97-81 ログイン
20人による『思考会議』のテストが始まった。
《おお、ここが『会議室』か》
《全員の顔が見えますね》
《表情もわかるな》
《動作も反映されるぞ》
《現実とほぼ同じだ》
《この状態で現実に戻れるのかな? やってみよう》
『通技研』副室長ナオ・スルハシはそう言うと、意識をそらす……。
《おお、スルハシ殿がいなくなった》
そのナオ・スルハシは20秒後に戻ってきた。
《お、スルハシ殿。どうだった?》
《何も問題なかったですね。『こっち』にいなかったのはどのくらいですか?》
《体感で20秒くらいかな?》
《……ですか。私としては、『向こう』にいたのは5秒くらいなんですけどね》
《ということは、やはり『向こう』と『こちら』では体感時間が違う、ということか》
《切り替わりに1秒くらい感じたので、やはり3倍くらいこちらの方が速いんでしょうね》
《そういうことか》
そんなやりとりも。
《うむ、表情によるニュアンスも感じられるな》
《……おや?》
《どうしました、サホ・ショマス殿?》
《いや、現実と少し違うことに気が付いたのだ》
《それはなんです?》
《なんというか……『見え方』というかな? 気が付かんかね? それぞれの顔かたち、仕草が『肉眼』よりもよくわかるではないか》
《ああ……確かにそうかもしれませんね》
《私は目があまりよくないのだが、ここに来たらよく見えるので気が付いたのだよ》
《なるほど、そうでしたか》
思わぬ違いというか、メリットも見つかったのである。
《だがそれは会議の妨げにはならないな。むしろ好ましい》
《ですね》
《他に気がついたことは?》
《そうですな、何も持ち込めないのでしょうかな?》
《ああ、それはありますな。会議用の資料とか》
《ちょっと『戻って』聞いてみますか》
そう言って『アヴァロン軍務局』局員ゾデス・クグンは『現実に戻って』いった。
そして数分……。
《長いですな》
《こちらの方が体感時間が速く進むので仕方ないでしょう》
と、そこにゾデス・クグンが『戻って』きた。
《おお、ゾデス殿、どうであった?》
《ジン殿に話をしたら、『できる』とのことでした。ですが、ちょっと時間が掛かる、と》
《それは改造をするということですかな?》
《いえ、『資料』を『データ』として用意する、ということのようです》
仁としては、この日にそこまで要求が出ると予想していなかったこともあり、『会議用資料』の扱いについて、決まってはいても用意をしていなかったのである。
具体的には『データベース』に『資料』を用意しておけば、あとは『データベース』と接続するだけでいいのである。
ただ、そのためには『データ』に利用者の『目印』=『タグ』をつけておく必要がある。
仁が用意しているのはそういうことであった。
《準備不足で失礼しました》
そして、体感時間で約3分後に仁の姿が現れた。資料の束を手に持って。
《おお、ジン殿》
《そこまで検証が進むとは思いませんでしたよ。……で、これが資料です》
仁は、手にした資料の束を持ち上げてみせた。すると。
《おおっ!》
《いきなり手元に資料がっ!?》
《一瞬で手元に!?》
全員の目の前に資料が現れたので、皆驚いている。
《これも1つのメリットです。現実と違い、資料のコピーが必要ない……といいますか、一瞬で終わる……といいますか》
《なるほど……》
《で、現実には持ち帰れませんが、『データベース』にアクセスすればいつでも閲覧できますし、プリントアウトも可能です》
《なるほど!》
《これはいいですな!》
全員が感嘆したのである。
《さて、『思考会議』の場としてのここはどうですか?》
《そうですね、やや殺風景でしょうか。ですが、現実ではないのでいたしかたありますまい》
と誰かが言ったが、仁はそれに反論する。
《いえいえ、逆ですよ。……こういうこともできます》
仁は『思考』で指示を出す……。
《え?》
《あれ?》
《これは?》
一瞬で会議室が消え、会議用のテーブルはそのままだが周囲が緑の草原に変わった。
《……と、こういうこともできます。もちろん、一定の権限がある者限定ですが。……そう、会議の議長とか》
《なるほど……おお、吹く風も感じられる……素晴らしいですね》
《さすがに匂いの再現はできませんでしたが》
やろうと思えばできるのだが、『会議』にそこまでは必要ないだろうと判断したのである。
仮に、新たな食材お披露目がしたい、という時には一旦『現実』に戻ればいいのだから。
《うーむ……これなら会議も捗るな》
《ああ、ジン殿、いくら効率がよくても、会議が長引くことはあるだろう。その場合の……本体? というのかな? 本人か? ……まあ、現実にいる方の食事とか水とかトイレとか、どうするんだ?》
《そこは現実の会議と同じでいいと思いますよ。まあ経過時間を考慮して、こちらで3時間経ったら休憩。現実は1時間くらいしか経っていませんから大丈夫でしょう》
《おお、なるほど》
《それなら安心ですな》
こうした質問も交えて『会議の空間』の検証は進んでいった。
《……体感で1時間半くらい経った気がするので、一旦『戻って』みましょうか》
《うむ》
『医療研』のマスミ・ドウメンからの提案で、全員、一旦『戻る』ことにした。
「おお、戻ってきたな」
「時刻は……1時半か。本当に『向こう』では時の経つのが早いのだな」
「年を取るのも早くならないので助かりましたな」
「いやまったく」
笑い合う面々。
そしてまた『思考会議』に戻り……。
《ううむ、こうしてみるといいことだらけですな》
《これはもう、実用化してもらうしかない》
大好評である。
《デメリットとか、ここをこうして欲しい、とかの要求はありませんか?》
せっかく『現場』に顔を出したので、改善点を挙げてほしい、と仁は言った。
《そうですな……すぐには思い付きませんぞ》
《同感です》
《ジン殿、今はこの初めての体験の印象が強すぎるので、しばらく時間をおいたほうが冷静な判断が下せると思いますぞ》
《確かにそうですね。では、また後ほどお聞かせください》
《わかりました》
そして一同、『ログアウト』したのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日7月4日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20240704 修正
(旧)そして、3分後に仁の姿が現れた。資料の束を手に持って。
(新)そして、体感時間で約3分後に仁の姿が現れた。資料の束を手に持って。




