閑古鳥の鳴く昼下がり
視界が虹色に光る流線で覆い尽くされ、前方で一点に集中すると白い光の円が出現した。光の円は俺を目掛けて飛んできて思いっきりぶつかって消えた。暗転ならぬ白転の後、俺は大理石の床に書かれた異世界転移の魔方陣の中央に立っていた。もうおなじみの図形だ。これで7回目の勇者召喚に巻き込まれたらしい。またか、なんてこった!
「しーーーーーーーん」
で、どうして誰もいないんだ?
風が吹き抜けていく大広間には王様も王女様も騎士も魔法使いも、誰もいなかった。ただ風が吹いているだけの状況。
召喚者はいたはずだ。いなければ俺はここにいない。召喚成功直後に消え去ったとしか思えなかった。急速に危機感がわき上がってきた。とりあえず頑丈そうな柱に身を寄せて周囲を伺う。
本当に誰もいないようだ。殺気はもちろん、人の気配もない。どこか遠くでカッコウが鳴いていた。この世界にもいるんだ、郭公。
・・・それはひとまずおいといてだな・・・。
異世界召還による勇者属性の付加はあるようだ。7回目の属性上書きで俺の能力はいろいろ凄いことになっているらしい。気配を探ることのできる範囲が明らかに星を一周している。つまり、地表をずっと探って一番遠いところが俺の背中だった。それで、人の気配どころか魔王の気配もなかった。
「やはり、目で見て確かめねば、だな。」
周りの様子も見てみようということで歩き出した。ガランとした廊下に俺の靴音だけが響く。ここは城のようだった。いくつかの扉を開けたが、部屋には誰もいなかった。やがて、食堂らしきところに出くわした。
食べかけのスープがあった。バターを塗りかけたパンがあった。スプーンが床に落ちていた。切りかけたソーセージがあった。火に掛けられたままの鍋があった。鍋はまもなく煮詰まるところだった。
消せない火を付けて異世界を4つ滅ぼした俺がこうするのはどうかとつぶやきつつ、火事になるといけないので竈の火を消した。
「マリーセレスト号事件かいっ。」
状況はまさにそうだった。食事中の男女がいきなり消失したとしか解釈できない事件。
城の外はどうなのだろう?俺は外を見ようとバルコニーを探し、それらしきところへ出た。
外には城下町があった。あちらこちらから火の手が上がっていた。人の声らしきもは全く聞こえなかった。街路に人の姿はなかった。探知魔法にも引っかからないし、目で探しても誰もいない。
今、この世界にいるのは俺一人だけらしい。
無理矢理召喚されて魔王退治を任されるのも迷惑だが、誰もいないっていうのは拍子抜けである。むしろなにか馬鹿にされているような気がしてきた。
無人になった理由を探るか?
いや、こういう人智を越えた事象に手を付けると碌なことにならないだろう。むしろこうしている俺自身も消えてしまうかもしれない。
俺は俺の世界に帰ることにした。
「多重次元空間座標規定値設定。並行宇宙連結開始。連絡通路開門。」
俺の世界へ繋がる路が開いた。
ふと頭に浮かんだ。この世界の住人全部が異世界へ召喚されてしまったのではないだろうか?
・・・なんだか見てみたいぞ(笑)
なんの評価もなく閑古鳥と掛けたい今日この頃いかがお過ごしでしょうか。
ボクはあんまし元気がありません。




