そして、アーリアは、その身を大樹へと捧げた。
次回で最終話です!
長々とお付き合いいただきありがとうございました!正味三日で走り抜けました!
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