91-44 明るい未来
『改良型重力魔法機関開発プロジェクト』は仁やデウス・エクス・マキナ3世の助力もあり、順調に進んだ。
9月6日には『浮遊装置』としての『重力魔法機関』の試作が完成し、大型輸送機『ストーク』のミニチュア版ともいえる試作機に搭載することが決まった。
9月7日にはその試作機『ミニストーク』(ゴウ命名)が完成、大成功を収めたのである。
これだけの製作速度が発揮されたのには、ゴウとルビーナの参加が大きい。
マリッカと仁に仕込まれた技術・技能は伊達ではないのだ。
加えて、以前仁が寄贈した『アドリアナ式』を教える自動人形『レーラー』10体にも手伝わせたのでこれだけの短期間で試作ができあがったというわけだ。
* * *
そして9月9日。
大型輸送機の量産試作が完成した。
大きさは6月に製造した『ストーク』によく似ている。というか『ストーク』の部品を9割以上流用している。
なので外見も『ストーク』そっくりである。
最大の違いは、浮遊用の『密閉型推進機関』が搭載されていない点だ。
その他はほぼ同じ。
浮遊用の『重力魔法機関』は胴体内部に取り付けられているので外からは見えない。
その名を『シュトルヒ』。なんのことはない、ショウロ皇国での『コウノトリ』の呼び名である(ストークはエゲレア王国・クライン王国)。
試作なので『シュトルヒ0』ということになった。
「よし、『シュトルヒ0』、発進!」
『発進します』
テストパイロットは安心安定のエアリア01。
試験用に10トンの水タンクを積んだ『シュトルヒ0』はゆっくりと、垂直に離陸した。
離陸には主翼の『密閉型推進機関』も併用している。
これは浮いてからは推進用にも使うのだ。
つまり、エンジンを全て『重力魔法機関』に換装してはいないということである。
まだまだ『重力魔法機関』は使い慣れていない。
ゆえにどんな落とし穴があるかわからないため、少しずつ運用データを蓄えていこうという姿勢の表れでもある。
そんな『シュトルヒ0』は滑らかに上昇していった。
「うん、成功だ!」
「やったな!」
「まだまだ、これからだ」
見守るメンバーの反応は様々だが、皆の顔には笑みが浮かんでいた。
高度500メートルまで上昇した後は水平飛行に移る。
まだ最高速度を出す試験ではなく、安定性や操縦性の確認からだ。
『安定性、問題なし。操縦性も許容範囲です』
エアリア01からの報告が入り、皆一様にほっとする。
操縦性に関しては、元となった『ストーク0』とことなるのは当たり前だからだ。
そこまで確認した後、一旦『シュトルヒ0』は着陸した。
『重力魔法機関』で機体全体の重量をほぼ0にし、補助用の『密閉型推進機関』で位置調整を行った結果、飛行場の目標点からの誤差30センチで着陸できたのである。
これはエアリア01の操縦であることを差し引いても、かなりの朗報であった。
「よし、もう一度離陸だ。今度は『重力魔法機関』だけで行う」
プロジェクトリーダーのアーノルトが言った。
浮遊用の『重力魔法機関』は胴体のみを効果範囲としている。主翼は対象外だ。
ゆえに浮かび上がるためには『重力魔法機関』は1Gを少し上回る『上向き』の重力を発生しなければならない。
そのテストである。
『浮遊用『重力魔法機関』再始動します』
エアリア01からの通信が入る。
『出力上昇。重力値0.5……0.7……0.9……1.0……』
1.05Gあたりで機体が浮かび上がり始めた。
「おお、浮いた浮いた」
「うまくいきそうだな」
そのまま機体は重さがないかのようにすーっと上昇していく。
実際、それに近い状態なわけだ。
『水平飛行に移ります』
そしてエアリア01はその状態での操縦性、安定性を確認した。
その後再び着陸。
ここでもやはり姿勢制御、位置調整には『密閉型推進機関』による補助を行った。
* * *
「うむ、大成功だな!」
「ですねえ、主任、やりましたね!」
この結果に、プロジェクトメンバーはもうウキウキである。
「まだこれからだぞ」
と気を引き締めるアーノルトだが、その実、内心は喜びにあふれていた。
苦労した開発がここに実を結んだのだ。
しかも、応用の効く技術である。
「文字どおり『空飛ぶ船』とか、ゴーレムを飛ばすとかもできそうだ」
夢が広がる技術である。
「もっとも、それにはまだまだ解決すべきハードルがあるけどね」
自分に言い聞かせるアーノルトであった。
* * *
「そうか、『重力魔法機関』の実用化の見通しが立ったか」
『はい、御主人様』
「それなら『ハリケーン』を少し改造してもよさそうだな」
『そうですね、御主人様』
仁もまた、独自の『重力魔法機関』を『ハリケーン』に搭載した、ということにするつもりなのだ。
これにより、実際は『力場発生器』で駆動しているのではあるが、それをカムフラージュできるというわけである。
搭載重量に関しても同様。
『風力式浮揚機』には到底不可能な積載量や上昇力を発揮しても不思議がられなくなる、ということだ(驚かれるかもしれないが)。
デウス・エクス・マキナ3世の『アリストテレス』についても同じ(こちらは今現在ヘリウム飛行船に偽装している)。
最高速に関しては、『風除けの結界』をもっと前面に押し出してアピールすることになるだろう。
そうなれば飛行機も超音速の時代になる。
「ようやく、一部とはいえ『魔導大戦』の時代を超えられるな」
『はい、御主人様』
「今度は、もう後退なんてしないでほしいものだな」
『仰るとおりですね』
「隠居するのはまだもう少し先だな」
『はい、御主人様』
まだまだ仁のサポートはこの世界に必要そうである。
仁は研究所の前庭に出て、空を見上げる。
蓬莱島の空は今日も青く澄んでいた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230303 修正
(誤)
ヘリウムによる浮力では到底不可能な積載量や上昇力を発揮しても不思議がられなくなる、ということだ(驚かれるかもしれないが)。
(正)
『風力式浮揚機』には到底不可能な積載量や上昇力を発揮しても不思議がられなくなる、ということだ(驚かれるかもしれないが)。
(旧)
デウス・エクス・マキナ3世の『アリストテレス』についても同じ。
(新)
デウス・エクス・マキナ3世の『アリストテレス』についても同じ(こちらは今現在ヘリウム飛行船に偽装している)。




