96-21 時間超過
仁は、ちょっと思い付いたことがあったので、『データベース』にアクセスし、エイラとグローマが解析した鳥の羽ばたきデータを確認していた。
『魔法式動作解析機』のデータは、『データベース端末』から『データベース』に送られ、共有される。
仁は正式な手順で、『アヴァロン』内の『データベース端末』を使っているのだ。
「うーん、……なんとなく物足りない……というか操作に不満がある……あ、そうか」
自分が知っている『パソコン』は、キーボード入力だけでなく、『マウス』『トラックボール』『タッチペン』などによる入力ができた……という記憶を思い出した仁である。
データのやり取りは『USB』や『ATA』などという規格があった気がする……と、仁は現代日本時代を思い出した。
「データ入出力は専用の端子があるからいいとして、『マウス』……だろうな、やっぱり」
魔力によるデータのやり取りは、『読み出し』を利用した専用端子がある。
これはコネクタではなく、タッチパッドのような形状の端子に、『情報を保存した魔結晶』や『情報を持っているゴーレムや自動人形』の身体の一部(掌でよい)を接触させる方式である。
そんな時、思い付いたことが1つ。
「『ワープロ』のキーボードも流用できそうだ」
基本的に共用できるはずである。
仁は鳥の羽ばたきデータを見るのをやめ、マウスの実用化について考え始めた。
「ええと、機械式のものはボールを転がしていたけど、レーザー式というのもあったな……」
どちらも、XーY(縦横)方向のマウスの動きを検知し、それを画面に表示されたカーソルもしくはポインタの動きに反映させるわけだ。
これはGUIの重要な構成要素である。
「電子機器は、そっちの知識がないから作れないが、魔導機で同じようなことをさせることはできそうだ」
というわけで、仁はすっかりそっちの考えに夢中になったのである。
* * *
「これでいいかな」
「いいと思うわ」
午後5時半、就業時間を30分超過して、ゴウとルビーナは『電気技術初級』用の講義内容を決定し終わったのである。
「……疲れたわ」
「……疲れたな」
ということで、まず2人は浴場へ向かった。
夕食時なので空いている。
ゴウもルビーナも、それぞれ男湯と女湯で1人のんびりゆったりお湯に浸かることができたのであった。
風呂から上がった2人が食堂へ行くと、メルツェが待っていた。
「遅かったわね、2人とも」
「うん、お風呂に入ってたから」
「私も入ったけど、ルビちゃん来なかったじゃない。……残業したんでしょ。どうなの、ゴウさん?」
「え? ……うーんと……」
「やっぱり残業したのね」
「……うん……ちょっと結論が出なくて……」
「わかるけど、ちゃんと休憩も取らなくちゃ駄目よ? わかった? ゴウさん、ルビちゃん?」
「はい……」
「はーい……」
メルツェには弱い2人であった。
* * *
仁はといえば、マウスをどうするか考えている最中、
「あ、まだ何かやってる」
とエルザに見つかって、半ば強引に夕食に連れて行かれていた。
向かったのは『アヴァロン3』の食堂。
マキナがゴウたちに奢った際に使った食材が残っているので、廃棄が必要になる前に消費してしまおうと……いうわけでもないが、他者の目がないところということでこちらにしたようである。
仁、礼子、エルザの3人しかおらず、盗聴の恐れもない。
「……何かあったのか?」
この場所を選んだ理由が気になり、食後のお茶を飲みながら、仁はエルザに尋ねた。
「……ちょっと、気になることが、あって」
「それは?」
「実は、今日、ナルンが『看護師』になるにはどうしたらいいか、と聞いてきたらしくて」
「ナルン……って、あの丸い……いや、丸かった子だよな?」
「ん、そう。ナージャスの姉で、先日退院したアステロ・ド・カーン子爵の3女」
「それが……自身が入院したり、父親が入院したりして影響を受けたのかな?」
「多分それも、理由の1つ」
「1つ?」
仁は予想を口にしたが、エルザはさらに付け加える。
「ナージャスの生き方に、影響を受けたのだと、思う」
「そういうことか……」
妹とはいっても、生まれた日は数日しか離れておらず、まったくの同年代。
それが、方や『アヴァロン』で研修医、方や肥満で入院。
「自分とナージャスを比べて、目が覚めたのか」
「そういうことじゃないかと、思う」
「なるほどなあ。……で、それに何か問題が?」
「『看護師』の資格については、『医師』よりも曖昧」
「それもそうか」
今現在、『医師』に関しては『アヴァロン』の『アカデミー』で認められた者だけが『医師』を名乗ることができる。
そもそも『医師』を定義したのは『アヴァロン』の『アカデミー』なのだから。
「で、この際だから、『看護師』の講座を開き、研修みたいなことをして、資格を認める、としたいと思って」
「そういうことか……」
「できれば、今度の『世界会議』で各国に周知してもらいたい」
「電気技術もそうしたいと思っているしな。……ええと、今度の会議はいつだったっけ?」
「1月15日から」
「ああ、そうだったっけな」
エルザとリシアは医師の育成で手一杯なのだと言う。
「それもそうだな。……じゃあ、『看護師』の研修を誰が行うか、か……」
「ん。適任者が思い当たらないのが、問題」
「確かになあ……」
ここはもう開き直って『自動人形』の講師を用意したほうがいいのではないかと思い始めた仁であった……。
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