96-91 高分子合成の専用機と電気技術初期講座4日目
同4日、仁は『魔導高分子合成機』の改良に取り掛かることにした。
1回目ということで、『特定の樹脂』のみを作れる魔導機とするつもりである。
「なるほど、それはよさそうですな。是非お願いします」
朝一番で最高管理官トマックス・バートマンに話を通す。
工房の使用許可も得た。
「よし、礼子、手伝ってくれ」
「はい、お父さま」
礼子を助手に、仁は3基の『魔導高分子合成機』を作り始めた。
礼子がいれば、場所は問わない。
素材は、基本的に工房に置いてあるものを使うが、足りない素材は老君が『転送機』で送ってくれる。
「たまにはこういうのもいいな」
のんびりマイペースで製作したのだが、9時半には3基の『魔導高分子合成機第2試作』が完成した。
1つはアクリル樹脂専用、1つは合成ゴム専用、もう1つはエポキシ樹脂専用である。
大きさは前回持ってきたものの倍(体積で言えば8倍)。
特定の物質に限定したので、生産能力も向上しており、第1試作の4倍。
ただし、材料はカートリッジ式のタンクを使って補充する。
「これでよし。使い勝手を試してもらおう」
仁としては、『合成ゴム用』はゴウとルビーナに。『アクリル樹脂用』はエイラとグローマに。
そして『エポキシ樹脂用』はアーノルトに託し、検証してもらおうと思っていた。
* * *
「なるほど、喜んで預からせてもらいますよ」
まずはアーノルトに。
二つ返事で引き受けてくれた。
「お、ジン、なるほど、窓の材質にもってこいだからね。ありがたく使わせてもらうよ」
「ジンさん、検証は任せてください」
エイラとグローマも喜んで検証を引き受けてくれた。
「ゴウとルビーナは……まだ講義か」
2人は、『電気技術初期講座』の4日目である。
2月5日まで、午前中は空いていないのである。
「2人には午後に渡せばいいかな」
そういうわけで、仁は礼子と共に、一旦居室に戻ったのである。
* * *
「さて、まだ10時か……」
ゴウたちの講義が終わるのが正午、それから1時間は昼休みである。
3時間を無為に過ごすのは、仁としては苦痛であった。
「ゴウたちの講義を聞きに行くか」
「お父さま、お供します」
ということで、仁と礼子は『電気技術初期講座』の様子を見に行くことにしたのである。
今なら、ちょうど10時なので、10時15分までは休憩時間のはずなのだ。
「第2会議室だったな。……すごい人だな」
300人入れる第2会議室は、ほぼ満席であった。
「お父さま、一番後ろに3つ席が空いています」
「お、そうか。じゃあそこに座ろう」
「はい」
礼子が見つけてくれた空席に座り、講義の再開を待つ仁。
やがて10時15分となり、講義用の壇上にゴウとルビーナが姿を見せた。
「では、時間になりましたので講義を続けます。今度は『8.電気の応用』となります」
ゴウが話し始める。
4日めともなると講義にも慣れたのか、なかなか堂に入っている、と仁は感じた。
「これまで、電気はいろいろな物理現象に変換できることを説明しました。それは熱、光、磁力。これを応用すると何ができるか、考えていきたいと思います」
ここでルビーナが、背後の大型魔導投影窓にイラストを映し出す。
薪を燃やした火。
油を使ったランプ、獣脂ロウソク。
水車。
「この絵に描かれた道具は、電気を使った技術で置き換えることができます」
次の絵が表示される。
電熱器。
電球。
電動モーター。
「これらは先日実演しましたね。つまり、魔法によらない技術でこれだけのことができるわけです」
講義を受けている人々は、じっとゴウの説明に耳を傾けている。
「なかなかうまいな」
仁も、ゴウの説明はわかりやすかったし、用意された映像も適切だなと感じた。
「これなら、『電気技術』に興味を持ってくれる者も大勢出るだろう」
それからも、仁は正午まで留まり、ゴウたちの講義を聞いたのだった。
* * *
昼休みを挟んで、午後1時。
仁はゴウとルビーナの工房を訪れた。
「あ、ジン様」
「ゴウ、ルビーナ、ちょっとだけ聞いたが、なかなかよかったぞ」
「え? ジン様が講義を?」
「ああ。後半だけだけどな」
「うわあ……冷や汗が出ますよ……」
「そう言うな。褒めてるんだから」
「はあ……ありがとうございます」
頭を掻くゴウに、仁は苦笑しつつ、用件を告げる。
「今日はちょっと手伝ってもらおうと思ってな」
「何でしょう?」
「2人にも関係のあることだ。アーノルトにはもう話を通してある」
「はい」
そして仁は作業内容を説明する。
「これは『魔導高分子合成機』の改良版、第2試作だ」
礼子に運んでもらった『魔導高分子合成機』を示す。
「大きくなりましたね」
第1試作は10キロ入りのみかん箱を2つ重ねたくらいの大きさだったが、今回のものはその倍の高さがあった。
「生成できる高分子材料も4倍になっている。その代わり、決まったものしか作れないがな」
「といいますと、これは……?」
「合成ゴム専用だ。材料はこのカートリッジ式のタンクに入れて補給する。余った材料はこっちの密閉容器に溜まっていく」
2リッター入りのポリタンクのような形状のカートリッジにより『酸素』と『水素』の元となる『水』を。
そして『炭素』は『黒鉛』から供給されることになる。
『塩素』は『塩化ナトリウム(食塩)』、『窒素』は適当な原料がなかったため、空気中から。
さらに『塩素』を使ったため余った金属ナトリウムは空気中の二酸化炭素と化合させて炭酸ナトリウムにして密閉容器に溜めていくと仁は説明した。
「まあ、窒素を含む合成ゴムは『アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)』くらいだと思うが、その場合は生産速度が遅くなるな」
液体窒素は貯蔵が面倒なので、と仁は説明した。
「で、使い勝手を確認するとともに、いろいろなゴムの適正な用途も調べてくれると嬉しい」
「わかりました」
「ありがたく使わせていただきます」
ゴムタイヤを作る上で適した素材の選定ができるわけで、ゴウとルビーナは仁の配慮に感謝するのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240405 修正
(誤)電気技術初級講座
(正)電気技術初期講座
タイトルも含め、2箇所修正。




