96-07 試作、成功
デウス・エクス・マキナ3世が持ってきた試作1号機。
それはティッシュの箱くらいの大きさだった。
上部には小さな『魔導投影窓』……モニターが付いており、横には『魔導監視眼』……つまりカメラのレンズが付いていた。
「動作解析用だ。このレンズ部分を動作解析したい対象に向け、こっちのスイッチを押す。押している間の動作が入力され、解析されていくことになる。最大入力時間は試作なので10秒だ」
「なるほど。1秒あたりのレートは?」
「今回は10枚だ。高速度撮影的な使い方をするなら200くらいは欲しいけどな」
試作としては十分な性能だ、と仁は言った。
「早速試してみよう」
「何を写す?」
「そうだなあ……誰か歩いてみてくれないか」
「じゃあ、僕が」
仁の求めに応じ、ゴウが手を挙げた。
「よし、じゃあゴウ、こっちから向こうへ歩いてみてくれ」
「はい」
一同の目の前を、右から左へとゴウは歩いてみせた。
マキナ3世はそれを試作1号機で撮影。
「よし、もういいぞ」
そして、早速再生してみる。
「お、なるほど」
ゴウの歩行の様子がコマ落としで解析できている。
動作途中で停止させれば、特に膝と足首の関節の曲がり方がよくわかる。
「これはいいですね。実に素晴らしい。……僕らもこれがあれば、馬の動作解析はもっと楽だったろうと思いますよ」
「いやいや、君たちの功績があったから、これを開発することができたんだ。順番が逆だよ」
グローマの賛辞を聞いたマキナ3世は、むしろ彼らの功績を称えた。
「とにかくこれで、動作解析の目処は立ったわけだ」
マキナ3世が宣言した。
「『魔導監視眼』からの情報を画面に表示できたからには、次は『分析』の結果を画像にすることだな」
「そうだよな……『分析』の結果って視覚情報があるのかな?」
「うん、エイラ、いい質問だ。あるな……」
「なら?」
「うまく取り出せればいいんだが」
ということで、『分析』の効果について分析が始まった。
「視覚情報にしても、『知らない』ことについては曖昧なことしかわからないんだろう?」
「そういうことになるな……」
「『分析』以外で、形状を『見る』魔法ってないのかな?」
「心当たりはないな……」
「そうか……残念」
「『分析』を発する『魔導頭脳』が、人間の内臓の様子を知っていればいけるんじゃないか?」
「お、そうだな」
そこはエルザなりリシアなりに、『知識転写』で内臓の情報をコピーさせてもらえばいけそうだと仁は考えた。
「よし、今度は俺が試作してみよう。30分待っててくれ。マキナ、工房を借りるぞ」
「おう」
「また30分か……」
そういうわけで、仁もまた30分の予告をし、礼子を伴ってマキナ3世の工房へと向かったのである。
* * *
仁が席を外したあと、マキナ3世は残った者たちに『分析』の魔法について講義を行った。
「この魔法は物質、物体の解析をするわけで、自分の知らない内容は理解できない。……が、理解できないだけで、場合によっては『知る』ことだけはできるんだ」
「どういうことです?」
「ゴウ、そうせっつくな。順を追って説明するから」
「はい……」
逸るゴウをなだめ、マキナは解説を始めた。
「『分析』は、例えるなら『魔力による手探り』だ。実際の手探りとは違って、物体の内部まで探ることができる」
「ああ、なるほど」
「物質名とか、組成を知ることができるのも『手探り』なんですか?」
「そうだと思う。……この場合は分子や原子まで『手探り』しているということだろう」
「あ、そうか」
「もちろん『手探り』というのは例えだからな?」
「わかってます」
実際には『魔力波』で対象をスキャンする、ということなのだろうとマキナ3世は(つまり蓬莱島では)考えていた。
「実際に目で見ても、初めて目にする物は、外見はわかっても、それが何だかわからないだろう? 同じことが『分析』でも言えるわけだ」
「あ、だから、『情報を共有』できれば、知っている人がいれば、わかってもらえるということですね?」
「それを期待しているわけさ」
* * *
「待たせたな」
そこへ仁が戻ってきた。
手にしているのはマキナ3世が作ったものとよく似た大きさと形の魔導具。
ただし、こちらは聴診器のような付属物が付いていた。
所要時間は25分。
「は、早い……」
「さすがジン様」
仁は手にした試作の魔導具の説明を行う。
「これは、この『測定端子』を対象物に接触させればいい。誰か、手か腕でいいから当てさせてくれないか? 痛みはまったくないから心配はいらない。くすぐったくさえないはずだ」
「じゃあ、僕の腕で試してください」
今回もゴウが立候補した。
「わかった。ありがとう」
仁は右手でプローブを持ち、ゴウの手の平に当てた。
「スイッチを入れて、こうしてプローブを当てる。最初は表面の分析が行われる。そこからこのダイヤルを回していくと、より深い部分の分析が行われるわけだ」
「ああ、なるほど」
「これは試作なので深度は表面から5センチくらいまでしか探れないけどな」
そして仁はプローブを離した。
使う様は『エコー』によく似ていた。
「これでいわゆる『スキャン』を行ったことになる。『魔導頭脳』がその情報を統合して画像にしてくれるんだ。……できたようだな」
膨大な情報の統合なので5秒ほど掛かってしまったな、と仁は言い、表示画面を示した。
「ここに、ゴウの手の情報が出る。骨格を見たければ、キーボードで『kokkaku』と入力すればいい」
この操作法については要検討事項だな、と言いながら仁は魔導具上面の小型のキーボードを叩いた。
「お、これがゴウの右手の骨格か」
いわゆる3Dデータとして保存されているので、あらゆる角度から見ることができる。
「おお!」
「こ、これは凄い……」
「血管や神経に切り替えることもできる」
「素晴らしい!」
今回の試作も成功であった。
これで『アヴァロン』の技術力は、また大きな進歩を見ることになるだろう……。
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