91-27 空戦 3
ゼッケン3『レッドアロー』とゼッケン4『シルヴィー』は真正面からの撃ち合いを行った。
『判定、相撃ち! 相撃ちです!! 両機、失格!』
『残念だったなあ……これも、もし実弾だったら、先に被弾した方の弾道がブレるだろうから相撃ちじゃなかったかもしれないな』
とはいえ大会の規約に則った装備で、ルール通りの戦いをしたわけであるから異議はない。
『これで第1回戦は全て終了! 残ったのはゼッケン1『スカイハート』、ゼッケン2『ブラックサンダー』。そしてシードのゼッケン7『ナイトバード』とゼッケン10『ティーガー』です!』
『これはトーナメントの相手を決め直したほうがよさそうだな』
『そうですね。……実行委員たちが協議をするようです。……ということで、少し席を外します』
実行委員の1人は世話役トライハルト・ランドル、エイダ・ニドー、そして司会を務めているラックハルトの3人である。
3人が協議をした結果、ゼッケン1、ゼッケン2、ゼッケン7、ゼッケン10でくじを引き、対戦相手を決めることとなった。
そしてその結果は、
ゼッケン1『スカイハート』対ゼッケン7『ナイトバード』、ゼッケン2『ブラックサンダー』対ゼッケン10『ティーガー』となったのである。
* * *
『さあ、気を取り直しまして、第2回戦、準決勝です!』
第2回戦第1試合はゼッケン1『スカイハート』対ゼッケン7『ナイトバード』。
『レディ……ゴー!』
合図とともに2機は滑走を始め、ほぼ同時に離陸した。
と、シュウは機首を90度右に転じ、互いに正反対の方向へ上昇するのではなく、90度の方角で上昇していく。
『これは……ジン様、何か作戦があるのでしょうか?』
『うーん……思いつくことはいくつかあるが、そうなのかどうなのかはっきりしない。それに、今ここでそれを口にしたら、シュウの作戦をバラすことになるかもしれない』
『わかりました。今は見守ることにしましょう』
そのうちに2機は高度200メートルを越える。
ここでゼッケン1はさらに急角度で上昇。
ゼッケン7もそれに負けじと急上昇を始めた。
2機の距離は400メートルほど。
ここでゼッケン1は緩やかに右に進路を変更。
つまりゼッケン7の側面を狙えるポジションに付いたわけだ。
『ジン様、ゼッケン1はこれを狙っていたのでしょうか?』
『うーん、どうだろう? これ見よがしな気がするんだが……』
こういう場合、『シザース』に入ることが多いが、ゼッケン7はそれをしなかった。
『ゼッケン7も左に転舵しました!』
『正面から迎え撃つ気かな?』
しかしこれは接触事故、あるいは相討ちになるリスクが高い。
双方それを承知しているが、進路を変更する気配はない。
『まさか、ぶつかるのでしょうか!』
『いや、違う。……真正面というのは、最も投影面積が小さい。つまり被弾しにくいともいえる。ここで転舵すると、相手の方が有利になってしまう。だから双方進路を変えないんだ』
そして2機はギリギリの距離ですれ違った。
上昇中の速度なので相対速度は時速200キロ程度。それでもかなりの高速である。
『シザース』っぽい機動であるが、『シザース』とはいえない。
どちらもギリギリですれ違うために操縦に専念し、射撃は行わず。
だが、すれ違った直後、ゼッケン1は宙返りを半分行い、方向転換した。
対してゼッケン7は上昇をやめて降下に移った。
そのため、宙返りをしてさらに高度を稼いだゼッケン1との距離が再び開く。
ゼッケン1はゼッケン7を追う形で降下に移る。
そしてついに、ゼッケン1はゼッケン7を射程距離に捉えた……が、まだ撃たない。
『なぜでしょうか、ジン様?』
『2秒というタイムラグを恐れている……のかな?』
『恐れる……ですか?』
『連続射撃ができない以上、予測射撃をしなければいけないわけだ。その予測ができないんだろう。無駄撃ちも避けたいところだしな』
ここぞと思った時に短く射撃をする……というのが理想なのだろうが、なかなかそうはいかない、と仁は説明した。
『そういう意味でも、今回の射撃に関する規制はちょっと厳しいかな?』
『そうかもしれませんね。これを教訓として、次回に生かしたいと思います』
だが今注目すべきは、現在進行している空戦である。
互いに牽制しあって、今ひとつバトルに積極的になれない……そんな感じの2機。
『娯楽的な催しなら、団体戦というのもいいかもな』
『団体戦ですか?』
『そう。飛行機なら、互いの陣地を守る、ということにして、攻撃する機体と陣地を守る機体に分かれて……とかな』
『面白そうですね。次回以降に検討させていただきます』
『そうだな。……お、動きがあったぞ』
水平旋回で互いの様子をうかがっていた2機だったが、ゼッケン7がしびれを切らしたか、急上昇を始めたのである。
それを見たゼッケン1は急降下。互いの距離は離れていく。
100メートルほど急降下したゼッケン1は速度を保ったまま引き起こし、上昇に移る。
逆に、急上昇していたゼッケン7は下降に転じる。
急降下の速度を上昇に活かすゼッケン1と、上昇した位置エネルギーを速度に変換するゼッケン7。
2機は互いに向かい合い、距離を詰めていく……。
『また正面からの打ち合いか!?』
『かわすタイミングが鍵になりそうだな』
ぐんぐん近づいていく2機。距離が射撃の限界射程距離200メートルを切ったその時、一瞬早くゼッケン1が進路変更を行った。
次の瞬間、ゼッケン7からの射撃の光跡が、たった今までゼッケン1が飛んでいた場所を通過する。
『おお、絶妙なタイミングです!』
『射程距離に入ったということで転舵したようだな』
ゼッケン1はすぐに進路を戻し、ゼッケン7に機首を向け、発砲。
『おお! ゼッケン7、被弾! ……撃墜判定です!! 勝者、ゼッケン1『スカイハート』!!』
ついに接戦にケリが付いた。
ゼッケン1の粘り勝ち……といえる。
『一瞬の判断が明暗を分けたな。射程距離の限界値を見切ったシュウの勝ちだ』
『そういうことなんですね』
『撃っている間は、基本的に進路が固定される。逆にいうと狙いやすいんだ』
『なるほど……!』
『先に撃った方が隙を作り、それを狙われる。戦闘機同士の戦いは一瞬の判断が勝敗を決める、ということだな』
『本当にそうですね』
そして、2機が着陸すると、両機の健闘を称える拍手が贈られたのであった。
いよいよ第2回戦第2試合である……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230215 修正
(誤)ここで転舵すると、相手に対し有利になる。だから双方進路を変えないんだ』
(正)ここで転舵すると、相手の方が有利になってしまう。だから双方進路を変えないんだ』




