96-26 医療用魔導頭脳開発依頼
1月10日の朝。
仁は昨夜、エリアス王国から『アヴァロン』に戻ってきていた。
そして、朝食後、エルザから相談を受けていた。
「医療用の『魔導頭脳』か……」
「ん。アステロ子爵に『記憶走査』を使い、記憶をチェックしたわけだけど、老君にやってもらったわけで……」
「ああ、それを、専用の『魔導頭脳』にやらせたいわけか」
「うん、そう。あと、カルテの整理とかもできるといい」
「なるほどな。カルテは『データベース』と共用してもいいよな?」
「かまわない。けど、プロテクトは掛ける」
患者のプライバシーに関することなので、医療関係者しか見られないようにしたいとエルザは言った。
「わかった。それは問題ないだろう」
『アヴァロン』の『医師』であることを『身分証』の認証用チップ(超小型の魔結晶)を併用して登録することで、他者には見られないようにプロテクトを掛けることができるだろうと仁は考えている。
場合によってはさらにプロテクトを掛けることも考慮する必要があるかもしれないが、とも考えている。
現代日本でも、個人データの流出は大きな問題となっているから、厳重な管理を行う必要があるのだ。
「問題は……」
「何か、ある?」
「できれば『アカデミー』の誰かに作らせたいなあと、な」
仁が指導しながらにせよ、『アカデミー』の技術で作って欲しい、と思うのである。
「それは……わかる」
エルザも、仁が言わんとすることを察したようだ。
「いつまでも、私たちに、頼っては、だめ。そういうこと」
「そうなんだ」
400年前には、おそらく仁たちが便利な魔導具や魔導機を作り、普及させていったものと思われる。
しかし『魔法連盟』によってそうした魔法技術は廃棄されてしまい、継承されなくなってしまった。
新たに作り出すこともできず、文明は3456年に仁が初めてこの世界にやって来た当時のレベル近くまで衰退してしまったのである。
それはさておき、今の仁はそうした過去を踏まえ、できる限り『今』を生きる技術者のレベルを上げたいと考えるようになっていたのである。
そしてそれは、エルザも似たような思いを持っている。
突出した技術を持つ数名の治癒師ではなく、技術のサポートを受けた『医師』なら誰でも治療できるシステムを構築したいと……。
「うーん、ゴウとルビーナも今は忙しいし、グローマとエイラも『総合技術士』認定前の大事な時期だしなあ……」
指導して作らせるにしても、それなり……いや、相当の技術を必要とする。
「ベルリッヒ工房は?」
「ああ、そうだったな……ベルリッヒ・ベッカーなら……うん、試してみよう」
今年から『アヴァロン』所属となったベルリッヒ工房。
その工房長であるベルリッヒ・ベッカーは5代前にランドル家から分かれた家柄である。
つまりラインハルトの子孫なのだ。
それを差し引いてもベルリッヒはなかなか有能である。
「アーノルトに相談してくるよ」
「ん、お願い」
そういうことになった。
* * *
「ははあ、ベルリッヒ君を『魔導頭脳』技術者に、ですか」
「そう考えているんだが」
「いいと思います。……僕も協力したいんですが」
アーノルトもまた、『魔導頭脳』に詳しいのである。
「それは助かるよ。それじゃあ、さっそく話をしに行こう」
* * *
「え、私が『魔導頭脳』を?」
「そういうことになる。もちろんジン殿が指導してくれるし、僕もサポートしよう」
「やります! やらせてください!」
即答だった。
それはそうだろう、『魔法工学師』が指導してくれる上、『技術主任』がサポートしてくれるというのだから、向上心のある技術者ならこぞって飛びつく案件である。
「よし、それじゃあベルリッヒを中心に、工房メンバーも含め、指導を始めよう」
「よろしくお願いします」
話がまとまり、即指導、ということになった。
「おーい、みんな集まってくれ」
「はい、工房長」
「どうしたんですか?」
「指名依頼だ。我が工房に、最新型の『医療用魔導頭脳』を製作してほしいと依頼が入った」
この知らせにメンバーの大半が驚いていた。
そこでベルリッヒ・ベッカーはすぐに補足説明を行う。
「これはチャンスなんだ。『魔法工学師』のジン殿が指導をしてくれる。技術主任のアーノルト殿もサポートしてくれるという。これはもう、受けるしかないじゃないか」
「そういうことでしたか」
「でしたら、是非やりましょう!」
メンバーたちも大乗り気。その様子を見て、いい工房だな、と仁は思ったのだった。
* * *
「まずは要求されるスペックを説明しよう。……『医療用』ということで、機能がかなり特殊なものになる」
仁はベルリッヒ工房全員に向かって説明を開始した。
「……カルテの管理も含め、データ解析・処理能力を強化する必要がある」
皆、仁の説明を理解しながら耳を傾けていた。
「……以上だ。何かわからないことは?」
「はい」
「ジョウ・ハットー君だったね。何か?」
「はい。ええと、情報解析能力を極限まで高める理由が、患者さんの記憶情報の精査ということでしたけれど、人間の記憶ってそんなに量が多いのですか?」
「なるほど。知らないのも無理はない。いろいろな研究がなされていて、諸説あるものの、人間の脳の記憶容量は、最高品質の『魔結晶』にも入り切らない程だという」
「そ、そんなに……」
「もちろん、これは容量であって、全部が埋まっているわけじゃないからな」
「あ、そうですね……」
現代日本でも諸説あり、250万ギガバイトとか、150テラバイトとか、1ペタバイト(1024テラバイト)とか言われている……。
閑話休題。
その後も2、3の質問に答えた仁は、いよいよ本格的な講義を始めるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日1月31日(水)は14:00に
『蓬莱島の工作箱』を更新します。
https://ncode.syosetu.com/n0493fy/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20240131 修正
(誤)現代日本でも、個人データの流出は大きな問題となっているから、厳重な管理体制を行う必要があるのだ。
(正)現代日本でも、個人データの流出は大きな問題となっているから、厳重な管理を行う必要があるのだ。




