91-23 チキンレース
『『滑走タイムトライアル』が終わりましたので、続きましては第3競技、『急降下チキンレース』です!』
『これはなかなかシビアな競技だな。機体の性能だけでなく操縦技術も問われるから』
『そうですね。単純な性能勝負ではないところが面白いのだと思います』
10分ほどで競技の準備が整った。
海面上30メートルのところに仮想の海面が。
幻影結界を応用した、かなりリアルな海面である。
高度300メートルからこの海面に向けて急降下を行い、仮想海面手前で引き起こした高度差が低いほど高得点となる。
もちろん仮想海面に接触したら墜落扱いで失格となる。
これを3回行い、上位2回の合計で競う。
『さて準備が整いました。トライの順序は第2種目の順位になります。……まずはゼッケン1『スカイハート』!』
既に離陸していた『スカイハート』は高度300メートルまで少し上昇。
高度300メートルの部分にはうっすら輝く平面上の結界があり、その上であればOK。
『それでは、レディ……ゴー!』
『スカイハート』は高度300メートルから垂直降下に移った。
規定によれば、降下角度はプラスマイナス5度。つまり85度から95度までが許容範囲である。
10分の1の模型にとって、300メートルは3000メートルに匹敵する。
降下速度はぐんぐん上がっていく。
『うーん、降下速度を競う種目ではないので300メートルだが、もっと高くからの垂直降下なら最高速度の競い合いもできるよな……』
『ジン様、それも面白そうですね』
『強度不足だと空中分解しかねないぞ』
音速の壁にぶち当たって、と仁。
『そろそろ引き起こしだ』
垂直降下の最高速度は時速300キロを超える。300メートルなど4秒掛からない。
『ゼッケン1、引き起こし! 無理なく水平飛行に移りました! 記録は3.5メートル!』
『まあまあだろうな。最初の飛行ということで不利なのは否めない』
『それがあるので前回の種目での順位でトライするわけですね』
『そういうことだな』
そう言っている間に次のトライが始まる。
『さあ、2番手はゼッケン7『ナイトバード』!』
漆黒の機体が高度300メートルで待機。
『レディ……ゴー!!』
垂直降下を行う『ナイトバード』。
水平飛行速度トップなのは伊達ではなく、ぐんぐん速度を上げていく。
降下時間は5秒以内、という規定があるので、全機最高速度で降下している。
『ゼッケン7、引き起こし! 記録……3.7メートル!』
『翼面荷重が大きいから無理をしなかったようだ』
『やはりこの競技は、機体が軽い方が有利でしょうか?』
『操縦技術にもよるが、まあ軽い方がいいだろうな』
重ければ慣性も大きくなり、コントロールが難しくなる、と仁。
『とはいえ、それも織り込んで引き起こしのタイミングを掴めばいいわけだ』
『それも含め、3回のトライアルができますから、各自工夫しそうですね』
『そうだな。1回目でコツを掴み、2回目3回目で挑戦するとか、1回目2回目は無難にまとめ、3回目で限界にチャレンジするとかな』
『なるほど、わかりました』
そしてトライアルはさくさくと進み、全員が2回目のトライアルを終えるまで20分と掛からない。
ここまでの成績は以下のとおり。単位はメートル。
ゼッケン1 『スカイハート』 3.5/3.2
ゼッケン2 『ブラックサンダー』 4.0/3.5
ゼッケン3 『レッドアロー』 3.8/3.6
ゼッケン4 『シルヴィー』 3.8/3.7
ゼッケン5 『イプシロン』 3.6/3.3
ゼッケン6 『バロン』 3.6/(失格)
ゼッケン7 『ナイトバード』 3.7/3.2
ゼッケン8 『ブルーローズ』 3.9/3.6
ゼッケン9 『ウラカン』 3.4/3.6
ゼッケン10『ティーガー』 3.7/3.2
そして3回目、最後のトライアルが始まる。
『シュウは1回目と2回目をそこそこ上手くまとめているから、ここで少し思い切るかな?』
その言葉どおり、ゼッケン1はギリギリでの引き起こしに挑戦。
『やりました! ゼッケン1、なんと1.9メートル! 2メートルを切りました!!』
拍手が湧いた。
スクリーンで見ていても、手に汗を握るトライアルであった。
『続いてゼッケン7『ナイトバード』!』
『彼も攻めてきそうだな』
仁の言葉どおり、ゼッケン7もギリギリでの引き起こしを狙ったようだ。
『やりました! 1.8メートル! ゼッケン1を上回りました!』
『やるなあ……本当にギリギリという感じだ』
これでゼッケン7の記録は上位2つなので3.2+1.8=4.0でトップに立った。
『次はゼッケン8『ブルーローズ』!』
『2回が無難だったからチャレンジしてくるかな?』
そして仁の言葉どおり……。
『ゼッケン8、引き起こし!……ああっと、惜しい! 幻影結界に接触していまいました! 失格です!』
観客席が残念な結果にどよめいた。
そして次々にトライアルは進み、ラスト、ゼッケン10、シーリーン・エッシェンバッハの『ティーガー』。
『ゼッケン10、思い切った引き起こし! ……素晴らしい! 0.4メートルです!』
『凄いな。……先尾翼だからかな?』
先尾翼……つまり昇降舵が機首に付いているわけで、この場合、機首を上げる力と昇降舵が発生する力の方向は一致する。
通常の機体の場合は、機首を上げるためには尾部を押し下げる力が働くわけで、多少なりとも主翼の揚力を打ち消していることになる。
仁が言ったのはそういう意味で、先尾翼機の引き起こしのレスポンスのよさを評価したわけだ。
これで10機のトライアルが終了した。
ちなみに、『ジーク1』は高度センサーを搭載しているため、ちょっとズルいだろうと考えた仁は、参戦を見送っている。
さて、競技の結果は……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230210 修正
(誤)『ゼッケン7,引き起こし! 記録……3.7メートル!』
(正)『ゼッケン7、引き起こし! 記録……3.7メートル!』




