96-11 オシロスコープ
さて、『魔法陣式発振器』により、1秒をカウントすることができるようになったので、仁たちは新たな魔導機の構想を練り始めた。
「まず、『心電図』を測定する『魔導機』を開発しよう」
デウス・エクス・マキナ3世が切り出した。
「いいだろう。だがその前に、基本となる装置を作らないとな」
「ああ、そのとおりだな」
「あの、『基本となる装置』というのは?」
仁とマキナ3世のやり取りの意味を知ろうと、ゴウが質問を行う。
「それは『オシロスコープ』だ」
金属工業系の仁であったが、学生の頃に実験でオシロスコープを使う機会が何度かあった。
それで基本的な機能は理解している。
「横軸に時間の経過があって、縦軸には入力信号の値が反映されるんだ」
絵を描いて説明する仁。
「なるほど、時間経過による変化を表示できるんですね」
「画期的な装置です!」
「さすがジンだなあ」
「ジン様の発想って……」
「……」
一部の者は仁が考案したと思っているようだが、今は否定できないので沈黙を守った仁であった。
「この縦軸に、心臓を動かす電位を入力できれば『心電図』が表示されるはずだ」
「なるほど。『電位』はすなわち『雷属性信号』の強度ですから、すぐできそうですね」
「脳波も同じだ。というか、人間の神経っていうのはエルザによると、微弱な電気で信号を伝達しているらしいから」
「そちらも『雷属性』ですよね」
ということで、次は『雷属性信号』の強度を測定できる魔導具を開発することになった。
「これは、超限定的な機能の『魔導頭脳』あるいは『MI』(=魔法技術的知能)を使い、これも限定的機能の『分析』で測定しましょうか」
こういった面での『デジタル化』は、魔法技術は科学技術に劣るよなあ、と感じた仁であった。
* * *
ゴウとルビーナが『雷属性信号測定器』、エイラとグローマが『オシロスコープ』……の表示部分を検討。
仁とマキナ3世がそれぞれをサポートしていく。
その結果、午前中……昼休みにはまだ時間的余裕のある時刻……に一応形になったのである。
「うーん、なかなかいいかもな」
外見は仁の知る『オシロスコープ』に近い。
ただ、表示部がブラウン管ではないため、筐体の奥行きは短い。
また、訳の分からない(仁にとって)ボタンやダイヤル類もないのですっきりした外観である(実際には同期調整など、いろいろな意味がある)。
「このダイヤルで横軸……表示時間のスパンを調整します」
グローマが言った。
画面内の1目盛りが0.1秒、0.2秒、0.5秒、1秒、2秒、5秒、10秒の調整が可能。
なかなかの機能だ、と仁は感心した。
「これを入力部に差し込んで、こっちの端を測定箇所に接触させると、付近に流れている微弱な『雷属性信号』の強さ、つまり『電圧』が測定できます」
今のところの問題点は、雷属性信号の強さについて基準がないことです、とゴウが説明した。
「その辺は今後の課題だな。……『アカデミー』で電気に関する講義を行って、電気技術も広めるのがいいかもしれない」
仁が言った。
「魔法に比べ、『電気技術』は再現性がいいからな」
マキナ3世も同意する。
魔法が使えない者にも使用可能な技術でもある。
半導体の開発は夢のまた夢でも、電球を灯したりモーターを回したりくらいまでは持っていきたいと考え始めた仁であった。
「今年の目標だな」
とはいえ、今はまず目の前の目標である。
「とりあえず、このダイヤルで強さは調整できるようにしたわ」
今度はルビーナが説明を始めた。
「早いところ基準値を決めないと、量産しづらくなると思うわ」
「ルビーナの言うとおりです」
「うーん……」
仁の電気的知識では、電圧ボルト、電流アンペア、抵抗オーム、電力ワット。
それらは相互に関係しあっていて、どう定義すればいいかよくわからない。そもそもこちらでできるかどうかも。
(わかりやすいのは鉛バッテリーが2ボルト、ってやつだな)
とりあえずこれを基準にすればいいか、と仁は思い付いた。
正確には小数点以下の数値があったり、温度や電解液の濃度で電圧が変動したりするのだろうが……。
(電池で定義するのは変動するな……なら抵抗か)
そこでマキナ3世(操縦している『導師』は仁譲りの電気的知識もある)と相談することにした。
「オームの法則で、『電圧=電流掛ける抵抗』だから、2つを定義しないと駄目だろう」
「そうか……ボルトは電池でなんとかなりそうだが……抵抗と電流はなあ……」
「とりあえずおおよその電圧を定義しておいて、あとは継続して考えるか」
「それしかないな……これに時間を掛けすぎるわけにもいかないし」
とりあえずはそういうことになったのである。
* * *
さて、一方エルザ。
昼食前の検診でアステロ子爵の部屋を訪れると、
「おお、エルザ先生。……決めましたぞ。先生の仰られた治療を受けてみようと思います」
と、決意を述べられたのだ。
「そうですか、よく決心なさいました。治療には、全力を尽くします」
そして、準備があるので昼食後、午後1時から施術を行うと告げたのだった。
* * *
「……と、いう、わけ」
「ついに……か」
望んだ形とは少々違うが、アステロ・ド・カーン子爵の『自我』をコピーして調査してもよいと、本人からの承諾が得られたわけである。
「『記憶走査』を使って子爵の記憶を調べるわけだな」
「ん。おそらくトラウマの元になった体験も、わかる」
「それを、子爵の許可を得て和らげるわけか」
「それが、理想」
「任せるよ。頼む」
「うん、任せて」
そういうことになったのである。
さて、成果は……?。
いつもお読みいただきありがとうございます。




