93-24 アンダーギ鉱山
また場面は変わって、エゲレア王国西部、アンダーギ鉱山。
ここでは『魔法工学師』が鉱石を買いに来たということでちょっとした騒ぎになっていた。
とはいえ、大声で噂されたり、鉱石を買ってもらおうという輩が『ハリケーン改』の前にたむろしたりという程度だが。
「邪魔ですので道をあけてください」
半ば強引に礼子が人垣を押しのけていく。
仁Dはその後についていく形だ。
向かうは『トレードセンター』。
アンダーギの町で最大規模を誇る公認の取引所である。
ここでは個人対個人、企業対個人、個人対企業、企業対企業の直接取引ができる。
仲買人を挟むことなく取引ができるので互いに利益が大きいのだ。
仁がまず向かったのは当然と言えよう。
* * *
『トレードセンター』は中学校の体育館くらいの広さがある(天井はそこまで高くなく、4メートルくらい)。
売り手側は『個人』と『企業』で分かれており、さらにそれぞれ、『金属鉱石』と『魔結晶』、『その他』と、3つのコーナーに分かれている。
仁Dは『個人』で『その他』を扱っているブース(区画)へ向かった。
『その他』を扱っているブースは3つあり、2つは『魔結晶』も扱っていたが、1つだけは『その他』だけであった。
仁Dは、まず『その他』だけのブースを覗いてみる。
そこは若い男が店番をしていた。
「いらっしゃい。……もしや、ジン殿ですかい?」
「そうだよ。何か掘り出し物はないかと思ってね」
「それでしたらアクアマリンの原石がありますぜ?」
「アクアマリンか……見せてくれ」
「へい」
出てきたのは子供の拳くらいあるアクアマリンの原石。
ここから透明度の高い部分をカットしていけば、おそらく親指の先くらいになってしまうだろうと思われた。
「いいな。これをもらおう。幾らだ?」
「へい、5万1000トールですが。5万に負けておきましょう」
「高い。ここから使える部分を残して切り出すとかなり小さくなるぞ、4万だな」
「4万8000でどうです?」
「4万2000」
「うーん、4万5000」
「まあ、いいだろう」
「毎度あり」
礼子がポケットから金貨4枚と(=4万トール)銀貨50枚(=5000トール)を出して支払った。
そのブースには、他に目ぼしいものはなかったので、仁Dは隣のブースを覗いてみる。
「いらっしゃい。……聞こえてましたよ。『魔法工学師』ジンの旦那なんですね! こりゃあ幸先がいいや」
「……」
店番? 店主? は30くらいのノリのいい男だった。
「ジンの旦那、こんなのはどうです?」
店主? が出してきたのはルビー、サファイア、トパーズの原石。いずれも質がいい。
「いいな。まとめて買おう。幾らになる?」
「まとめて? そりゃありがたい。それじゃあ全部で10万トールでどうです?」
「ずいぶん安い気がするが、いいのか?」
「そりゃもう。『魔法工学師』にお買い上げいただくなんて名誉ですからね! その代わり……」
「その代わり?」
「こいつが一体何なのか、わかったら教えてもらえませんかねえ?」
そう言いながら店主が出してきたのは巻き貝……のように見える宝石であった。
「……オパール……か?」
「やっぱりオパールですかい?」
「ああ、間違いない」
こっそり『分析』したが、オパールであった。
「なんで、こんな巻き貝の形に?」
「こいつは複雑な過程を経ているんだよな……」
貝殻が海の底に沈み、土砂が堆積し、圧力が掛かり、年月を経ると化石になる。
その後、その化石が溶けてなくなることがある(貝殻は炭酸カルシウムが主成分で、酸に溶けやすい)。
すると貝殻の形の空洞が残るわけだ。
そこに二酸化ケイ素を含んだ水が浸透し、水分が抜けると二酸化ケイ素が残る。これが濃縮されるとオパールになる。
これはそれであろうと思われた。
「はあ、よくわかりませんが珍しいものなんですねえ」
「そうだよ。いくらで売る?」
「うーん、価値がわかる人なら高く買ってくれそうですが、そんな人はいそうもないので……1万トールでどうでしょう?」
「買った」
ファイア(オパール独特のきらめき)もあり、貝の形もかなり綺麗に残っている。
現代日本なら100万円はくだらないだろうから1万トール(約10万円)なら即買いだった。
* * *
こうした買い物の合間に、仁Dは情報を収集していく。
一番の収穫はといえば、ここ1ヵ月ほどの間に、採掘量が急に増えたという情報だろうか。
その理由は、新人採掘者が現れ、採掘器具や採掘用の魔導具、ゴーレムなどを格安でメンテナンスしてくれたからだという。
「なかなか腕のいい『魔法工作士』でもありますぜ」
とは金属鉱石を販売していた店主の言葉。
他にも、
「採掘権を買って、自分でも掘っているけどな、あの場所じゃろくな鉱石は取れないと思うぜ」
という情報があった。
「その場所は?」
「鉱山エリアの突外れだ」
ゆえに鉱脈も少ないはずだが、とその店主は言った。
「ありがとう」
そしてもう1つの情報。
「『風力式浮揚機』が飛んでるのを見たんだが、誰の持ち物かな?」
「ああ、そりゃ今言った新人採掘者のだ。なんでも自分で作ったらしい。『魔法工学師』が気にするなら、かなりの腕なんだな」
「実際、腕はいいと思うよ」
「そりゃいいことを聞いた」
名が売れる前に仲よくなっておくとしよう、と、冗談とも本気ともつかないことを言う店主に礼を言い、仁Dは『トレードセンター』を出た。
* * *
「さて、少し見えてきたな」
『はい、御主人様』
「技術者系の採掘者、そして人気のない坑道」
『はい、少なくとも地下に拠点がありますね。『覗き見望遠鏡』で確認できました』
「そうか、やはりな」
蓬莱島では仁Dを操縦している仁が老君と相談を始めていた……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20230617 修正
(誤)とはいえ、大声で噂されたり、鉱石を買ってもらおうとおう輩が
(正)とはいえ、大声で噂されたり、鉱石を買ってもらおうという輩が
(誤)冗談とも本気ともつかないことを言う店主に礼を言い、仁は『トレードセンター』を出た。
(正)冗談とも本気ともつかないことを言う店主に礼を言い、仁Dは『トレードセンター』を出た。
(旧)ここでは個人対個人、企業対個人、個人対企業の直接取引ができる。
(新)ここでは個人対個人、企業対個人、個人対企業、企業対企業の直接取引ができる。




