96-30 ゴウのエンジン
同11日、ゴウとルビーナ。
2人は『電気技術講座初級編』の準備を終えたので、今度は自分たちのやりたいことに取り掛かっていた。
「午前中はゴウの、午後はあたしの、でいい?」
「うん、それでいいよ」
ということで、午前中はゴウの目標の1つ、『自動車』の研究をすることにした。
「中心となるのはエンジンだと思うんだ」
「異議なし、よ」
そんな短いやり取りを経て、2人は自動車用のエンジンについて考え始めた。
実は2人にとって、ほぼ初めてのテーマである。
同じエンジンでも航空機用のジェットエンジンやロケットエンジンは手掛けていたのだが、自動車を動かすための『回転する』エンジンは初めてであった。
「エンジンって、回転数とトルクと仕事率が問題になるんだよね」
「仕事率……馬力よね」
「そうそう」
「電動モーターって、その点かなり理想に近い特性だって聞いたわ」
「うん……魔力でモーターを作れないかな?」
「つまり、魔力で斥力を発生させようというわけね……」
斥力とは、つまり反発力である。
「魔力による斥力……ってあるのかしら?」
「うん……」
2人は首を傾げ、考え続けた……。
* * *
仁が、ゴーレムの腕の機構を利用してクランクシャフトを回した『ゴーレムエンジン』を作ったことはよく知っている。
だが2人は、それを使うのではなく、独自にエンジンを作れないか、考えてみたかったのだ。
仮に、2人のアプローチからエンジンにたどり着けたなら、レシプロエンジンに対するロータリーエンジン的な位置づけになるだろう。
* * *
そして、1つの取っ掛かりを掴んだのはゴウだった。
「……『石つぶて』の力って、何だろう?」
「うーん……斥力なのかしら?」
「仮に斥力じゃあないにしても、物体を弾くというか投げ飛ばすというか、とにかく『遠ざける力』なんだから、使えるかもしれない」
「そのとおりね」
ということで、この線で考えてみることにした2人。
「タービンみたいにして、ローターを『石つぶて』みたいに押せばいいのかしら?」
「そうだろうね。形状とか『石つぶて』を発生させる極とか、考えてみなくちゃ」
「そうね」
そこで2人は、まず簡単なモデルを考えてみることにした。
「回転軸から棒を出して、その先に重りを付けることを考えよう」
「バランスは無視ね」
「うん。……その重りに対し、『石つぶて』を使うことで、重りは運動エネルギーを受けて動き出す」
「取り付けられている軸を中心に回転するってわけね」
ここで問題が1つ。
「重りがちょうど1回転したら、あらためて『石つぶて』を掛けなければいけないんだけど、そのタイミングをどうすればいいか、だね」
「そうね……『石つぶて』は『強風』みたいに掛けっぱなしにできる魔法じゃないものね」
センサーで回転角度を読み取って、『石つぶて』を発生させるタイミングを読まなければならないだろうというわけだ。
「『強風』なら、吹かせっぱなしでいいのにね」
「うん……だけどそれって、モーターというよりタービンだよね」
「まあそうかもね」
それはそれで使い道は多そうだが、今自分たちが開発したい方向性ではないと2人の意見は一致した。
「それに、風属性魔法だと回転数は高いけどトルクは小さそうだし」
「それはそうね」
「やっぱり土属性魔法で実現させたいな」
「そういうところ、ゴウって頑固よね」
「そうかな? 自分ではよくわかんないや」
ルビーナに指摘され、ゴウは頭を掻いた。
「……そんなところ、嫌いじゃないけどね」
「え?」
「なんでもないわ。……水魔法も使いたくないのね?」
水属性魔法『水の急流』を使えば、水で羽根車を回すことができ、風の時よりは回転数は低く、かつトルクは高くできそうである。
が、ゴウはこの方向性も否定した。
「いずれそっちも検討してもいいけど、僕が今開発したいのは土属性魔法を使ったエンジンなんだ」
「わかったわよ。午前中はとことん付き合うわ」
「ありがとう」
真剣に考え始めた2人にとって、軸の回転角度を検知して魔法を放つことは、それほど難しいことではなかった。
軸に円板を取り付け、そこに何らかの印を付けておき、その印を検知して魔法を放てばよい。
「できそうだね」
「ええ」
次に2人は、より実用的な構造を考えていく。
バランスのために、重りは180度の位置に合計2個とし、魔法を放つ極も2つとすることで、回転のバランスが取れるようになる。
「基本はこれだね」
「そうね、いいと思うわ」
「トルクを増やしたいなら、重りを4個とか6個、8個にする手があるし」
「魔法の極を増やす手もあるわよ」
前者はローターの質量が重くなるため、回転速度を激しく変化させる用途には不向きである。
後者は制御がやや難しくなるが、2人なら問題はない。
「そうすると、回転バランスを考えると、重りは90度ごとに取り付けるのがいいかな?」
「4個ってことね。いいんじゃない?」
「魔法の極はどうしよう?」
1つにして、90度回転するたびに『石つぶて』を放つ、というのがもっともシンプルだ。
が、回転軸に『曲げ』の力が加わることになる。
その『曲げ』の力を打ち消すために、極を180度回転した位置にもう1つ設ければ、『曲げ』の力は打ち消し合うことになる。
要は、対向した偶数箇所に『極』を設置すればいいわけだ。
「重りが4個だから、極も4箇所にしよう」
「バランスはよさそうね」
そこで簡単なイメージスケッチを描いていく2人。
「うーん、タイミングを読み取る方法が今ひとつだな……」
「そこはこうしたら?」
などと新たな問題点も出てきて、午前中はそこまでで終了となったのである。
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