97-85 改善点、改良点
夜、仁とエルザは自室で話し合っていた。
「そうか、エルザの方はエイラとグローマに指導をしてくれていたんだな」
「ん、指導というほどのことじゃないけど、ソフト面について、少し」
「どんな感じになった?」
「明日、いろいろ意見が出てくると思うから、そうした影響のない部分」
「というと、基本構成だな」
「うん、そう」
基本構成。この場合は、コンピューターでいうところの『OS』、『オペレーティングシステム』に相当する。
「試作で作ったものは少し無駄があったし、必要のない、使っていないルーチンもあった」
「なるほどな。それを改良したわけか」
「そう。およそ3割、効率アップできた」
「それはすごいな」
「その他にも、修正をしやすいような構成にしたし、あとで見返したときにわかりやすいようにタグとコメントも入れた」
「ああ、なるほどな」
「精神への負担はまったく心配ないし」
「そうみたいだな」
『長老』ターレスからの助言は、仁とエルザも少し聞いていたので、こうした助言もできたのである。
気になる精神への負担は、『集中して本を読む』くらい。
30分ごとに休憩を挟めば大丈夫だろうと思われた。
「そうした時間のカウントは現実時間で行ったほうがいいだろうしな」
「ん」
「あと、安全装置としては何が考えられるかな?」
「私の意見としては、現実時間リミットタイマー」
「ああ、例えば1時間以上は使えなくするわけか」
「そう」
「時間切れになる前に警告は出さないとな」
会議中にいきなり接続が切れてしまうのはやり過ぎだろうと仁は言った。
「それは、そう。……ハードでやる? ソフトでやる?」
「どっちも可能だけど、仮に外部から何らかの干渉をされた場合を考えるとハードがいいのかな?」
「なら、両方」
「それがいいか。ソフトは会議開始時に設定。ハードは1時間がデフォルト」
「うん、いいと思う」
そのあたりはソフト、ハード共に設定が容易な部類なので、後から要望があれば変更することも可能だ。
作り込むべきところは作り込み、可変にできる部分は可変に。
エイラとグローマにはその辺の経験が今ひとつ足りていなかったが、エルザの指導でコツをつかめたようだった。
「あとはシミュレーションか……」
仁は、かつて自分が召喚される前に『ラグナロック』……『神々の黄昏』の名を冠したオンラインゲームのことくらいは知っていた(プレイしたことはない)。
そしてそれに続く数多のオンラインゲーム、シミュレーションゲームも、雰囲気だけは知っている。
なので、『仮想世界』を利用したシミュレーションも、想像することは容易だったのである。
「『慣れる』ことができるかどうかはさておいて、そのままじゃ筋肉はつかない、と思う」
「俺もそう思う」
「地道なトレーニングは、不可欠」
「だよなあ」
寝たままで外部から刺激を与えて筋肉を強制的に動かして鍛える、ということもできなくはないだろうが、やりたくはない、と仁もエルザも思っていた。
「依存性のありすぎる使い方は駄目だな」
「ん」
「それに、使いすぎも」
「同感」
「ちゃんと管理してもらわないとな」
「うん」
管理魔導頭脳『アーサー』に管理を任せるのがいいかも、と仁とエルザは考えた。
「『アーサー』と最高管理官、双方の認可が必要、というようにしたら?」
「それがよさそうだな」
明日、提案してみようと仁は決めたのであった。
* * *
翌日、午前9時、昨日の顔ぶれがもう一度、一堂に会した。
「ご足労くださいましてありがとうございます。短時間に済ませたいと思っておりますのでご協力お願いいたします」
技術主任アーノルトが宣言し、打ち合わせが始まった。
「ではさっそくですが、昨日の『思考会議』についての改善点や欠点の指摘など、よりよいものを作り出すためのご意見をお願いいたします」
「では、私から」
「イルノスキー殿、お願いします」
最初に口を開いたのは『機械研』副室長カイジ・オキ・イルノスキー。
「会議中の本体といいますかな……本人の身体ですが、長時間じっとしているわけですので、できるだけ快適な姿勢をするため、よい椅子がほしいですな」
「なるほど、それは確かにそうですね」
「では、次は私が」
その次は『医療研』のマスミ・ドウメンだった。
「ええとですね、私が感じましたのは、会議中の水分補給やトイレ休憩ですね。それから、会議時は多少なりとも集中していますので、休憩を適宜挟んでいただけたらと思います」
「大事なことですね」
次は『ゴー研』室長ラスナート・ハイルブロン。
「質問というか確認になりますが、あの『仮想世界』ですかな? ……でできることとできないことはなんでしょうかな?」
これには仁が答えた。
「会議、話し合いはもちろん、『会話』で成り立つことはできますね。……これはまだ未知数ですが、訓練的なこともできるようになるかもしれません」
「ほう、例えば?」
「飛行機の操縦法の習得や、体術としての身体の動かし方などですね」
「それは素晴らしい」
「ただし、実際に身体を動かしていませんので、筋肉は付きませんし、『動作に慣れる』こともないだろうと思われます」
「それは残念……」
「あ、それから、設定次第で本を読めますね。……『データベース』に接続する必要がありそうですが」
「3倍速で読めるなら時間短縮になりますね。勉強も捗るでしょう」
「そういう使い方がいいでしょうね」
その後に発言したのは『航空研』室長ロア・エイスカーだった。
「ええとですな、思考を切り替え、『現実』の身体を強く意識して現実に復帰、というのは少々むずかしいですね……机の上などにそうした『現実復帰』のスイッチがあるといいかもしれません」
「ああ、そうですか……要検討ですね」
ゲームでいう『ログアウト』ボタンの設置、ということになるだろうか。
そういうボタンがなくとも意識の切り替えで現実に復帰できるわけだが、慣れないと難しいので『ログアウト』ボタンの設置は有効だろう。
* * *
等々、なかなか有益な意見が多数出た。
そして最後に、『アヴァロン総務局』庶務課長ノリヒト・カショムが、
「夢の中のようでもありましたが、夢の中のようなもどかしさはなかったですね」
という、全員の感想を代弁して打ち合わせは一区切り付いたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240708 修正
(誤)そのあたりはソフト、ハード共に設定が用意な部類なので
(正)そのあたりはソフト、ハード共に設定が容易な部類なので




