96-53 大使
『世界会議』3日目の午後。
『アヴァロン』の今後についての話し合いである。
といっても、今の『アヴァロン』は独立した組織になりつつあるため、『自治権』についてがメインの議題である。
今のところ『アヴァロン』を運営している予算は、各国からの寄付によるものが50パーセント。
そして『アヴァロン』で生産した魔導具・魔導機の売上が50パーセントといったところだ。
仮に各国からの寄付金がなくなった場合、『アヴァロン』は立ち行かなくなる。
『アヴァロン』にとっては枷ともいえるが、逆にこのことが、『アヴァロン』が暴走しない安心材料ともなっていた。
「『アヴァロン』も充実してきましたが、まだ独立自治を認めるには時期尚早でありましょう」
「異議なし」
「そのとおりですな」
独立自治を認めるということは、国家に準ずるということであるから、ある意味当然と言える。
「『世界警備隊』には、どの国にも属さず、中立を保つというスタンスは継続してもらいたい」
「そのとおり」
「異議ありません」
「『アヴァロン』も同様なのかどうかだが……」
「それはどうなのでしょうか?」
『世界会議』の下に『世界警備隊』があるように、『アヴァロン』という組織も、『世界会議』の下にあるべきだ、という意見が多かった。
「『アヴァロン』は『世界警備隊』と『アカデミー』を擁しているわけです」
「ふむ」
「『世界警備隊』が『世界会議』の下にあるなら、『アカデミー』もまた同じではないでしょうか」
「さあ、そこだ」
「マキナ殿?」
これまで黙っていたマキナ3世が口を挟んだ。
「学問は、束縛を受けるべきではないと、俺は思っている」
「なるほど、一理ありますな」
「だから、『アカデミー』は、『世界会議』よりも束縛してほしくはない」
「仰ることはわかりますが、なかなか難しい問題ですぞ」
「それは承知している。だから『条件付きの自由』とでも言おうか、そうしたレベルに留めてもらいたいと思う」
「なるほど」
「条件付きの自由、ですか……具体的に何か草案が?」
この質問にマキナ3世は頷いた。
そして案を述べる。
「もちろんだ。……殺傷兵器の開発、環境破壊の可能性のあるもの、その他人類を、この世界を不幸にしそうなものは規制する。そうでないものについては干渉しない」
「ふむ、わかる気がしますな」
「禁止ではなく規制、というところが肝要だ」
『世界警備隊』が準軍隊であるからには、武器・兵器の所有も必要であるし、相手によってはそれを使用する必要も出てくるだろう。
「そのとおりですな」
「抑止力としての兵器所有は必要でしょうし、そのための開発も禁じるわけにはいきませんね」
「規制するのは『世界会議』が、となるのだろうな?」
「そうでしょうな」
今現在、通常の『世界会議』は年4回開催されている。『臨時世界会議』も入れれば、年平均6回は開催されている計算になる。
「開発そのものは規制しないとして、試作レベルまでできたなら報告義務を課すべきでしょうな」
「その辺が落としどころでしょうか」
「これについても、初めての規約になるので、1年程度は『仮』ということで試しに運用するのはいかがでしょう?」
「うむ、いいでしょう」
「『世界会議』ごとにチェックをするわけですな」
「それならよろしいでしょう」
「うーむ……」
「おや、ゼムリップ殿、どうなさいました?」
「そのことにも関係すると思いますが、1つ提案がありまして」
「お聞かせください」
「では……」
ショウロ皇国厚生相、ゼムリップ・プリング・フォン・バロックの提案。
「それは、各国から『大使』とでもいう要員を『アヴァロン』に常駐させたらどうかということなのです」
「ほほう」
「なるほど……」
その『大使』が随時本国とやり取りを行っていれば、先程問題視された『アカデミー』の規制もしやすいのではないか、ということである。
「確かに、いいかも知れませんな」
「『アヴァロン』側はどう思われます、トマックス殿?」
「悪くないと思います。ただ、その『大使』がどのくらいの裁量権を持つのか、はっきりさせておく必要がありますな」
「それは確かにそうですな」
「単なる本国との連絡員ではなく、『大使』に準じるわけですからな」
この場合の『大使』とは、国を代表して外国に派遣されている外交官のことで、『特命全権大使』の略称である。
ちなみに、『領事』は、自国民に対する保護やパスポートの発行、また自国のビザの発給、自国のビジネスの促進などを行う。
つまり『領事』は現地にいる自国民へのサポートを行う役職と言える。
「『準大使』なのだから、全権を持つ、でいいのでは?」
「そうですな」
「滞在場所が国家ではないだけですからね」
そういうわけで、各国から『大使』が派遣されることになった。
「大使館は無理ですので、執務室・応接室・休憩室・居間・寝室・バス・トイレといった設備を用意すればいいでしょうか?」
トマックス・バートマンが確認するように質問をした。
「そうですね、それでいいでしょう」
「で、何人が常駐することになるでしょう?」
「2名くらいが妥当でしょうか」
「1年毎に交代、というように致しますかな」
「2人ですから、半年ずらしたらどうでしょうか」
完全入れ替えでは引き継ぎが面倒だろうというわけだ。
「確かにそうですね。では、最初だけ、1名は1年、もう1名は半年で交代とすれば、次からは全員が1年交代でいけるでしょう」
「それはいいですね」
と、このようにして各国から『アヴァロン』に大使を置くことに決まった。
なお、居住施設や大使館(大使部屋?)の準備があるので、正式認定は次回の『世界会議』で行うこととなった。
* * *
その他にも、今後の『アヴァロン』への移動方法や、『転移魔法陣』のネットワーク、そしてその運用上のセキュリティに付いても話し合われたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240227 修正
(誤)「開発そのものは規制しないとして、試作レベルまでできたなら報告義務を貸すべきでしょうな」
(正)「開発そのものは規制しないとして、試作レベルまでできたなら報告義務を課すべきでしょうな」
20240229 修正
(誤)「確かに,いいかも知れませんな」
(正)「確かに、いいかも知れませんな」




