99-104 ミツホでの仁たち
「それじゃあ、お世話になったね」
「また来てね」
「お待ちしてましゅ」
「お気を付けて」
8月27日午前10時、仁たちを乗せた『ハリケーン改』は『ノルド連邦』を発った。
仁にしては遅い時刻の出発であるが、これには2つの理由がある。
1つは時差。
ノルド連邦とミツホには、4時間半くらいの時差があるため。
ノルド連邦の午前10時は、ミツホの午前5時半なのだ。
もう1つは、ロロナの来訪があったからである。
「あの助言はありがたかったな」
「ん」
『あの助言』とは……。
* * *
時刻は午前8時半。
エルザは、シオンとロロナの『健康診断』をしていた。
「診察、します。……『診察』……ん、大丈夫」
エルザの診察によれば、シオンもロロナも健康そのものである。
「ありがとう、エルザさん」
「どういたしまして」
そんな一幕の後。
「ちょっと、思い付いたことがあるんです」
「なんでしょう?」
「健康茶の話をしましたよね?」
「ええ、『桑の葉茶』とか『ゴボウ茶』とか……」
「それですそれです。……まあ何にでも言えることですけど、『身体にいい』というと、飲めば飲むほど効く、と思い込む人が一定数いるんです」
仁もエルザも、ロロナの言うことに心当たりがあった。
「ですので、それに関しての注意をしなければいけないと思うんです」
「確かにそうですね……」
仁は頷いた。
「それと、もう1つ」
「何でしょう?」
「蓬莱島の『ペルシカジュース』がありますでしょう?」
「はい」
「あそこまでの効果は必要ないでしょうけど、『高自由魔力素』で育てた植物を使ったジュースやお茶を考えてみたらいいのではないかしら?」
『自由魔力素濃度』はコントロール可能である。
「『自由魔力素ボックス』に保存すればいいわけだ」
『自由魔力素ボックス』は『自由魔力素比』(ノーマルなアルス上の濃度との比)が80パーセント以上の貯蔵庫である。魔力系素材の純度が上がる。
「そこまで濃くなくとも、40パーセントくらいでしばらく保存しておけば、含まれる『自由魔力素』の量が増えるから大丈夫ですよ」
「ああ、なるほど」
「でも、植物によって浸透する速度が違うと思うから、そこは気を付けてください」
蓬莱島産の作物なら元々多くの『自由魔力素』を含んでいるので問題ないが、一般の植物の場合はそうはいかない、ということだ。
「そのへんも含めて、『農業研』あたりに調べさせてみますよ」
「ああ、それがいいと思います。……確か副室長のキク・マスカワさんはそういったことに興味があるようでしたよ」
「ご教示ありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして」
…………ということがあったのである。
* * *
「図らずも、ちょうどいい時間になったな」
「ん」
『ハリケーン改』が3時間でミツホまで飛べば、現地時間は8時半くらいとなり、訪問にも問題のない時刻である。
ということで、速度を調整しながら『ハリケーン改』は、途中にある高山地帯も全く意に介さず、ほぼ直線で飛んでいく。
「『ハリハリ沙漠』の上空だな」
「ん、もうすぐ」
なお、『沙漠』とは『水の少ない土地』のことである(さんずい=水 +少、という構成からもわかる)。
『日本沙漠学会』でも『沙漠』という表記が使われているという。
『砂ばかりの土地』という意味では『砂漠』と表記することになるようだ(砂沙漠という言葉もある)。
蛇足ながら現代日本では、『沙』という文字が当用漢字から外れたために『砂漠』のみが使用されるようになったようである。
閑話休題。
現地時間午前8時28分、『ハリケーン改』はミツホの首都ミヤコの飛行場に到着したのである。
「ようこそ、『魔法工学師』ジン様」
飛行場の係官が歓迎の挨拶を口にする。
それを聞いて仁は、
(『ハリケーン改』じゃなく、一般の航空便で来ればよかった……)
と思ったようだが、今更である。
そして休憩所へと仁、エルザ、礼子、ホープは案内される。
「こちらで少々お待ちいただけますか」
「それは構わないけれど」
「まもなく首長がまいりますので」
「え」
その言葉どおり、2分ほど待つと『風力式浮揚機』が1機飛んできて、そこからミツホの首長であるアタル・ムトゥが降りてきた。
「ジン様、ご無沙汰しております」
「アタルさん、こちらこそ」
「今日は、何か?」
「ああ、いえいえ、久しぶりの休暇を楽しみに来たんですよ」
「そうでしたか。それでは、我がミツホをご堪能ください」
そう言って、仁たちを豪華な自動車へと案内する。
断るのも失礼だろうと、仁とエルザは素直に乗り込む。
当然、礼子とホープもそれに続いた。
「今日のお泊りはどちらですか?」
「まだ決めてませんが……」
「でしたら、私にお任せください!」
「はあ……では、お願いします」
こうして、仁たちのミツホでの観光が始まるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は2月15日(日)12:00の予定です。
20260213 修正
(誤)仁エルザも、ロロナの言うことに心当たりがあった。
(正)仁もエルザも、ロロナの言うことに心当たりがあった。




