99-101 閑話168 改善のための打ち合わせ
仁とエルザが旅行に行った後の『アヴァロン』。
ゴウとルビーナ、エイラとグローマ、タイナーとイーナらは、アーノルトの要請で集合していた。
議題は『レルヒ』の小改造について、である。
実際に乗った者からの感想・要望を元にしている。
「『レルヒ』の小改造ですか……」
「そういうことだ。まずは座席だね。ちょっと柔らかすぎる……特に操縦席が、ということだった」
「チェルさんは硬い、と言っていたのに……」
「うん。……まあなあ、チェルさんの感想と、人間の感覚は多少異なるだろうからなあ」
「そうね……」
ゴウとルビーナは顔を見合わせた。
『レルヒ試作機』の試験飛行時の感想として、シートが硬い、というものがあったのだ。
が、高性能な『自動人形』であるチェルはともかく、人間はシートからの感触、つまり尻の触覚も操縦するための情報としている。
自動車の運転時を例に取ると、路面から伝わる微妙な凹凸や車体の振動は『尻で』感じ取っている(ハンドルからも多少は感じ取る)わけだ。
ゆえに柔らかすぎると、その感覚をつかみにくいということになる。
「バケットシートにするかな?」
「必要はないと思っていたけどね」
高速飛行をする航空機には採用されている(現実では走りを重視する自動車にも)。
ゴウとルビーナも、高速機である『フェニーチェ』や『フリューゲル』に使っている。
強烈な加速度からパイロットを守るには必要なのだ。
「あそこまですっぽりでなくてもいいだろうし」
例えるならレース用の車に搭載されるバケットシートと、市販のスポーツタイプの車に使われているシートの違い、くらいだろうか。
「そうね、『もどき』くらいでいいかしら」
「うん、いいと思う」
……と、まず『シートの硬さ』については改善案が決まった。
* * *
「次はスロットルかな」
アーノルトが言う。
「となると、イーナと私ですね」
タイナーが言った。
アーノルトはさらに補足を行う。
「これも、実際に乗った者からの要望だ。……スロットルペダルについてだよ」
「はあ」
今の『レルヒ』は前進は右のフットペダル、後進は左のフットペダルとなっている。
「両方を踏み込んだ時にどうなるか、ということだ」
「ああ……」
現在の構造では、両方の推進機が作動することになる。
前進の方が強力なので、結果的には前進する。
「チェルは間違えないが、人間は、な……」
「確かにそうですね……」
「ここは、レバーを前後に移動させることで推進機を制御するというのはどうでしょう」
タイナー・ビトーが意見を述べた。
「直感的には悪くないね」
「その場合、上昇下降はレバーを上下に、となりますね」
「そうなるだろうな」
「それもまた、直感的に悪くなさそうです」
そんな話がなされていく。
「操縦桿から手を放すわけには行かないでしょうから、利き腕の右ではなく左側だけで操作させますか?」
「そうだなあ……」
ここでゴウからも意見が出る。
「あの、推進機の出力はペダルでいいんじゃないでしょうか。で、前進と後進の切り替えをレバーで行うんです」
「ふむ……いいかもしれないな」
「後進に入れた際には目立つ位置のランプが点灯するとか、何か音を鳴らすとかするんです」
「ほう……わかりやすいな」
現代日本でも、自動車がバックする際には警告音が鳴るようなものである。
「それなら、同時に起動することはできませんしね」
そういうわけで、どちらがいいか検討することとなった。
「なかなか難しい問題だね」
どちらも甲乙つけがたく、また利点もあれば欠点もある。
タイナー案は直感的にわかりやすいが、上下と前後のレバーが同じなので、上下させた時に前後の設定を、前後させた時に上下の設定をいじってしまう可能性がある。
ゴウ案は、他の航空機と足の使い方が異なるため、操縦方法が共通化できない。
どういうことかと言うと、『風力式浮揚機』ではない航空機の場合、フットペダルはラダー操作に使うことがほとんどだからだ。
こうした『共通化』『標準化』は重要である。
「なら、上下レバーと前後レバーを別々にすればいいのでは?」
そう言ったのはゴウである。
自分の意見が通ると嬉しいには違いないが、同僚の案を改善することに対して抵抗はない。
「うまく互いが干渉しない位置に設けられればいいかもしれないな」
「なら、前後レバーは低い位置もしくは座席の横に近い位置ならいいのではないかな」
「なるほど」
「あるいは、上下レバーは真横でもいいわよね」
「そうかもしれない」
ある者は座った状態で腕を動かし、操縦の真似事をして考えている。
「だが、ペダルの使いよさも捨てがたいんだよなあ」
「そうなんですよね」
自動車のアクセルと同じ操作法となるので、これもまた使いやすそうなのだ。
「これはもう少し時間を掛けて検討しよう」
アーノルトが仕切った。
* * *
「先にもう1つの問題点も検討してみようじゃないか」
「何でしたっけ?」
「空間識の問題だ。これは『レルヒ』に限った話じゃないがね」
アーノルトが言う。
「つまり、空中で前後上下左右、自分の向きがわからなくなる現象さ」
特に夜間や雲の中に突っ込んだ時、あるいはアクロバット飛行をした際などに起きやすいという。
体感で水平を認識するのに時間が掛かると『空間識失調』となる。
「これは、他の機体でも問題になっているんだ。幸いにしてまだ事故は起きていないが」
それというのも、操縦は専門のゴーレム『エアリア』が行うことがほとんどのためである。
「人間の操縦を非常時以外禁止、という手もありますね」
「乱暴な話だがな」
「計器飛行は難しいですしね」
視界に頼らず、計器だけを見て操縦するのは難しい。
まだ計器自体の精度や信頼性が不十分だからだ。
「そうすると……補助魔導頭脳……あるいは『MI』を搭載するとか?」
「その方向性はいいかもな。……『レルヒ』に限った話をするなら、人間が操縦するときだけ取り付ける、もしくは作動する、というのはどうだろうか」
「うん、グローマの意見はいいなあ」
こうして、よりよいものを目指すための努力は続いていくのだ。
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次回更新は2月8日(日)12時の予定です。




