剣聖、領土を耕す、それはもうてきぱきと。
「普通に考えて、魔王になっちゃったら王国帰れねえよなあ。どうすっべかー」
王国に帰れば当然事の経緯を聴取される可能性が高い。
そうすると俺の性癖が王国全土にもろバレする事になる……恐ろしすぎて帰る気が失せるな。
うん、というか王国に帰るの止めよう。ここでリミリーと一緒に暮らそう、そうしよう。
そしてここから始めようスローライフを一から、いや、ゼロから!!
「というか、本当に魔王が奴隷になっちゃているじゃないですか!? どう考えてもおかしくないですか?」
うるさい。どう考えてもおかしいのはお前の頭の方だ。
問題はこいつの処遇だな。借金のカタに奴隷にしたところまではいいが、顔は良いがそれ以外はどうしようもない馬鹿だ。結局金も回収できていない。このままだと俺が単に借金を肩代わりしただけになってしまう。
やっぱり兵器としての使い道しかないんじゃないか?
いやいや、常識を仕込めばまだ何とかなるかもしれない。
いやいやいやいや、既に二十三歳だぞ? ここからの路線変更はかなりきついよなあ?
唸っていると、今度はリミリーが呆然と魔王城の残骸を眺めている様が目に入る。
「あぁ、しかし我の居城が見るも無残に……これはクレイン殿が立て直して下さるのですよね? 中の財宝とか跡形も無さそうだなあ、あぁ、我の秘蔵のマタタビ酒が……がっくしニャン」
あー、心が痛い。今度、マタタビ本物買ってきてあげるから許してほしい。そして語尾が可愛い。
というか、魔王城ってどのぐらいの賠償額になるんだろ。まあこいつの所有物は俺の物扱いだから、最悪は踏み倒せるとしても、家無いのきっついよなー、めっちゃわかる。
俺も昨日あの馬鹿にぶっ壊されたばっかだしなー。
そうだ、賠償金は取り敢えずアーリアの借金にこっそり追加して置く事にしよう。
「あぁ、寒いわ。北部の土地はどうしてこうも冷えるんでしょうか、というか早く私を王国に帰してもらえませんか!?」
知るか。お前を帰したら事情が全部バレるだろうが! とっとと聖女らしく魔法使って防寒でもなんでもしてくれ。
『いやあ、魔王様を奴隷にしちゃうとか、あの剣聖マジで鬼畜だわぁ、勇者でもそんな事しないのに』
『というか魔王城あの二人のせいで吹っ飛んじゃったけどどうすんの? 食料とかも全部貯蓄してたってのに』
『いやあ、北部の冬は厳しいからなあ。このままだと我々野垂れ死にですわ』
『しかし、どうする? 現実的に他の領土に攻め入るしかないんじゃないか?』
『うーむ、取り敢えず魔王様に全て決めていただく必要が有るだろう』
……え、お前ら急に誰だよ? ていうかすっげえ数いませんかね?
『『『『『『クレイン様(さん、殿)何とかしてくださいよ!?』』』』』』
「やっかましいわあああああ!!!! 魔族共、一斉にしゃべんじゃねえよ! 分かったよ、どうにかすればいいんだろ!?」
つうか地味に魔王の幹部めっちゃいるんだけど!?
