96-54 転移魔法陣の改良
「今日の『世界会議』もまずまずの内容で終わったな」
「ん、よかった」
「あとは明日の午前中で終わりだな」
「うん、何ごともなければ」
仁とエルザは夕食を『アヴァロン3』で食べている。
「あとは細々した打ち合わせを残すのみだから、大丈夫だろう」
「うん」
ゴウとルビーナの『電気技術初級講座』の開催に対しても好反応だった。
エイラとグローマの『動作解析システム』も大好評、2人は『総合技術士』に認定された。
『アヴァロン病院』もその役割と機能を広く知らしめることができた。
これにより、『医師免許』を発行できるのは『アカデミー』のみとなったのである。
「まあ、今後『世界会議』で、そうした『組織』を認定すれば、『アカデミー』だけじゃなくなるだろうけど……」
という仁の言葉を、エルザは否定する。
「その前に『アヴァロン病院』が、全世界の『病院』の頂点に君臨すれば、いい」
「おお、なるほどな。エルザとリシアがいれば可能だろう」
「ううん、ジン兄の協力も、必要」
「ああ、エルザの頼みなら医療機器でもなんでも作るぞ」
「ん、頼りにしてる」
そしてまた、他愛もない話も交えた2人の会話は続く。
「カレーも大好評だったしな」
「うん、よかった」
「魔導オシロスコープのデモもできたし」
「あれは、どう使うのかわかってなかった人が、多かったみたい」
「それはしょうがないな」
『アヴァロン世界医師団』が、ショウロ皇国北部の村を巡って、一定の成果を挙げた報告もできた。
『ベルリッヒ工房』が開発した『強化服』も好評であり、各国から引き合いが来ている。
「『アカデミー』が、自由な学府として認められたのは、よかった」
「もっとも、この世界を不幸にしそうな研究は規制されるけどな」
「それは、仕方がない」
「ああ、あと、『通信距離を延ばす』ために、各国に中継機を埋設する許可が出たのはよかったな」
「同感」
「各国が『大使』を置くことになったのもいいよな」
「ん。超重要な事柄以外は即決定できそう」
その他にもいろいろな報告がなされ、さまざまな事項が決定され、いくつかの事件の顛末の説明が行われていたのである。
「明日は『転移魔法陣』の設置について、説明するの?」
「うん。頼まれてるからな」
「……例の件は?」
「3つにすると消滅するやつのことか?」
「うん、そう」
必ず2つ1組となる『転移門』(片方が壊れたらそのペアはもう機能しない)と違い、『転移魔法陣』は『同じ性質』のものをいくつでも作れる。
2つ1組なのに、もう1つ同じものがあると、転移した物体は(人間も含む)亜空間に閉じ込められてしまうらしく、2度と出現しないのである。
検証実験を除き、そうした事故はこれまでにまだ起きていないが、それは運用されている『転移魔法陣』が少なかったためともいえるので、楽観視はできない。
「1つ、アイデアがある。この前、ハンナちゃんが言ってた」
「聞かせてくれるか?」
「もちろん。それは……」
エルザは1つのアイデアを説明する。
「……そうか、なるほど……」
そのアイデアを聞いた仁は、しばらく考え込むのだった。
* * *
そして、『世界会議』最終日の1月18日。
「今回の『世界会議』も無事終わろうとしています」
新議長、エゲレア王国第3王子アーネスト・エルム・アンドレアのそんな言葉で最終日の『世界会議』は始まった。
「最終日の今日は、『転移魔法陣』による交通網の構築について話し合いたいと思います」
「予定どおりですな」
「そこでまず、『転移魔法陣』について、今代『魔法工学師』のジン殿に簡単な解説をお願いします」
ここで、仁の出番である。
「ええ、ジン・ニドーです。魔法陣技術は正直専門ではないですが、『転移魔法陣』につきましてはいろいろと研究しておりますので、ご説明させていただきます」
「ジン殿、よろしく頼みます」
仁はまず転移の原理から説明。
2つの地点を繋ぐトンネルを作るものであること。
トンネルの中を通過する際の時間は無限小であること。
基本的にトンネルは双方向だが、動作中は逆方向には向かえないこと。
2点間を繋ぐために魔力の同期が必要なこと、などだ。
「この、『同期』を楽に行うために、新たな技術が開発されました」
「ほう?」
「ジン殿、それは? ……我々も初耳ですぞ」
仁の説明に、『アカデミー』の学長、セイバン・イライエ・センチも驚いていた。
「つい最近開発された技術です。……それは、2つの魔法陣を同期させる回路部分を、『魔導式』だけでなく、物質的に……『魔結晶』も使うことです」
特定の処理を行った『魔結晶』を2つに割ることで、魔力的なつながりを構築することができると仁は説明。
「これまでは、2つを同期させるための回路の構築に1時間掛かっていたところを1分で済ませることができます」
「それはすごい」
「さすが『魔法工学師』だ!」
これが、昨夜ハンナから聞いたアイデアを形にしたものである。
仁はエルザの説明を聞くと、大急ぎで蓬莱島に移動し、実験をして確認したのである。
なお、『3つの転移魔法陣』の危険性については公表しない。
簡単に悪用できるからだ。
そして、1時間の作業が1分になる(一般的な技術者の場合)なら、まず旧式の『転移魔法陣』を作成しようとは考えないだろう、というわけである。
そのうちに旧式の『転移魔法陣』は忘れ去られてしまえばいい、とも思っていた。
「『魔結晶』の処理とは、魔法陣に組み込めるよう平板状に『変形』するだけです」
「なるほど、それは簡単ですな」
「必要なのは『闇属性』の『魔結晶』ですが、これは割合採掘されていますので、問題ないでしょう」
「ふむ」
「大きさも、小指の先程あれば十分ですので、運用上は問題ないと考えます」
「それがもたらす利益を考えればお釣りが来ますなあ」
「詳しい仕様は後ほどまとめて資料をお渡しします」
「よろしくお願いします」
これで、『転移魔法陣』による事故も、未然に防げそうである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240228 修正
(誤)「『アカデミー』が、自由な学府として認められたたのは、よかった」
(正)「『アカデミー』が、自由な学府として認められたのは、よかった」




