96-47 15日の終わり
デウス・エクス・マキナ3世が出ていったあと、ゴウとルビーナは考え込んでいた。
「……やっぱり、素材単体で理想の特性を出すのは無理なのかしら」
「うーん…………そうなるのかな……」
「タイヤ表面……『トレッド』に弱い『接着』を掛ければ、滑らないタイヤができると思ったんだけど……」
「ああ、わかるよ。僕も似たようなことを思い付いていたし」
「ゴウも? そうよね、マキナ様の話を聞けば思い付くわよね」
2人は微笑みあった……が。
「それで本当にいいのかな……」
「うん……」
「エンジンはともかく、タイヤは消耗品だから、あまり手の込んだことはしたくないんだよね」
「同感よ。……もう少し考えてみましょう」
ということで、その日の午後いっぱい、2人は考えていたが、いいアイデアは出ずじまいだったのである。
* * *
「まあ、こんなこともあるよ」
「うん……」
夕食時、ゴウとルビーナはぐったりした顔で食堂にいた。
それを見つけたメルツェは何ごとかと驚き、すぐにそれと察した。
「……2人とも、しょんぼりした顔してますね。研究がうまく行っていないんですか?」
「メルちゃん、わかる?」
「そりゃ、わかりますよ」
友達ですから、と言ってメルツェは笑った。
「そういうときは……」
「そういうときは?」
「何もかも忘れて気分転換するんですよ!」
やけにテンションの高いメルツェである。
「……メルちゃん、疲れてる?」
「え? ……ええ、ちょっと」
「ああ、『世界会議』の裏方をやっていたからだね」
「ゴウさんの言うとおりです……」
「……じゃあ、今夜は3人で賑やかにやろう!」
「ふふ、そうですね」
「賛成!」
「じゃあ、『アヴァロン3』へ行こうか」
こういう時……というわけではないが、『アヴァロン3』の食堂には個室もあるのだ。
食事をしながらの打ち合わせや、仲間内だけでのお祝いごとなどができる。
『アヴァロン1』にもあるのだが、今は『世界会議』の最中なので厨房が忙しく、メニューも普段より少なくなっているほど。
なので『アヴァロン3』で、というチョイスになるのである。
まだ食事のオーダーはしていなかったので、3人は連れ立って『アヴァロン3』へと向かったのだった。
* * *
『アヴァロン3』の食堂は、それほど人もおらず(最近少しずつ利用者が増えているようだが)、個室を借りることができた。
そして、3人は未成年なのでアルコール類のオーダーはできなかったが、ルビーナとメルツェが『甘いもの』を大量にオーダーしたのである。
ショートケーキ、シュークリーム、ドーナツ、プリン、アップルパイ……。
「おいおい……」
ゴウも、甘いものは嫌いではないが、目の前に山と積まれると見ただけでお腹が一杯になってしまう。
「たまにはいいのよ!」
「疲れたときには甘いものがいい、と言いますし」
「……」
それでも、楽しそうなルビーナとメルツェを見ていると、ゴウも楽しまなきゃという気になってくる。
そこでシュークリームを2つ3つ頬張る。
「ゴウも食べてるわね! そうこなくちゃ!」
「あ、甘い……お茶がほしい……」
ゴウは煎茶を頼み、飲みながら甘味を口にしているが、ルビーナとメルツェは談笑しながらドーナツを食べ、プリンを口に運び、アップルパイを味わっていた。
それを見たゴウは、この2人には敵わないな、と諦めたのである。
だが同時に、もやもやしていた気分がすっきり晴れたことに気が付く。
友達はありがたいな、としみじみ思うゴウであった。
なお、食後、胸焼けに悩まされた模様。
* * *
夕食後……午後9時、ようやく落ち着いた仁はエルザと語らっていた。
「……そう、カレーは好評だったの。うん、わかる」
「よかったよ。これで、各国でのスパイス栽培も盛んになってくれるだろう」
「そう期待したい。併せて薬草類の栽培も」
「だな」
スパイスの一部は薬草でもあるから、栽培が盛んになるのはエルザとしても望むところであった。
「『ターメリック』は是非ほしい」
「ああ、『ウコン』だな」
「ん。今までは、黄色の染料としての用途がメインだった」
「そうらしいな」
ウコンからは黄色の染料が作られるのみならず、カレーのスパイスの1つ『ターメリック』としても有用である。
そして薬草としても、『健胃作用』『肝機能の回復』『動脈硬化の予防』『生活習慣病の予防』といった効果が期待できるのだ。
「漢方の本は、勉強になった」
「みたいだな」
『漢方』は、これまで顧みられなかった分野だけに、今後の成長が見込まれるわけだ。
その中心となるのが『生薬』である。
『治癒魔法』だけに頼るのでなく、サポート的に『薬』を併用することで治りが早くなることもわかっている。
「『食事療法』も興味深い」
「だな」
ナルンの肥満を治すにあたっても、『食事療法』との併用が行われた。
今後、期待できる分野である。
「それだけに、漢方を扱える医師がいないんじゃないか?」
「ん……それが問題。だから、私たちも一緒に学び、研究していきたい」
「今年の目標の1つか」
「そう」
「それじゃあ、薬草探しも一層強化しなくちゃな」
「ん、期待してる」
老君なら『覗き見望遠鏡』を使い、そうした植物を探すことも可能だ。
ただし、探す対象は小さく、世界は広い。それ相当の時間が掛ることは間違いない。
医療の新たな挑戦は、始まったばかりである。
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