97-76 リアルな夢の中
日付が変わって23日。
ゴウ、ルビーナ、メルツェらは『アヴァロン』に戻ってきていた。
「昨日はちょうど休日だったから、『分身人形』の行動も楽だったみたいだよ」
「うまく合致したわね」
「アーノルト主任も動いたみたいだ」
「きっと、ジン様もね」
『アヴァロン』自体は年中無休であるが、職員たちには休日があるし、もちろん休暇も取れる。
仁の尽力で、年間休日は70日(有給休暇を除く)。
現代日本から見たらまだまだ少ないが、この世界としては一般の倍以上の日数である。
少ない方と比較すると、例えば貴族家で働く侍女は年間10日以下、事実上無休に近い(病気や、実家での緊急時に休めるくらい)。
近衛騎士だと年間40日くらい(半月の休暇が年2回と有給休暇相当の休日が10日)。
大きな商店(小さな商店はばらつきが多すぎて比較対象になりえない)だと年間50日(10日に1日の休日と、有給休暇相当が10日、年末年始に3日)、となる。
閑話休題。
昨日、つまり22日は、ゴウ、ルビーナらは工房で自分たちのやりたいことを好きにやっている、ということになっていた。
メルツェは自室で本を読み、時々ゴウたちの工房に顔を見せ、談笑している様子が大勢に目撃されている。
仁とエルザは休暇はとらず、『魔導会話機』の検討をしている、ということに。
技術主任のアーノルトは、通常業務だったようだ(管理職の休暇制度は一般職員とは異なる)。
「さあて、今日の9時から、『思考会議』の打ち合わせが再開だね」
「ええ、楽しみね」
「うん、ターレスさんからいろいろ教わったからね」
「でも……」
「どうしたんだい、ルビーナ?」
「ターレスさんが、最後の方で呟くように言ってたことが気になって」
「ああ、あれか……僕もちょっと気になったんだよね」
「ゴウも?」
「うん。……打ち合わせが始まったら、みんなの意見も聞いてみようか」
「ええ、それがいいわ」
* * *
そして午前9時となった。
前回行ったのと同じ会議室、同じメンバーで打ち合わせが始まった。
「それじゃあ、始めようか」
「あ、あの、ジン様」
「うん? ゴウ、どうした?」
「えっと、始める前に1つだけお伺いしたいことがありまして。いいでしょうか?」
「構わないぞ。みんなもいいか?」
誰も異存はなかった。
「では。……ええと、人間同士が向き合い声を交わし合う、旧来の会議も捨てがたいと思いませんか?」
「ふむ」
「ほう」
「なるほどな」
「……」
それぞれの反応を見せたが、皆ちょっと考え込むようだった。
そして最初に口を開いたのは、『思考会議』を言い出したアーノルト。
「確かに、相手の顔……表情を見ながら、また身振り手振り、といった動作も、会議には必要なのかもしれないね」
「うん、とはいえ、結局は『使い分け』じゃないかな?」
アーノルトに続いて、仁も意見を述べた。
「ううん……『思考』でもさ、表情や身振りを表現できないのかな?」
これはエイラである。続いてグローマも発言する。
「うん……『思考』による会議というものが想像できないが、無理に想像すると、頭の中で空想するようなもの……あるいははっきりした夢を見ているような感じかな?」
「グローマの意見はもっともだな。……俺としては、『夢』の方を推したいね」
仁はグローマの意見に思うところがあったようだ。
「夢って、未だによくわかっていないところがあるようだけど、ごく短時間なのに夢の中での体感時間は長いらしいぞ?」
「ん、それは言われている」
「単に頭の中でいろいろ考える、その延長じゃなくて、現実的な夢というか、夢の中で会議をするというか……それができたらいいなと思う」
「ジン、それってさ、それぞれの参加者の夢の中に、会議をしている相手が出てくる、ということかい? それとも、誰か特定の……例えば議長の夢の中にみんなで入っていく感じになるのかい?」
エイラが興味深い例えを口にした。
「さあ、そのへんはまだ、なんとも。……だが、『思考会議』がどうあるべきか、は、もう一度はっきりさせた方がいいかもしれないな」
「確かにそうかも」
「うん、その意見に賛成だ」
仁とエイラのやり取りで出てきた提案に、アーノルトは賛成した。
そこで仁は言い出しっぺのゴウに尋ねる。
「ゴウはどう思うんだ?」
「ええと、『思考』だけの会議だとわけがわからなくなるだろうなと思っていました」
「そうだろうな」
「ですから、『リアルな夢』っていう方向性はいいと思います」
「なるほどな」
ここでエルザも意見を述べる。
「おそらく、だけど……純粋な『思考』での会議、あるいは話し合い、ならそうとう効率が上がる。けど、『夢の中』として行う会議だと、せいぜい現実の2倍か、よくても3倍くらいだろうと、思う」
「……そうかもしれませんね」
が、それでも、1日掛かりの会議が半日で終わるなら意味がある、とアーノルトは続けた。
「……そろそろまとめないか?」
これ以上意見の言い合いをしていると予定時間を大幅に超えることになりそうなので、仁が注意を喚起した。
「そうですね。……では、『思考会議』が目指すのは、『リアルな夢』……『仮想現実』での会議、ということに、仮ですが決めておきましょう」
そういうことになった。
* * *
時刻は午前9時半になるところ。
改めて『思考会議』についての打ち合わせ、話し合いが始まる……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20240629 修正
(誤)事実上無休に近い(病気や実家でも急用時に休めるくらい)。
(正)事実上無休に近い(病気や、実家での緊急時に休めるくらい)。




