96-67 相互変換
さて、同じ頃蓬莱島では、ハンナが独自の研究を進めていた。
テーマは『魔力と電力』。
この2つのエネルギーを相互変換できないか、というものだ。
「うーん……魔力を電力に、は雷属性魔法を使えば可能なんだけど……」
静電気に近い性質の電気ではあるが、一旦巨大な『キャパシタ』(コンデンサ)に電荷を蓄え、後に電流として取り出すことは可能である。
しかし、その逆……電力を魔力に変換することは、さすがのハンナといえども簡単なことではなかった。
「自由魔力素にも『エントロピー』みたいなものがあるのかなあ……」
熱力学で必ず問題となるのが『エントロピー』である。
『熱力学の第2法則』、『熱は熱いものから冷たいものへ移動するが、その逆は成立しない』。
これも『エントロピー』のためである。
『エントロピー』は、よくわからない概念と言われるものの1つであるが、『乱雑さ』の一種と考えると少しはわかりやすいかもしれない。
真空になっている容器に空気を入れると、空気分子はあっというまに容器の中に広がり、ほぼ一様な圧力となる。
決して、空気を入れた直後のように、一箇所に溜まっているようなことは起きない。
この状態を『エントロピー(乱雑さ)』が増大した、という。
『覆水盆に返らず』という故事成語があるが、これも似たようなものかもしれない。
閑話休題。
この『熱力学の第2法則』のため、ガソリンを燃やすと熱と二酸化炭素と水(と若干の不純物)が出るが、それらからガソリンを作り出すには莫大なエネルギーが必要となる。
これと似たような法則があって、『自由魔力素』を作り出すにも莫大なエネルギーが必要となるのではないか、とハンナは想像したわけだ。
「……おそらく、恒星レベルの……」
セラン星系の太陽セランの内部では核融合が起きており、様々な元素と、光と熱エネルギーと……『自由魔力素』が生み出されていると考えられる。
つまり、恒星レベルの核融合を使わない限り『自由魔力素』を生み出すことはできないのではないか、というわけだ。
「うーん……『自由魔力素』はちょっと無理かもしれないけど、『魔力』はどうなんだろう? ……そもそも魔力って……」
以前、仁から受けた説明を思い出すハンナ。
『……魔力とは何か? 狭義の魔力とは、目に見えない、力ある波動である。
魔力は波動であるがゆえに、波長、波高、波形がある。
空間に存在する『自由魔力素』を集めるのもこの魔力であるし、『自由魔力素』を『魔力素』に変えるのも魔力である。
そして、『魔力素』を魔法に変えるのもまた魔力による』
「つまり、狭義の魔力を考えなきゃいけないってことよね……広義の魔力は『自由魔力素』や『魔力素』を含み、『自由魔力素波』も含むから、ややこしいもんね」
考えを整理していくハンナ。
「今、まず考えるべきことは、電気技術で魔力を制御できるのか? ってことと……ううん、もう少し簡単なことから積み重ねていくこと、かな」
ハンナは、一足飛びに電力を魔力に変換する方法を考えるのをやめることにした。
なにしろそれは、まだ誰もなし得たことのない偉業であり、体系だった理論すら皆無。
ならば1つ1つ理論を構築し、一歩一歩目標を目指すしかない。
幸いにして、今は『人造人間』の身体であるハンナには、時間はたっぷりあった。
「まず……電気を使って『雷属性』の『魔結晶』を作れないかな?」
ハンナの研究は、始まったばかりである。
* * *
同じ頃……1月23日……に、ゴウとルビーナは『自動車』のスペックについておおよそのところをまとめていた。
「フレームははしご状のラダーフレームにしよう」
「重くなるけど、頑丈だし整備しやすいものね」
「エンジンは……」
「ゴウ、どうしたの? 回転式にするんじゃないの?」
「うん、そう思ったんだけど、回りだす時のトルクが小さいんだよね」
「その辺は変速機で調整したら? 回り出したら特性は悪くないんだし」
「そっか……『パワートレイン』っていうんだっけ?」
「だと思うわ」
ということで、パワートレイン(エンジンで発生したエネルギーを駆動輪に伝えるための装置)の検討に入る2人。
「ええと、具体的には、エンジン、クラッチ、トランスミッションなどのことよね」
「うん。データベースにはそう載っていた」
2人とも、足りない知識はまず『データベース』で調べているようだ。
「回転式エンジンの特性はややフラットだから、変速機がいるかどうかだけど……」
「『トラック』ということなら、低速でのトルクも必要だから、2段階切り替えができるといいかも」
「ローとハイだね」
一部のオフロード車では、通常の変速機の他に、そうした切り替えを備えているものもある。
ゴウたちの場合は変速機は必要ないが、減速比を切り替えて駆動力を変えられるようにしよう、という考えであった。
『馬力=トルク掛ける回転数』だから、『トルク=馬力割る回転数』となり、つまりトルクを上げるために減速比を上げて回転数を落とすというわけである。
「荷物が重い時にも、この切り替えは有効だと思うの」
「確かに。いいアイデアだね」
「足回りは?」
「この場合、『リジッドアクスル』っていったっけ? それがいいと思う」
『リジッドアクスル』とは、左右の車輪が車軸で繋がっているものである。
「どうして? 独立懸架の方が、多分乗り心地はいいわよ?」
独立懸架とは、4輪(4輪車の場合。6輪なら6輪全部)が別々に支持されている形式である。
その昔、仁が作ったゴーレム馬が曳く馬車も独立懸架であった。
「僕が調べたところによると、悪路を走る車の場合は『リジッドアクスル』がいいそうだよ」
理由はいくつかあるが、車軸が1本に繋がっているため、それらを丈夫なカバーで覆うことができるので、悪路で車体の底をぶつけた際に車軸が守られるというメリットが有る。
また、車軸が車輪の上下に連れて動くため、最低地上高がほとんど変化しないので悪路に強い。
つまり、オフロードにおけるメリットが大きいわけだ。
逆にデメリットもある。
サスペンションを境にして地面側の部品をばね下、車体側をばね上と呼ぶが、このばね下重量が重くばね上重量が軽いと、路面の凹凸をばね上にもろに伝えてしまい、乗り心地が悪くなる。
左右が車軸で繋がっているため、片方の車輪の動きが反対側の車輪にも伝わってしまい、これも乗り心地を悪くする。
メリット・デメリット共にまだまだあるが、サスペンションの形式によっても変わり、車体設計や操縦性にまで関わってくるため、ここでは詳細な記述は省略する。
「うーん……乗り心地を考えたら、運転席のある前輪側は独立懸架にしない?」
「それもいいね」
軽トラックではそうした設計も多いようである。
「サスペンション形式は?」
「後輪は『リジッドアクスル』だから、板ばね式にしたらどうかな?」
「いいと思うわ。前輪は独立懸架にするんだから、ストラット?」
「そんな感じかな」
こうして、構想は進んでいく……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240312 修正
(誤)車体設計や操縦性にまでか関わってくるため、ここでは詳細な記述は省略する。
(正)車体設計や操縦性にまで関わってくるため、ここでは詳細な記述は省略する。