パっと見で二百匹位いないか? 魔王城の幹部は層が厚いな、おい。
しかしどいつもこいつも魔族の癖にやたらと寒そうにしているのが見て取れる。
実際、歯をがちがち鳴らしながら、これ見よがしにめっちゃ身体ぶるぶるさせてる奴いるし。
「大精霊ヘラよ、とりあえず寒いんで気温を上げて貰ってもいいか?」
一先ず寒いと思考が鈍る事もあり、氷を司る大精霊のヘラに吹雪とか、寒いのを止めてもらう事にした。
『クレイン様……ヘラは悲しいです、私は氷を司る大精霊だと言うのに、私に適した地域の気温を、私の意志に反して上げろと言うのは中々ご無体ではありませんか? と言うよりもその女たちは何なのですか???? 契約した時は「ヘラ、俺にはお前しかいない」とか言っといて大精霊と契約しまくってましたよね!? ていうか精霊王とまで契約して何様のつもりですか? 私との永久の愛の逃避行は一体どうなったのですか????』
「おい、イフリート、ヘラがヘラってるから、燃やしていいぞ?」
『旦那、鬼畜に磨きが掛かってますぜ』
イフリートに魔力を分け与え、今にも業火球をヘラに向けて構築させて待機させると、ヘラも正気に戻ったようで、素直に言う事を聞いてくれた。
『わ、分かりました、イフリートに燃やされるよりはましですね、この一帯を過ごしやすい気温にしますね……ああ、私の存在意義とは一体……』
よよ、と泣くヘラのメンヘラを物理的な脅しによって乗り越えた結果、先ほどまでの極寒の気候はやわらぎ、春の陽気となり始めた。
『おお、これが大精霊の力!! 新しい魔王はひょっとして鬼畜ながらに優秀なのか!?』
『これなら世界征服の足掛かりとして豊かな土地が手に入るな!!』
『というか、豊かな土地があれば別に他の土地を奪わなくてもいいんじゃないか?』
「イフリート、取り敢えず周辺の雪を溶かしちゃってもらっていい? なんなら部下とか要らないからちょっとぐらい燃やしてもいいよ」
『お安い御用で』
『うおっ、あっちぃいいいい!?』という声が方々で聞こえるが取り敢えず今は無視しておこう。
「ノーム、大地めっちゃ肥沃に出来んだろ? 農作物育てやすいようにいい感じに耕してもらいたいんだが?」
『うん、いいよー。適当に速く育つ作物とかも植えとくねー』
おー、流石のノームめっちゃ優秀。土石流から俺を守ってくれたのもお前だったなそういえば。サンキューなマイフェイバリットスピリット。
「あと、ウンディーネ、適当に水やっとけよなー?」
『え? 私だけなんか粗雑に扱われてませんか? 一応大精霊のまとめ役的な立ち位置なんですが?』
ウンディーネの呟きは無視しながら、俺は別の作業に取り掛かる事とした。
正直、作物はノームの大精霊的な力でなんとかできるとして、後はこの人数が住める住居をどうにかする必要があった。
「よーし、燃え残った気骨のあるお前ら。居住区作んぞ。城とかそんな立派なのじゃなくて、手頃に住めるので十分だから、マジで急げよ、気温は上がったとは言え野宿はてめえらも嫌だろうが」
ノームにレンガとコンクリートを作らせ、魔王軍幹部を顎で使いながら急ピッチで人数分の家を作らせる事とした。
(しかし、人手が流石に足りないか……猫の手でも借りたい気分だな)
取り敢えず膝にリミリーを乗っけて喉の周りを撫で、横に座るアルマーレが気怠そうな顔で「あー、早く王国に帰りたいなー」とかぼやく様を見つつ、人材の確保について頭を悩ませてみる。
「クレインさん、アーリアちゃんは何をすれば良いでしょうか? みんなで何かするとか初めてなので、結構緊張しちゃいます!」
あ、すっげえのが未だ残ってたわ。
「……お前はあの、すげえ遠くにある山の麓まで行って、俺が良いと言うまで木を切っていてくれ」
「あれ、でも同じような気はこの周辺にも結構あるのですが?」
「いやあ……、あの山の麓にある木は質が良くてな。家を建てるのに凄くいいんだよ」
「なるほど、悔しいですがクレインさんは博学なのですね、分かりました、行ってきます!!」
超絶脚力によって土煙を立てながらノームが作業している大地を突っ切って、気が付くと既に遠くで点となったアーリアを俺は見送りながら思った。
せっかく耕した土地を踏み荒らすのは止めてくれと。
(それと、精霊王がキレる頃合いだな……、面倒だが何とかしねえとな)
一先ず厄介払いが出来た事を喜びつつ、この先の事を考える必要があった。
これが、大霊山がアーリアに破壊されてから未だ二日目の出来事である。




