91-41 『上下』の検出
同日午後2時、『重力均等化装置』の『機能試作』が成功したので、プロジェクトは次の段階へ進むことになった。
「『重力均等化装置』の実用化の見通しが立ったから、ここで『浮遊装置』としての『重力魔法機関』の開発に戻ろうと思う」
「はい」
「わかりました」
「進行役はグローマに頼もう」
「はい、わかりました」
「ゴウとルビーナはわからないところがあったら僕に聞いてくれ」
「はい」
そして検討が始まった。
「構成はほぼできているから、問題となっているのは……」
『密閉型推進機関』との置き換えで考えるのか。
機体全体を重力の効果範囲で包むほうがいいのか。
の選択だった。
前者であれば話は簡単で、推進機に使ったものと同じ構成で済む。
後者の場合は、より効果が高いが、乗員の居住性に問題があった。
乗員の問題を無視すれば、後者の方がメリットは多い。
積載量が飛躍的に跳ね上がるからだ。
機体も荷物も等しく重量がなくなることで、積載量の制限は荷室の大きさだけになる。
「この問題については『重力均等化装置』を使うことで乗員には常に1Gが掛かるから問題はない」
「とすると、デメリットは消費魔力くらいのものか」
機体強度も標準で済むであろうし、コスト的にも有利である。
「では、デメリットの消費魔力について検討してみましょう」
項目としては1つであるが、内容的にはかなり重要である。
消費魔力が多すぎては使いものにならない可能性もあるからだ。
グローマ・トレーはさらに続ける。
「仮に1Gを発生させるとして、輸送機を包む程の効果範囲とした場合、消費魔力は、概算でもかなり大きくなります。魔素変換器と魔力炉の大きなものが必要になり、コストがかさむでしょう」
「ちょっと待って下さい」
ここでゴウが挙手をした。
「ゴウ、意見があるのかい?」
「はい。輸送機を包む、という話ですが、主翼は除外していいのではないでしょうか」
「うむ……そうだね」
主翼は胴体からかなり突き出しているので、それを除外し、効果範囲を胴体に限定すればかなり効率がよくなると思われた。
「だがその場合、主翼の重さがネックになるぞ」
「いいじゃないですか。基本方針は『飛行機』なのでしょう? 『浮遊機関』を切っても、速度が出ていさえすれば揚力で飛べそうですから」
「そういう考えもあるか」
「グローマ、方針という意味ではそれでいいんじゃないか?」
エイラもゴウの意見に賛成した。
ルビーナもゴウの意見に賛成する。
「そうねえ、輸送機、という前提で考えたら、一番重い胴体が浮けば、主翼は付いてくるわよね」
その場合、本来の用途とは真逆になるのが面白いといえば面白い。
「で、補助の『浮遊機関』を主翼に付ければその問題は解決するんじゃない?」
「なるほど、面白いな」
「浮遊機関は1基でなくてもいいか……」
「その辺はコストとの兼ね合いですが、これまでのお話からすると、ルビーナさんの案が一番コスト的に有利だと思いますよ」
カチェアがコスト面からの意見を述べてくれた。
「そうすると、胴体に1つ、左右の主翼に1つずつ、『浮遊機関』を搭載しようということか」
「もちろん出力……いえ、効果範囲は違いますけどね」
「うん、いい考えだと思う」
ここまでオブザーバーだったアーノルトも賛成した。
「理想を追い求めるのもいいが、現実も見ないといけないからね」
その見極めはプロジェクトリーダーの自分が責任を負う、とアーノルトは言う。
「今回の『浮遊機関』の規模はこれで決まったね」
* * *
『浮遊機関』に関して、もう1つ決めておかねばならない項目がある。
「発生する重力の向きが、常に上向きになるようにする、ということは決定でいいわけだね?」
「はい」
浮遊のために発生する重力の向きが『機体に対して』上向きだと、突風や空中衝突などの事故で機体がひっくり返った場合に大問題となる。
なので、アルスの重力圏を飛行する飛行機に搭載する『浮遊機関』は、常にアルスの重力と反対方向に力を生じさせるものでなくてはならない、ということだ。
「方法は大まかに分けて2つ」
「機械式か、魔法式か、ですね」
機械式はジャイロのような一定方向を持つ機構を『浮遊機関』に持たせ、常に『上』を向く力を発生させる方式。
魔法式はアルスの重力を検知する、といった『上下』を検知する魔導装置を用いて常に『上』を向く力を発生させる方式だ。
いずれにせよ『上下』を検知し、基準にすることに変わりはない。
それが機械的に検出するか魔法的に検出するかの違いだけだ。
「機械式の場合、タイムラグが心配なんだが」
機械式の1つとして、『ぶら下げた重りの方向で『下』を知る』というものがある。
だがこれでは、錐揉み状態のように高速で機体が回転した場合、追随できるかどうか、それが気になるとグローマは言った。
「それに加速度の影響もありそうですね」
「いや、墜落が自由落下状態であるなら問題ないだろう」
「ああ……確かに」
だが推進機が暴走している場合はその限りではない。
アルスの重力加速度と、機体の加速度が影響しあってしまうであろう。
「しかしそれは魔法式も同じだろう」
「それは確かに」
「ならばジャイロの方が信頼性は高いのでは?」
ジャイロとは要するに高速回転するコマである。
回転している間は一定の向きを保つ性質があるので、加速度の有無に関わらず『上下』を示してくれる。
が、機械式になってしまうゆえに信頼性が今ひとつ、というのがメンバーの見方だった。
「一長一短があるわけだ」
「なら、全部載せてしまえば?」
「それはコスト的になあ……」
これは、という方針が決まらない。
なかなか難しい問題であった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日2月28日(火)は14:00に
『蓬莱島の工作箱』を更新します。
https://ncode.syosetu.com/n0493fy/
お楽しみいただけましたら幸いです。




