96-68 進む設計と欲しい素材
さて、1月24日。
『通信のネットワーク』と『転移魔法陣のネットワーク』の設置チームが『アヴァロン』に帰還し、報告後休暇となった日であり、また『看護師候補生』がやって来た翌日でもある。
ゴウとルビーナは前日に決めた仕様の詳細検討を済ませ、設計を開始していた。
仕様と設計の間には大きな壁がある。
仕様をまとめた『仕様書』は、完成イメージを明確にするもの。
そして『設計書』は完成するまでの工程を明確にするものである。
『仕様書』は技術を知らなくても書ける。『こういう物が欲しい』という説明書だからだ。
『設計書』は技術的なことを知らないと書けない。『こうやって作る』という手順書だからだ。
それはさておき、ゴウとルビーナの議論は白熱していた。
「後輪はリジッドアクスルで板ばね式のサスでいいよね?」
「ええ。問題は前輪ね」
「悪路での使用を考えると、丈夫な構造がいいよね……」
「ただのストラットだと弱そうよね」
「うん……そこはロアアームを頑丈にすればいいと思う」
「それもそうね」
ここ数日、『データベース』で自動車の構造を勉強していた2人は、そうとう詳しくなっていた。
「減速比は切り替えられるようにするのよね?」
「うん。ローとハイで倍くらいにすればいいかな?」
「回転式エンジンの特性はフラットに近いから、それでいいんじゃない?」
「よし」
「問題はタイヤだ」
「……結局ここに戻ってくるわね」
今現在のタイヤは天然ゴム製である。
南方で採取されたゴムの木の樹液に硫黄を加え、さらにカーボンブラックを加えて作っている。
「ふと思ったんだけど、ゴムを合成できないかしら?」
「うーん……それって、僕らの手に負えないテーマじゃないかなあ……」
工学というよりも化学。あるいは『錬金術』の範疇だろうから、とゴウは答えた。
「そうよね……この前も『データベース』に質問したけど、いい材料はなかったし……」
とはいえ、今後のことを考えると天然ゴムだけでは足りなくなるだろうと思われた。
天然ゴムは、採取元が植物なので再生できるのはいいのだが、樹液ということもあって1日あたりの採取量が限られてしまい、おいそれと増産できない。
もし鉱物資源から簡単に合成ゴムができるなら、増えていく需要も賄えるだろう……というわけだ。
「もう一度、キーワードを変えて検索してみよう」
「それもいいかもね」
と、ゴウの思い付きに従い、2人は『データベース』で再度調べてみることにした。
ゴウは『ゴム』『合成』『廉価』と入力。
ルビーナは『ゴム』『大量生産』『非植物性』と入力してみる。
すると……。
「あ、やっぱり『該当なし』か……」
ゴウの方は空振りだったが、
「あ、1件ヒットしたわ」
ルビーナの方は該当する情報があったようだ。
「ええと……『ゴム性粘土』……そんなのがあるの!?」
記述を読んでいくと、どうやら『ミツホ』で使われ始めたという。
「誰が開発したんだろう……」
「出てないわね……」
「でも、使えるかな?」
「まだわからないわね……」
「取り寄せられるかな?」
「ええと……できるみたい」
「じゃあ、少し取り寄せてみようか」
そういうことになったのである。
* * *
タイヤで少し躓いたものの、設計はまだ終わっていない。
「ブレーキはどうするつもり?」
「悪路を走ることを考えると、ドラムかなあ?」
ディスクブレーキは、ディスクに泥や水が付着すると制動力が落ちるという欠点がある。
対してドラムブレーキは熱がこもりやすく、『熱ダレ』と呼ばれる、制動力が低下する現象を起こしやすい。
「逆に言えば、熱をうまく逃がすことができればドラムにした方がいいわよね」
「うん。……ドラムを魔法で冷却しようか?」
「いいと思うわ。ブレーキは安全性を高めるためには重要な部品ですもの」
「だね」
ブレーキをはじめとする安全のための部品は、限度はあるものの、コストを気にしてはいけないと2人の意見は一致していた。
「定員は?」
「運転席と助手席で2人、あとは荷台にして、そっちにもオプションで座席を設けるのはどうだろう?」
「だいたい6人乗りくらい?」
「うーん、そのくらいかな」
現代日本で使われている2トントラックをイメージしてもらうと近いかもしれない。
日本では、荷台に人を乗せるのは道交法違反だが、アルスにはそんな法律はないので問題なし。
「あとは材質かな」
「コスト的にいって軽銀?」
「そうなるね。サスペンションは鋼鉄かな」
「ばね用のステンレスじゃコストアップになるしね」
「うん。塗装かめっきをすればいいかな?」
「工学魔法という手もあるわね」
「そっちの方がいいかな? めっきや塗装は剥がれた場合に修理が大変だし」
工学魔法『防錆』を使えば、鋼鉄でも錆びにくくすることができるのだ。
「ウインドウはガラスよね」
「さすがにコランダムやキュービックジルコニアはね……」
「『魔導樹脂』も薄くすれば透明になるわよ?」
「そっか。割れにくいからその方がいいかも」
「でしょ」
「『魔導樹脂』も、木から採取するんじゃなく、原石というか鉱石から採れるといいのにな」
「それは同感」
こうして、ゴウとルビーナは『自動車』の設計を進めていったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240313 修正
(誤)『通信のネットワーク』と『転移魔法陣のネットワーク』が『アヴァロン』に帰還し
(正)『通信のネットワーク』と『転移魔法陣のネットワーク』の設置チームが『アヴァロン』に帰還し
(旧)
とはいえ、今後のことを考えると天然ゴムだけでは足りなくなるだろうと思われた。
(新)
とはいえ、今後のことを考えると天然ゴムだけでは足りなくなるだろうと思われた。
天然ゴムは、採取元が植物なので再生できるのはいいのだが、樹液ということもあって1日あたりの採取量が限られてしまい、おいそれと増産できない。
もし鉱物資源から簡単に合成ゴムができるなら、増えていく需要も賄えるだろう……というわけだ。




