93-27 日付が変わる、その頃
『レグルス17』=『ビクトル』は『ミハイル』との商談を終え、帰途に就いた。
今夜は『トレードセンター』2階にある簡易宿泊所に泊まることにする。
ちなみに、仁Dはあえて顔を合わせないようにしている。
顔を合わせずとも情報交換はできるし、接点は少ない方が二者の関係を勘ぐられるリスクも少ないからだ。
『レグルス17』=『ビクトル』が泊まる簡易宿泊所は2畳程度の広さで、寝台と小さなサイドテーブルがあるだけ。
本当に寝るだけの施設である。
その代わり、『トレードセンター』2階には80部屋もあり、外部から来た者が急に泊まりたくなってもまず大丈夫。
満室になることはまずないほどの部屋数が確保されているのだ。
ドアはもちろん中からしっかりと施錠することができ、防犯性も備えている。
その『トレードセンター』2階で寝台に横たわりながら、『レグルス17』=『ビクトル』は『内蔵魔素通信機』で老君と話し合っていた。
『表面上の人間性は悪くない、というわけですね』
「そうです。天幕の中を見ても、異常なものはなかったですし」
『ですが、『ウォーターメロントルマリン』……『エルバイト』を、単なる珍しい石、と思っているのですね』
「そうです」
『ウォーターメロントルマリン』=『エルバイト』は『触覚センサー』を作るのに必要な鉱石である。
とはいえまだまだ最先端の技術なので、知らない者の方が多いのだろう。
『他に気がついたことは?』
「雰囲気的に、採掘者というより研究者のようでした」
『なるほど』
『覗き見望遠鏡』でも、対象の人格までは調べられない。
ゆえに『第5列』の出番はなくならないわけだ。
『二重人格の可能性もありますし、あるいは『ミハイル』に気付かれないように真犯人が隠れて暮らしているかもしれません』
「もう1人いるのなら『覗き見望遠鏡』で確認できるのでは?」
『そのとおりです。もう1人の人物ですが、今のところ怪しい行動はしていないようです』
「そうすると、やはり真犯人がもう1人いるのでしょうか?」
『まだ断定するには早いでしょう。もう少し様子を見ましょう』
「了解」
* * *
仁Dは『ハリケーン改』で寝泊まり、という建前。
『分身人形』なので眠る必要はないわけで、周囲を警戒中である。
「特に何もないようだな」
だが、油断は禁物。
眠る必要のない仁Dは、一晩中警戒を続けていた。
* * *
同じ頃、『アヴァロン』でも賊ゴーレムの解析が進められていた。
担当はアーノルト。
「進捗具合は?」
そんな彼の工房に、デウス・エクス・マキナ3世が顔を出した。
もう深夜に近い時刻だが、アーノルトは『自動人形』である。
『人間モード』を一時的に切って作業に没頭している。
そしてマキナもまた眠る必要がないわけで、こうして応援に来たわけだ。
「すみません、難航しています」
「何かあったのか?」
「読み取れないんですよ」
「何? ……プロテクトが掛かっているからか? それとも言語的に?」
「何と言ったらいいか…………マキナ殿ならご自分で読み取ってみていただければわかるかと」
「確かに、その方が話が早そうだな。……『読み出し』……ふむ……『読み取り』……これは……」
「どうです?」
「うーん、確かにな……」
『読み出し』は言語的に、『読み取り』は『魔導式』として読み取る工学魔法である。
そのどちらを使っても、アーノルトの言うように意味のある情報が返ってこなかったのだ。
「確かにこれは難物だ」
「でしょう?」
マキナとアーノルトは考え込んだ……。
* * *
『これは……御主人様にお知らせしなければ』
蓬莱島と『アヴァロン』の時差はプラス3時間半。
真夜中ではあったが、老君は仁に報告するという判断を下した。
「うん……どうした、老君? 緊急事態か?」
少し眠そうな顔で、仁が司令室に顔を出した。
『御主人様、お休み中、申し訳ございません。緊急事態ではないのですが……』
「うん」
『例の『賊ゴーレム』の『制御核』の内容が読み取れないのです』
「読めないというのは言語的にか? それとも魔法的にか?」
『魔法的には読めるのですが、内容がちんぷんかんぷんなのです』
「ふうむ……」
眠気も飛んだようで、仁は考え込む。
「その内容はわかるか?」
『はい、御主人様。マキナが情報をよこしております』
老君はマキナが読み取った『内容』を大型魔導投影窓に映し出した。
そこには一見意味不明な文字列が並んでいる。
「うむ、本当に意味不明だな……」
まるで暗号だ、と仁は感じた。
それで、その思いつきを老君に告げる。
「老君、これが暗号化されている可能性は検討したか?」
『はい、御主人様。68億3791万2602通りの解読法を試してみましたが駄目でした』
「そうか……」
性能アップした老君でも解けない暗号があると考えづらい、と仁は考えている。
「『アヴァロン』にいた時、もうちょっとよく見ておけばよかったな……」
『アヴァロン』へ戻るのは翌日になる。それまで自分の手で解析できないもどかしさを仁は感じていたのだった。
「……そういうことなら、これから『アヴァロン』へ行くか……」
『申し訳もございません、御主人様』
「いいさ。気になってもう眠れないしな」
そう判断した仁は身支度を整えていく。
同時に老君は『アンダーギ鉱山』にいる『ハリケーン改』の仁Dに、『アヴァロン』へと向かうよう指示を出した。
その『ハリケーン改』へ仁は転移門を使って移動。入れ替わりで仁Dが蓬莱島に戻る。
これで『ハリケーン改』が『アヴァロン』に戻れば、仁は大手を振って『謎ゴーレム』の解析に参加できるわけだ。
『ハリケーン改』は時速1000キロで『アヴァロン』を目指した……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230620 修正
(誤)「『アヴァロン』にいた時、もうちょっとよく見でおけばよかったな……」
(正)「『アヴァロン』にいた時、もうちょっとよく見ておけばよかったな……」




