96-97 タイヤの検討と行き詰まり
200周したあとのタイヤの摩耗度を比較したゴウとルビーナ。
「うーん、これも、これまでのタイヤの方が減っていないな」
「あたしたちのはグリップ力で劣って、耐久性でも劣るのね……」
「アプローチにも問題があるな」
「えっ!?」
「あ、ジン様」
悩む2人に声を掛けたのは仁であった。
2人の『魔導高分子合成機』による研究がどこまで進んでいるかと調べてみたらカートコースでタイヤの検証をしていることを知ったのである。
そして、カートが200周する途中にコースへやって来て、2人の悩む様子も見ていたのだった。
「アプローチに問題って……」
「元のタイヤのスペックや組成を知らないだろう?」
「あ……う、あ、はい」
「大きさだけしか……」
「だよなあ……おそらく、自分たちが作りたいタイヤを作ろうとしたんだろう?」
「……お見通しですね……」
つまりゴウたちは、カートに使われているタイヤのゴムについて知ろうとせず、自分たちが『自動車』に使おうと思っているタイヤの試作として比較テストを始めてしまったというわけだ。
「だからテストの目的がどっち付かずになっているんだ」
「ああ、そうですね……!」
今回のテストは『自動車用タイヤ』として使えるかどうかであったはずが、『カートのタイヤ』としての比較テストになってしまっている、と仁は指摘したのである。
「で、でも、比較が無駄というわけではないですよね?」
「もちろんだ。耐久性の比較は有効だしな」
要するに、『用途が違うタイヤゴム』の評価方法に問題があるということである。
「問題というより、用途が違うタイヤなんだから、単純な比較結果だけで一喜一憂することはない、ということさ」
「わかりました!」
「ありがとうございます!」
「とはいえ、耐久性に難があるということはわかっているんだから、ゴム硬度か、添加剤か……そうした研究も必要だろうな」
そういう時こそ『データベース』を使え、とアドバイスし、仁はその場を立ち去ったのである。
* * *
「添加剤か……カーボンブラックの他にも何かあるんだな」
「調べるのを怠ったわね……」
反省した2人は、研究室に戻り、さっそく『データベース』を使ってみた。
「『タイヤ』『ゴム』『添加剤』……と……なるほど」
「シリカ、ってなんだっけ?」
「聞いたことがある気がする……自信がないから調べてみよう。……『シリカとは』……っと」
すぐに解答が表示される。
「えーっと、『二酸化ケイ素のこと。無水ケイ酸、ケイ酸、酸化シリコンとも呼ばれる』だってさ」
「あ、そうよ。石英とか水晶とかガラスの成分だわ」
「うん、そうだったね。ということは、ガラスの粒子を混ぜればいいのかな」
「確かに、摩擦力が増えそうね」
「ガラスなら、ギリギリ舗装路を傷つけない……のかな?」
ガラスのモース硬度は5から5.5。
マカダム舗装に使われる砂利は様々な岩石からなり、モース硬度3の石灰岩、モース硬度5から6の角閃石、モース硬度6.5から7の橄欖岩など、硬度もまちまち。
馬の蹄鉄で破損することもあるし、鉄の車輪を付けた馬車の通行でも破損するので、ガラスの粒子による摩耗は許容範囲かな、とゴウとルビーナは考えた。
舗装というものは恒久的なものではなく、定期的なメンテナンスを必要とするものであるため、間違ってはいない。
「でもそれって、舗装道路での話よね」
「うん、ルビーナの言うとおりだ。悪路だと、きっとトレッドパターンとか、ゴムのちぎれ難さとか、そっちの方が問題になると思う」
「そうよね」
とはいえ、タイヤの知識として、添加剤のことを知っておくのは悪いことではない。
「それに、悪路にだって石や岩は含まれるわけで、岩の上で滑りにくい特性も必要だろう?」
「ゴウの言うとおりね」
「ガラスの粉じゃなくて石英の粉の方がいいかもしれない」
「より硬いものね」
それからも相談は続く。
「岩の上で滑りにくくするためには、泥がこびり付かない方がいいのよね」
「でも、摩擦係数を下げるわけにはいないよ」
「それもそうね」
摩擦係数が小さければ、泥もすぐに落ちるわけであるが、今度はタイヤそのものが滑りやすいものになってしまう。
「泥ってやつはタイヤの溝にも詰まるからなあ……」
「それを落とせるといいわね」
「工学魔法『浄化』なら落とせるだろうけど」
「実用的じゃないわね」
「うん……」
「実験を繰り返すことも必要かも」
「そうだね……」
これについては、考えただけでは結論は出ないテーマだと気が付いた2人は、検討の方向を変えることにした。
「悪路用のタイヤって、どんなトレッドパターンがあるんだろう?」
「やっぱりまずは『データベース』よね」
ということで『データベース』で検索。
「ふうん……『縦溝』は排水性に優れているんだ」
「ブロックパターンがオフロード用にはいいみたいね」
「『横溝』は路面の凹凸に引っかかるから走破性がいいみたいだな」
「ブロックパターンは強度的にちょっと不安があるかな」
「そこはゴムの調整でいけるんじゃない?」
など、新たな知識を蓄えていくゴウとルビーナであった。
* * *
仁は、ゴウとルビーナがタイヤの開発で苦労していることを、老君から聞いていた。
『それでも、お2人は一歩一歩堅実に進めているようです』
「そうか、これも経験だからな」
タイヤの開発、ひいては悪路も走行可能な自動車の開発は急がれてはいない。
なので2人に経験を積ませてやりたいと思う仁なのであった。
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