93-29 隠蔽解除
本当の『制御核』は『腰部』つまり腰部分にあったようだ。
仁たちは解析を行う。
「『読み取り』……ふむ……」
「うーん……ちょと拍子抜けだな」
「ですね」
仁とマキナは顔を見合わせた。
読み取ってみたところ、『基礎制御魔導式』は旧式で、技術力が低下した現代の一般レベルよりも劣るものだったのだ。
「こんなはずはないんだがな……」
捕らえた時の動きを仁は仁Dを通して知っている。
それはかなり進んだ制御手法を持っていることを匂わせていた。
が、今ここにある『制御核』では到底そんなことはできそうにない。
「矛盾だな」
「……矛盾といえば、この構造も混沌としているよな」
「うむ」
「とはいえ、下半身は頑丈さ重視、上半身は繊細な動き重視の構造ですよね?」
「アーノルトの言うとおりだ。そう見れば矛盾してはいないのかな」
主に移動に使う下半身は丈夫かつパワーを。
上半身は剣や槍で的確に急所を狙うため、動きの精度を重視。
こう考えれば、製作者の意図が少し見えてくる。
「戦闘を見据えた構造というわけですね」
アーノルトが言うが、仁はそれに異議を唱える。
「いや、否定はしないが、100パーセントそうとも限らないぞ?」
「ジンさん、といいますと?」
「技術系のゴーレムでも、運搬のために丈夫な足腰、加工のために繊細な腕と手、というのは役に立つからな」
「なるほど……」
そもそも普通の人間はだいたいそうである。
測定の仕方にもよるが、普通の人間は、脚の力と腕の力の比は3対1から4対1くらいである。
腕だけでバーベルを上げるベンチプレスでは、特殊なトレーニングをした者ではなく一般的な値として、体重の3分の2くらいを上げられればかなり力があるとしている。
一方脚の方は、誰かを背負うことを考えると、体重の倍くらいまではなんとか持ち上げられるだろう。これで3対1、となる。
その分、手は足よりも繊細な動作が可能である(足でも訓練次第で字が書けるようになるらしいが、それは例外とする)。
閑話休題。
そうした人体の特性を再現しようとしたのなら、生体と違って自己再生しないゴーレムの構造を、脚はより丈夫に、という考え方をするのはおかしなことではない。というわけだ。
「だが、初代も、シェンナ女史もそういう構造にはしなかった」
「はい!」
「1つには、制御方法が微妙に異なってしまうからだ。同じ構造なら、パラメーターを変えるだけで済むが、構造が違うと、制御用の『魔導式』も変わってくるからな」
「確かにそうですね」
「そうなると、命令に対する反応速度が微妙に変わってくる。つまり手と足の連携が取りづらい」
ダンスや格闘技などでは致命的な欠点になる。
「だが、この構造ならそれを補正するサブルーチンがあってしかるべきなんだ」
それが存在しないのはいかなるわけか。仁とマキナは首を傾げた。
「……動かして、その時の魔力の流れを確認できたなら一発で分るんだがな」
仁がそう呟くと、アーノルトが言う。
「なら、それをやりましょうよ。安全には十分すぎるくらい注意して」
「うん、それが一番いいかな。『急がば回れ』とも言うし」
マキナも賛成する。
そこで『賊ゴーレム』を組み立て直し、動作させてみてその時の『魔力の流れ』を追うことになった。
「魔導神経線は問題ない。『魔素変換器』と『魔力炉』は繋ぎ直すが、出力は最低限……0.1パーセントまでしか出せないようにしておこう」
これなら幼児並みの力しか出せないはずなので、危険はないと判断した。
特殊武器のたぐいは搭載されていないのでこの線の危険もなし。
自爆装置や自壊装置もないのでこの点も大丈夫。
加えて礼子が監視し、少しでも危険と感じたら介入するということになった。
「ああ、重力魔法で作業台の上だけ5Gを掛けておきましょう」
これにより、ゴーレムが動き出そうとしてもかなり初動は鈍くなる。
「起動してから2秒で一旦停止させますので」
「わかった」
……といった対策を施し、仁たちは『敵ゴーレム』を再起動してみることにした。
「『起動』」
「『追跡』」
「『追跡』」
アーノルトが起動し、仁とマキナが魔力を追う、という役割分担で実験を開始。
「『停止』……どうでしたか?』」
「……うーん……」
「ジン、わかったか?」
「ああ。だが、これは……」
「どうしたんですか?」
「それがな……」
「……例の、『わけのわからない制御核』が動作命令を発していた」
「え……?」
「調べるべきポイントがわかっていれば、1秒あればもっとよくわかるだろう」
「そうだな、ジン。アーノルト、もう1度やってみてくれるか? 今度は1秒で」
「わかりました。……いきますよ? 『起動』」
「『追跡』」
「『追跡』」
「『停止』……どうです?」
「わかったぞ」
「そうだったのか……くそ、まんまと騙されたぞ」
「一体何がわかったんですか?」
「今説明するよ」
仁がアーノルトに説明する。
「すると、胸部の『制御核』は2重構造だった、と?」
「そうだ。内側に本当の『制御核』があって、外側にはダミーの『制御核』があるわけだ」
「ああ、だから通常のやり方ではダミーの方しか読み取れなかったんですね」
「それだけじゃない。たまたま内部の正式な方を読み取れても、外側のダミーと情報が混じってしまって解読不能になるんだ」
「用意周到ですね」
「まったくな」
とはいえ、仁、マキナ、アーノルト、この3人に掛かってはこれだけ念を入れた隠蔽も解除されてしまったわけだ。
「対象がわかれば読み取りもできる。……『読み出し』……ほほう、なるほど……」
マキナが代表して読み取りを行った。
今度こそ『賊ゴーレム』の全容が明らかになる……。
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