92-04 見学者たち
9月20日、『アヴァロン』には『世界会議』に出席する各国要人が勢揃いしていた。
『臨時世界会議』は22日からであるが、この巨大構造物をじかに確認したいという人が多かった(というより全員)ためだ。
クライン王国からは第一王子のジョージ・ジオウ・クラインと魔法技術相のコーウェン・ラッカ・キドー。
フランツ王国からは総務相クロウ・ド・ショーネと総務省諜報局局長アーベル・ロッシ。
エゲレア王国からは第3王子アーネスト・エルム・アンドレアと宰相チャールズ・クロウ・バラガス。
エリアス王国からは宰相ヴァスコ・ド・ジーノと魔法技術相フィオリーナ・ド・ドランテ。
セルロア王国からは王弟マルセル・ヴァロア・ド・セルロアと外務相ジューナ・コニー・ボンド。
ショウロ皇国からは魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスと総務相シュロトゲン・ドメール・フォン・カバスタン。
ミツホからは現首長アタル・ムトゥと統括技術管理官コウキ・カトウ。
ノルド連邦からは『世界会議』の現議長である『森羅』のシオン、『傀儡』のロードトス、『福音』のアーキスタ。
そして、発言権はないが出席を認められている『懐古党』の名誉顧問エレナ、技術職のローリア・マツタ、エッダ・イーマ。
また、4公国からもそれぞれ代表がやって来ていた。
* * *
「凄いものですなあ」
「まったくもってそのとおり。ジン殿の技術力には到底かないそうもありません」
「マキナ殿と双璧をなす、というのも頷けますな」
「平和を愛する方でよかったとつくづく思いますよ」
などと、各国の重鎮たちは思い思いに言葉を交わしている。
事情を知っている『仁ファミリー』の者もいる。
言わずと知れた、『森羅』のシオンと『傀儡』のロードトスである。
「『アヴァロン』と『アヴァロン2』を連結する工事はほぼ終了したのでしょう?」
「そう聞いてます」
「ローはどのくらい、計画を知っているのかしら?」
「概略でしたらほぼ全てを」
「そう、なら、会議で聞くこともあるかもしれないわ」
「その時は任せてください、大おばあさま」
「頼りにしてるわ」
ロードトスはシオンの曾孫である。つまり孫の子供、ということだ。
なのでシオンのことを『大おばあさま』と呼ぶわけである。
* * *
閑話休題、この日つまり20日は、特に会議が行われるわけではないので、『アヴァロン』を訪れた各国代表は思い思いに懇談をしているわけである。
そのため、幾つかのグループに分かれてしまうのは致し方ない。
まずはノルド連邦とミツホの代表。つまりシオン、ロードトス、アーキスタとアタル・ムトゥとコウキ・カトウが熱心に話し込んでいる。
一見、接点のなさそうな2国であるが、『魔法工学師』を崇拝しているという点において話が合うようだ。
もちろん、この場合の『魔法工学師』とは、主に初代のアドリアナ・バルボラ・ツェツィと2代目であるジン・ニドーのことである。
シオンとロードトスは『仁ファミリー』なので、2代目と3代目が事実上同一人物であることを知ってはいるが、他の面々は知らない。
なので2代目と3代目を混同しないよう、少しだけ注意が必要なのであった。
「かつてジン殿には『工場』や『アキツ様』を元どおりにしていただいた恩がございましてね」
「ああ、聞いています」
「そうでしょうなあ。シオン殿は2代目と直接お会いしたことがあるそうですから」
「会ったことがあるどころか、いろいろ助けてもらいましたよ」
「そうでしたか。どんな風にか、おうかがいしても?」
「ええ、もちろん。まずは食糧事情でした……」
あまりプライベートに関わる話はせず、一般的な仁の功績で、あまり世間に知られていない話を聞かせたのだが、それでもアタル・ムトゥは喜んだ。
その様子を見てシオンは、ミツホの人々は『2代目』ジンのことを本当に慕っているのだなと感じたのである。
* * *
その他にも……。
クライン王国第一王子のジョージ・ジオウ・クラインとエゲレア王国からは第3王子アーネスト・エルム・アンドレアは王子同士ということで話が弾んでいたし、
クライン王国魔法技術相のコーウェン・ラッカ・キドーとエリアス王国魔法技術相フィオリーナ・ド・ドランテ、そしてショウロ皇国魔法技術相レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアスらもまた、同じような役職に就いている者同士、話が合う様であった。
逆に、それぞれのグループに挨拶をして回っている者もいた。
『懐古党』名誉顧問のエレナである。
「本日はよいお日和ですわね。『アヴァロン2』の工事の様子がよくわかりますわ」
「これはエレナ殿、その節はいろいろとご迷惑をおかけしまして」
エレナに謝罪混じりの挨拶をしたのはジャグス公国の代表である外交官プリングス・クボである。
そう、かつてジャグス公国の公王ニエストル・キリーロ・ジャグスはエレナを幽閉し(実は『スピカ9』が化けた偽者であったが)、言うことを聞かせようとしていたことがあったのだ。
それは呪いと言ってもよい、過去からの呪縛『心理干渉』のせいであったが、今では解放され、狂的な独裁者ではなくなっている。
「いいえ、済んだことです。今は過去にこだわらず、未来を見据えて歩きましょう」
エレナも、自身が幽閉されていたわけではないうえ、当時の『スピカ9』はその料理の手腕を奮って公王を虜にしていたわけで、そこまで料理に長けていないエレナとしてはそちらの話が出るのは避けたかった。
そのため、当たり障りのない会話をして、また別の者たちのところへと向かったのである。
* * *
『アヴァロン2』の工事の様子に見とれていたのは『世界会議』の面々だけではない。
ここ『アヴァロン』の『アカデミー』には、各国から短期留学しに来ている者たちも大勢いた。
ショウロ皇国のカルツ町で工房を営む魔法技術者、ベルリッヒ・ベッカーもその1人である。
彼が他の留学生と大きく異なる点が1つ。
それは……。
「カチェア、ジン様って凄いねえ」
「そうですよね、ベル君もそう思います?」
「もちろんさ」
「ところでベル君、何か重大発表があるって聞いたんですけど」
「うん……でも、まだ発表できないんだ。ごめん」
「そうなんですか……」
「『世界会議』で発表されるから」
「しょうがないですね。それまで待ってます」
2人はそんな話を。
その真相がわかるのは2日後である……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230308 修正
(誤)「これはエレナ殿、その説はいろいろとご迷惑をおかけしまして」
(正)「これはエレナ殿、その節はいろいろとご迷惑をおかけしまして」




