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99-105 陶器工房

 ミツホの首都、ミヤコの観光を始めた仁たち。

 案内してくれるのはミツホの首長であるアタル・ムトゥである。


「どこか、ご希望はございますか?」

「そうですね、陶器の工房見学ってできますか?」


 ミツホでは最近、陶器の輸出が盛んになっていた。

 もちろん、工学魔法をほとんど使っていないはずなので、その工程を仁は見てみたいと思ったわけだ。


「ジン様でしたら何の問題もございません」


 アタル・ムトゥは即了承し、部下になにやら命じている。

 どうやら、事前に工房へ連絡を入れるよう指示しているようだ。


「さあ、参りましょう」


 アタル・ムトゥの運転で、自動車は陶器工房を目指した。


*   *   *


 20分ほどで自動車は停止。


「こちらが、一番大きな工房です」


 アタル・ムトゥが説明する。

 そこは、石造り平屋建ての工房で、大きなかまが5つも並んでいた。


「ようこそおいでくださいました、ジン様」


 自動車が来たことを察したか、工房から壮年の男が出てきて歓迎の挨拶をした。


「当工房の工房長、オク・ツチヤと申します」

「よろしく、ジンです」

「陶器の制作工程をご覧になりたいとうかがいましたが」

「はい、差し支えなければ」

「ジン様にご覧になっていただけるのは光栄の至り、差し支えなどあろうはずがございません」

「そ、それはありがたいですね」


 そしてオク・ツチヤは仁たちを案内していく。

 最初にやって来たのは敷地の外れにある簡単な小屋掛けである。


「土置き場です」

「何種類かありますね」

「ええ。こっちは白土はくどで、焼くと白っぽくなります。こちらは赤土あかどで、焼くと赤茶色になるんです」

「ほう、なるほど」

「鉄分が多いと赤っぽくなるようです」


 仁は陶芸には詳しくないので、こうした解説はありがたかった。


「他にも、きめの細かさが違う土や、粘りの違う土など、分けて置いてあります」

「なるほど、用途別ですね」

「仰るとおりです」


 その次は土をねる工程である。


「ここでは土をねております。ねることで粘土の中の空気と粒子が均一化して滑らかになり、乾かしても割れにくくなるのです」

「そうなんですね」

ねる際、固さに応じて水を加えますが、このあたりは職人の勘に頼るところが大きいですね」

「なるほど……」

「土をねると、手の水分や脂分が取られますので、肌荒れがとんでもないことになります」

「それはいけませんね」


 肌荒れ、ということでエルザが反応した。


「ええ、ですから、1日の終わりには手洗い後にハンドクリームの塗布が欠かせません」

「そうでしょうね」


 などと、ちょっと説明が寄り道したものの、成形の工程に案内される。

 ここはまさに『職人!』といった雰囲気の職場で、今は4人が作業をしている。


「うちは分業制をとることで、作品の品質を揃えております」

「わかります」


 1人で最初から最後まで行うと、出来上がった作品(製品)の出来栄えに個人差が出てしまうからだ。


「ですが時々……月のうち何日かは、職人それぞれが自分の作品づくりができる日も取っています」

「それはいいことですね」


 普及品と高級品といえばいいのか、あるいは量産品と芸術品といえばいいのか。

 最初から最後まで1人で行うことで、職人『らしさ』が如実にょじつに現れた作品となるのだ。


「今日は行っていませんが、大量に同じ物が注文された時は、技術系ゴーレムの手を借りることもありますよ」

「まあ、そういうこともあるんでしょうね」


 現代日本でも、土をこねねる機械が普及しており、手で行うより早く均一化できる。

 こちらでは、機械化のかわりに『ゴーレム化』もしくは『魔導具化』が行われることにあるが、この工房では必要最小限に留められているようだ。


「回転する『ろくろ』も足踏み式です。その方が、職人の手の感触を通じて回転数をダイレクトに調整できるからです」

「慣れれば便利そうですね」


 動力を使うと、回転の調整にどうしても僅かなタイムラグが起きるものなのだ。

 とくに『ろくろ』は重いため、回転数の上げ下げに時間が掛かる。

 職人が自分の足で回転させる方式だと、フットスイッチを使うよりはこのタイムラグは小さくすることができる(慣れの問題もあるが)。


「おお、この『皿』には、『化粧土』を追加して変化を出していますね」


 『化粧土』とは、他の色の粘土の粉で、それを模様のところに盛って焼くことにより下地の色以外の土の色を使えるようになるわけだ。

 白系、茶系、黄色系、橙色系などのバリエーションがある。


 その次の工程は、釉薬ゆうやくを掛けていた。


「乾燥させた陶器は素焼きをしてからこうして釉薬をかけることでさまざまな色にすることができます」


 皿に代表される器系の食器の場合は白系統の明るい色が多いが、あえて青や赤にすることもある。

 これがマグカップになると、黒いものも受けいれられるようだ。


「白系統の場合は、他の色で絵を描くこともあります。量産品は『印判いんばん』というハンコで絵付けをすることが多いです」

「ああ、なるほど」


 印判は一度作れば数年はつ。

 なのでさまざまな種類のものが揃っており、分類されて棚に並んでいた。


「ご存知かと思いますが釉薬はガラス質です。焼くことで表面にガラス質のコーティングがなされるわけですね」


 焼き上がった器が並んでいる。

 ここで見学は終わりであった。


*   *   *


 ひととおりの見学を追え、仁たちは応接室でお茶を御馳走になっていた。

 もちろんここの工房で焼き上げられた茶碗で、である。


「なかなか渋い茶碗ですね……」


 表面はざらっとした手触りがあり、色はうぐいす色から深緑へのグラデーション。


「それは私が作った湯呑みでして」

「ほほう、ツチヤ殿の作でしたか」


 アタル・ムトゥも感心している。


「ジン様、エルザ様、工房見学はいかがでしたか?」

「ええ、いろいろ見られて満足でした」

「面白かったです、ありがとうございました」

「ご満足いただけたようで、ほっとしました」


 こうして、仁たちの陶器工房見学は終了したのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月17日(火)12:00の予定です。


 20260217 修正

(誤)これがマグカップになると、黒いものも受けいられるようだ。

(正)これがマグカップになると、黒いものも受けいれられるようだ。

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― 新着の感想 ―
毎回楽しみにしています。 たぶん誤字ですかね? これがマグカップになると、黒いものも受けいられるようだ。 →受け入れられるようだ。
> ミツホでは最近、陶器の輸出が盛んになっていた。 > もちろん、工学魔法をほとんど使っていないはずなので、その工程を仁は見てみたいと思ったわけだ。   けっして、真ky o...う100個を一瞬で作…
色々と作ってきた仁ですけどこういった陶器の工房なんかには着手してないですよねー
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