91-34 二手に分かれる
『浮遊機関』としての運用を前提に検討が行われている。
「これも、人間が乗るなら効果範囲を絞った方がいいのかな?」
「乗員に逆向きの重力が掛かるのは好ましくないでしょうね」
「なら、乗員室のみ別途重力を発生するか相殺するかすればいいのかな?」
「いや、まずは『密閉型推進機関』との置き換えで考えるべきでは?」
「それは違うと思う。輸送機に使うことを前提で考えるなら、機体全体を包むほうがいいだろう」
「確かにな。そうすれば荷物の重量制限もほとんどなくなるな」
「そうすると問題は……」
「乗員への対処だな」
「逆に言うと、乗員への対処というか対策ができればいいわけだな」
「それはそうだ」
そのような話を受け、ルビーナが意見を口にする。
「可能かどうかは別にして、個人用の『重力発生装置』って作れないかしら?」
「え? ……うん、面白そうだな。……それを使って、逆向きの重力を打ち消そうというのかい?」
「ちょっと違うわ。いっそのことそれを付けていれば、いつでも1Gを感じていられるというものを考えたんだけど」
「う、ううん……それができたらいいよな、うん」
ルビーナの発言に、タイナー・ビトーは少しひいたようだ。
だが。
「いや、難しいができないってことはないだろう」
「否定から入るのはよくないと思う」
「そうだな。もしもそれができたら、大きな進歩だし、応用範囲は広い」
と、賛同する声も。
「よし、ルビーナ、君と……ゴウ、2人でそれを検討してみてくれないか」
「え? 僕と」
「あたしと、で、ですか?」
「うん。『浮遊機関』への展開より、そっちのほうが2人に向いていると思うんだ」
アーノルトはそう言って笑った。
「まあ、今日1日検討してみてほしい。僕らも今日1日『浮遊機関』としての方向性を検討するから」
「わかり……ました」
「やってみます!」
そういうわけで、この日1日だけ、ゴウとルビーナはプロジェクトから少しだけ横道に逸れることになったのだった。
* * *
急な話だったので、使える部屋がない。
ということで、仕方なくゴウの居室のリビングを使うことにした2人。
「ふうん、ちゃんと片付いてるじゃない」
「ほとんど寝に帰ってきているだけだから」
「あ、それはあたしもおんなじ」
でも、あたしの部屋より片付いてる……という呟きはゴウの耳に入らなかった。
「じゃあ、さっそくやろうか」
「ええ」
ゴウはリビングのテーブル上にメモ用紙を大量に置いた。
ルビーナは愛用のペンを、持参した小物入れから取り出し、準備する。
「まずは仕様の確認だ。ルビーナの考えをもう一度教えてくれ」
「ええ。……まず、『個人用の重力魔法機関』であること。装着者が常に1Gを感じていられること。当初考えていたのはこの2つよ」
「基本だな」
ゴウはその2つを書き留めた。
「1つ目は全く問題ない。問題は2つ目だな」
「あたしもそう思うわ」
「装着者の身体の向きに関わらず、ということになるのかな?」
「そうなるわね。横になった場合はちゃんと元々の方向に重力が掛からないとね」
「それはそうだ」
横になった時でも重力の方向が足元に向いていたら寝具からずり落ちてしまう。
さらに、逆立ちしたら空へ向かって飛んでいってしまいかねない。
「つまり装着者の足元にではなく、重力……いや、アルスの重力方向に、という但し書きがつく……でいいのかな?」
「うーん……アルス以外で使うこともないでしょうしね……」
宇宙船で使うことを考えると、何か別の基準線を考える必要があるだろうけど、とルビーナは言った。
「そうだね。たとえば天の北極……だけどアルスは自転も公転もしているからなあ」
「不変、じゃないものね……」
「以前ジン様から聞いた『ジャイロ』だと、アルスが自転するにつれて基準面が動いていくからな」
「そうね。そこまで考えていくとキリがないわ。まずはアルスの重力方向に、という前提でいきましょう」
「それがいいだろうね」
宇宙船に使う場合はまた別途考えることにしようと、2人の意見は一致した。
「それじゃあ、アルス上で使う前提だと、どうなる?」
「そりゃあ、アルスの重力を感知して、それを利用して……」
「でも、浮遊する方向の重力を発生したら、アルスの重力が紛れちゃわないかな?」
「うーん……あるわね」
2人は考え込む。
「『浮遊機関』がアルスの重力方向と一致する『反重力』を発生するならいいんだけどね」
この場合の『反重力』とは、『反』対方向の『重』力という意味で、元々の重力に反発する、という意味ではない。
それはそれとして、今の段階では別メンバーが検討している『浮遊機関』としての『重力魔法機関』がどんな仕様になるか未知の状態である。
仮に重力の発生方向が固定の場合、それを搭載した機体が上昇や下降、不慮の事故などで傾いた場合、ゴウたちの『個人用重力調整装置』が発生する重力も傾いてしまうわけだ。
「あれ? でも、いいのかしら? 床が傾いても、その床に垂直に立っていられるわけよね?」
「ああ、そうか。そう考えるといいのかな? ……でもひっくり返ったらどうなるかな?」
「ええと……」
仮に、『浮遊用重力魔法機関』を搭載した飛行船が事故でひっくり返ってしまった場合を想定してみるが……。
「自分で言い出しておいてなんだが、それは心配しなくていいと思う。前回の検討時にその話はしたから」
「あ、そうだったわね」
飛行船や輸送機など、高度な機動を行わない機体については、『浮遊機関』は常に『反重力』を発生させるよう設定されるはずなのだ。
「そうすると、『装着者の身体に働きかける重力の方向に、常に1Gが掛かるように調整してくれる装置』。これでいいかな?」
「よさそうね……」
上昇や下降の際に機体が傾いた場合を想定する。
「重力魔法機関は、多分アルスの重力に対して反対方向に重力を発生させるわよね」
「うん。だからそれを相殺して1Gを発生させればいいわけだ」
仮に機体に固定されていて、機体が傾いた場合はアルスの重力との組み合わせとなる。
「それでも、元々の傾きよりは小さくなるはずだから問題ないと思う」
「そうよね」
「それに、まず間違いなく、『浮遊用重力魔法機関』は『反重力』を発生するような設定になるはずだし」
「それもそうね」
ここまで仕様が決まれば、次は構成の検討である。
「重力魔法機関は基本的に同じよね」
「それを1人用にするだけだからな」
「範囲が問題ね」
「そうだな。単純に直径1メートルの円柱内、とした場合、腕を伸ばしたら範囲から出ちゃうものね」
「かと言って直径2メートルの円柱にしたら、誰かと近づいたら相互に影響しあって重力が増えそうな気がする」
「難しいわね」
「うーん……」
考え込むゴウとルビーナであった。
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