96-96 タイヤテスト
ゴウとルビーナは、カート用のタイヤを試作している。
「……チューブタイヤにはしなくていいわね」
「マキナ様のところは全部そうだったからね」
径が小さいことと、舗装されたコース専用ということで、全ゴムのタイヤを使っていた。
実際の、現代日本で使われているカート用タイヤはチューブレスではあるが、エアを入れて使うものがほとんどだが。
「全ゴムの場合、重くなるんだよね」
「そうね」
空気を入れて使うタイヤに比べ、内部もゴムなため、当然重くなる。
高速で回転するタイヤにとっては不利な条件だ。
回転時の慣性モーメント(物体の回転の変化しにくさを表す量)が大きくなるだけでなく、タイヤそのものが遠心力で変形しやすくなるという不具合も出る可能性がある。
ただ、カート用タイヤは径が小さいためそうした悪影響も小さいのである。
「中に『ライナー(内張)』? を入れればどうかしら」
麻布のように丈夫なメッシュを入れることでタイヤを強化する方法は広く使われている。
「それも試してみよう」
遠心力のような、ラジアル方向(回転軸と垂直)に働く力に対抗するために、ライナー(ベルト)を入れて補強するわけだ。
高速回転するタイヤの遠心力は意外と大きく、トラックのようにタイヤ径が巨大になると、遠心力もさらに大きくなる。
遠心力は質量と回転半径に比例するので、径が倍になれば遠心力も倍。径が4倍になれば遠心力も4倍になる。
ゆえに高速で走る車のタイヤには想像以上の力が掛かることになるわけだ。
「でも、僕の目指すのは悪路も走れる車だからね」
「そうだったわね。なら、パンクしないよう、中空じゃなく中実なタイヤのほうがいいものね」
「うん」
農機具や一輪車にも、ノーパンクタイヤということで中実なタイヤが採用されることがある。
「問題はクッション性ね」
「そういうことだね」
ゴウが作る予定の『自動車』は悪路対応なので、サスペンションのストロークを長く取る予定であるから、タイヤ自体のクッション性が多少低くてもなんとかなると思っていた。
それよりもタイヤのグリップ力と耐久性が問題になりそうである。
「合成ゴムは……ブタジエンゴムがよさそうかな」
「なんとなくだけどそんな感じ」
「あとは混合だけど、そっちはすぐには結論を出せないね」
「そうね。組み合わせは無数にあるものね」
1つ1つ確実に積み上げていかなければならないことを、ゴウもルビーナも知っている。
まずは1つ、『使える』ものを作り出すことだ。
「軟らかめ、でも丈夫に、ってことね」
「うん。だから、層構造にするしかないと思っているんだ」
「それしかないわね」
外側を丈夫に、内側を軟らかく。
ゴウとルビーナはそういうタイヤを作ってみた。サイズはカート用である。
カート用なので、トレッドは単純な『カットスリック』。
つまりスリックタイヤに最低限の溝を刻んだだけのものである。
「これで、標準品の9割くらいの性能が出ていれば試作としては成功かな?」
「そうね、そのくらいね」
就業時間ということで、カートコースの借用許可はすぐに下りた。
ということで、2人はそのタイヤを助手ゴーレム『ピスティ』と『フレール』に持ってもらい、『アヴァロン3』へと向かったのである。
* * *
「うーん、自分で走るとよくわからないわ」
今回は、マキナ3世も従騎士レイもいないので、ルビーナが自らカートを運転し、試している。
……のだが。
「やっぱり『リミッター解除』でないとわからないみたい」
「だろうね」
初心者であるルビーナに対して、その許可は下りなかったのである。
従って、いくらルビーナが無茶をしようとしてもカートがそうした操作に反応しないため、限界付近でのテストにはならないのだ。
「うーん……」
「マキナ様を見つけてお願いする?」
「それが一番なんだけど、僕らでできることはないかな……」
困った時のマキナ様頼み、というのも情けないんじゃないかとゴウ。
「そうよね……うーん……」
ルビーナもその意見には同感のようで、ゴウと一緒に考え込んだ。
「パイロットゴーレムなんてどうかな?」
「カートの運転できるかしら」
「……あ、じゃあ『ピスティ』と『フレール』に運転してもらおう」
「そっか、その手があったわね」
気が付いてしまえばなんてことのないことであった。
すぐに2人はカートを2台貸し出してもらい、『ピスティ』と『フレール』に運転をさせたのである。
2体はすぐに運転に習熟していき、30分後には『リミッター解除』レベルとなったのである。
コースタイムは34.7秒。レイの記録より0.6秒遅いが、上出来だろうとゴウとルビーナは判断した。
「これならいいわね」
「うん、『ピスティ』と『フレール』の周回タイムにもほとんど差がないし」
それは運転技術に差がないということ。比較実験をするにはもってこいである。
同一設定のカート2台。
1台はそのまま、もう1台に新作タイヤをセットする。
『ピスティ』がそのまま、『フレール』が合成ゴムのタイヤのカートに乗って、テストが開始された。
この状態だと、2台の差を見れば、タイムがわからずとも比較できる。
5周した結果、ゴウとルビーナのタイヤを取り付けたカートの方が1.5秒ほどタイムが遅かった。
「うーん、コーナーでスリップしてるよね」
「ええ。横方向のグリップ力が悪いのは一目瞭然だわ」
だが、あともう1つ、比較したい特性がある。
耐久性だ。
ゴウとルビーナは、そのまま2台に、付かず離れずのコースタイム……おおよそ1周36秒程度で延々と周回してもらうことにした。
どちらもほぼ新品のタイヤでスタートしているので、耐摩耗性の比較ができるわけだ。
そして、200周、つまり7200秒=2時間の周回を行い、2台のタイヤの摩耗を比較することに。
さて、果たして結果は……?
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240410 修正
(誤)回転時の慣性モーメント(物体の回転しにくさを表す量)
(正)回転時の慣性モーメント(物体の回転の変化しにくさを表す量)
(誤)「うん、『ピスティ』と『フレール』の周回タイムにもほどんど差がないし」
(正)「うん、『ピスティ』と『フレール』の周回タイムにもほとんど差がないし」




