96-13 今後の工房のあり方
1月6日朝、エルザとリシアはアステロ・ド・カーン子爵の病室を訪れた。
手には検査結果が記入された書類が。
「おはようございます。お加減はいかがですか?」
「これは先生方、おはようございます。すこぶるいい調子ですな」
「それはようございました。では、検査結果をお伝えいたします」
エルザは手にした書類の要点を読み上げる。
「まず、欠落していると思われる知識ですが……」
「……なるほど、覚えがありませんな」
エルザが列挙した内容に、子爵は覚えがないと言った。
そこで、治療は次の段階に入る。
「それでは、お手数ですがこの書類に目を通していただけますか? そして覚えている内容がありましたらチェックを入れてください」
エルザは手にしていた書類を子爵に手渡した。A4サイズの用紙で10枚ほどだ。
「その結果に応じて治療をいたします」
「ふむ。……治療内容をうかがってもよろしいですかな?」
「はい。ご説明いたします」
エルザは子爵に説明を行う。
「閣下の場合、情報、つまり記憶ですね。その倉庫へ続く道が崩れて通れなくなってしまっている状態なのです。ですので、道を再整備すれば、思い出せるようになるはずです」
「おお、なるほど。つまり『忘れた』のではなく『思い出せない』ということですな」
「その認識で結構です」
「それは治るのですかな?」
「はい。ですが、それには精密な処置が必要で、時間も掛かります。もしも時間を優先されるなら、その書類を参考に、『思い出せない情報』を再度学習したほうが早いかと思われます」
「なるほど、わかりましたぞ。では、一度目を通してみることにしますかな」
「そうしてください。その結果で判断したほうがいいでしょうから」
ということで、とりあえずは午前中いっぱい、書類に目を通してもらうことにした。
その結果でどちらの方法を取るか判断することになる。
別に10枚全部を熟読する必要はなく、読み進めたところまでの感触で判断してもらえればいい、というわけだ。
その後、リシアが体調を診察、結果は良好。
「それでは、昼前にまたまいります」
そうしてエルザとリシアは病室を後にしたのだった。
* * *
一方仁は、電気的知識の普及についてゴウとルビーナに協力してもらうことにした。
「……というわけで、今年は『アカデミー』で『電気技術』の基礎を教えようと思っているんだ。そこで2人の意見を聞きたい」
ゴウもルビーナも、仁が教えようと思っている中学レベルの電気技術は習得しているはずなのだ。
「うーん……そうですね……何があるかなあ……」
「ちょっと忘れたこともあるかもですが……」
などと言いながらも、仁に意見を述べてくれた。
「よし。じゃあ、2人には、入門編(元々初級編だが)の講師をやってもらおうかな」
「はい。……え?」
「え、ええっ!?」
「『総合技術士』だからな。まあ、テキストは俺が用意するから、心配するな」
「は、はい……」
こちらも、そういうことになった。
* * *
エイラとグローマにはデウス・エクス・マキナ3世が付いている。
「おそらく、今度の『世界会議』で2人は『総合技術士』に認定されるだろう。だからというわけじゃないが、1つ大きくアピールできる魔導機を作ってみたらどうだ?」
「急にそう言われましても……なあ、エイラ」
「うん……アピールできる……目立つ……ってことだよな、グローマ」
「まあそうなんだが……何かアイデアがあるのか?」
「飛べる、鳥型のゴーレムを作ったらどうかと思ってね」
「なるほど……役に立てるというより技術力アピールのためだな?」
「まあそうなるな」
「飛ぶためには『小型浮揚機』を内蔵するとかな」
「うん、いいかもしれないな」
技術力と、動作解析のデモンストレーションにはいいかもしれないと、エイラとグローマはそれに決めたのである。
カモメのような鳥なら『アヴァロン』にもやって来るので、動作解析には困らない。
「それじゃあ、そういう線で行こうか」
「いいと思うぞ。2人ともしっかりな」
「ありがとうございます」
こうしてエイラとグローマは『アヴァロン』に来るカモメの動作解析を行い、空を飛べる鳥ゴーレムを作ることにしたのである。
* * *
そして、『オーディナリー工房』。
年末から休暇を取っていた者も戻ってきて、全員が揃ったので工房長ヴィーニャ・エスラントは新年の抱負を述べていた。
「今年は我が工房の躍進の年にしましょう!」
「はい!」
「おう!」
今、『オーディナリー工房』は『アヴァロン』が使用する『魔導具』と『魔導機』の4割を製作している。
それを6割にまで増やすのが具体的な目標である。
同時に、『アヴァロン』が各国に卸し、外貨を獲得するための『魔導具』と『魔導機』も増やしたいというのが2つ目の目標であった。
「今年は、ショウロ皇国から『ベルリッヒ工房』もやって来るから」
ショウロ皇国の『ベルリッヒ工房』も、およそ半数がこちらで勤務することになっている。
ゆえに仲間でありライバルでもある、とヴィーニャは言った。
彼らは、国元での残務整理が思ったより長引いたらしい、とも。
「ショウロ皇国としても、優秀な工房が出ていくのは避けたいでしょうし」
「でも『アヴァロン』で修行して戻ってきてくれる、という期待もあるみたいですよ」
「どうなるのかしらね、それ」
年末年始に帰省したビークス・クロバスの言葉に、ヴィーニャは首を傾げた。
「ああ、それ、私も聞かれました」
同じく帰省していたラナ・イスミも、両親にそれを聞かれたという。
「難しい問題よね」
「来てみると、居心地いいからね……」
「本当っすね」
「本籍も移してしまいたいわよね……」
今度はそうした人材の流出が各国で問題になりそうである……。
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本日1月18日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20240118 修正
(誤)A4サイズの用紙4で10枚ほどだ。
(正)A4サイズの用紙で10枚ほどだ。




