91-42 補助魔導頭脳設計
『上下』の検出。
それは、単純なようでなかなか奥が深い課題であった。
「考えてみたんですが、重力加速度と、もしもエンジンが暴走しているならその加速度の合算方向を『仮の下』にしていいんじゃないでしょうか」
ずっと考え込んでいたゴウが言った。
「というのも、機体の落下方向はその加速度の合算方向になるでしょうから、それと逆にするわけです」
もう少し付け加えるなら、操縦不能になった時は『停止』させられればそれが一番いいのではないか、とも付け加えるゴウだった。
「ふむ、『停止』か……」
「できるかできないかはおいておくとして、確かに有効だろうな」
「『停止』すれば、あらためて姿勢制御をやり直せますし、上下も視認できますしね」
「つまり、生じている加速度を打ち消せばいいというわけだな」
「そうなりますね」
「悪くなさそうだ」
いろいろ検討してみたが、なかなかよさそうだと皆が認めた……が。
「ちょっと待って」
ルビーナから待ったが掛かった。
「回転していると、加速度は外に向くから、常に方向が変わるわよ?」
「え……あ」
そうなると、単純なセンサーや魔導装置では対処しきれないだろうと皆さらに頭を悩ませることに。
そしてその解決策を提案したのもまたルビーナだった。
「もういっそのこと専用の補助魔導頭脳を搭載したほうが早そうね」
「……うん、そうなるな」
真っ先に賛成したのはゴウ。
「簡単な重力センサー、それに周囲を確認する視覚センサーからの情報を処理して落下方向を検出して、それを防ぐ方向に重力を発生させればよさそうね」
「それだろうな……」
一意的な単純な処理ではなく、マイコンによる制御のようなものである。
ここアルスではマイコンに相当するものが補助魔導頭脳になるわけだ。
『補助』魔導頭脳には自分の意志はなく、決められた範疇での判断を行うことになる。
「それが一番よさそうだね」
アーノルトも認めた。
「そうすると、また横道に逸れてしまうが、専用の『補助魔導頭脳』も開発する必要があるね」
「あ、そうなりますね……」
やるべきことが満載である。
が、それでうんざりしたりやる気をなくすような者はこの場にはいなかった。
「それで、それは僕がやっておこう」
アーノルトが名乗りを上げた。
「主任にお願いできれば安心ですね」
アーノルトは魔導大戦時の技術を有している。
それは皆知っていることであり、彼を頼りにする所以である。
不定期ではあるが、そうした『ロストテクノロジー』の講座も開いて後進の教育も行っているのだ。
そのアーノルトが『補助魔導頭脳』の設計開発を引き受けてくれることになったのである。
「ただし、製作は君たちがやってくれ」
「わかりました」
ということで、アーノルトは一旦検討会から離れ、『補助魔導頭脳』の設計をすることになったのだった。
* * *
アーノルト不在のプロジェクトは、グローマ・トレーが仮のリーダーとなり、皆をまとめていく。
「主任が『補助魔導頭脳』を開発してくれることを前提に、今後の検討を進めていくことにしよう」
「異議なし」
「異議なし!」
「よし、それでは続きをやろう」
「発生する重力の向きが、常に上向きになるようにする方法ですね」
「機械式か魔法式か……か」
「『加速度』から『補助魔導頭脳』で制御できるんなら魔法式だろう」
「それは確かに」
これについても異議は出ず、検討は順調に進んでいく。
「ネックだった部分が解決されれば話は早いな」
「まったくだ」
元々実力ある者たちの集まり、夕方までに設計図まで完成したのであった。
* * *
一方、アーノルトは、チェルとともに自室で設計を行っていた。
「このくらいの魔導頭脳を設計できなくなっているというのは寂しいな」
「そうですね、アーノルト様」
かつて、魔導大戦時は小型の魔導頭脳を使った魔導装置も多かった。
終戦も間近になると、敵味方を判断して炸裂するような兵器さえ試作されていたのである。
もっとも、魔導頭脳以外のセクションの完成度が低く、実用には至らなかったのであるが……。
そんな過去を思い出しつつ、アーノルトは『補助魔導頭脳』の設計を完成させた。
「これでいいと思うが……」
「まだジン様がいらっしゃいますから、チェックをお願いしてはいかがですか?」
「そうだな、そうしよう」
そこでアーノルトは『仲間の腕輪』を使い、仁を呼び出すことにした。
サイレントモードでの連絡なので、仮に周囲に他の者がいても気付かれることはない。
5分ほどで仁と礼子がアーノルトの居室にやってきた。
「何かあったのか?」
「ああ、わざわざありがとう。実は……」
アーノルトは仁に説明を行う。
「なるほど、そういうことか。わかった、すぐチェックしよう」
仁もその意図を理解し、快諾した。
「ふうん、こういう構成にしているんだな」
なにしろアーノルトは魔導大戦時に、国に召し上げられてしまった10体の自動人形の魔導頭脳を統合し、チェルに生かしたこともあるほど、魔導頭脳には詳しい。
また、彼はかつてエレナを作った女性の技術者シェンナに私淑しており、アドリアナ式とは違った構成も取り入れている。
そんな彼の設計なので、仁にとっても参考になる部分が多々あったのだ。
「うん、問題はないと思う。心配なら老君にエミュレートしてもらおうか?」
「そうだね、お願いできるかな」
「引き受けた。……礼子、頼む」
「はい、お父さま」
礼子が読み取った設計内容を内蔵魔素通信機で老君に送る。
所要時間は0.5秒ほど。
それを受け取った老君は、仮想領域にその『補助魔導頭脳』を構成し、動作チェックを行う。
所要時間は0.3秒。
「問題なしです」
老君から礼子に返答が来て、それを礼子が口頭で報告するまで、1秒足らず。
アーノルトの設計の確かさが裏付けられたのだった。
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